第12話 どうやって両立させるんだ?

               12


 翌朝、俺は探索者ギルドに足を運んだ。


 カイルに紹介された素泊まり宿は可もなく不可もなくだった。今夜もまた利用するかは今日の稼ぎ次第で考えよう。


 朝一番の探索者ギルドは込み合っていたが掲示板の依頼書の争奪戦が行われているわけではなく単純に出発する探索者が多いためだった。探索者ギルドの通称酒場は探索者パーティーの待ち合わせ場所にもなっているという話は以前もしたとおりだ。


 酒場で集合し受付カウンターに声をかけて探索に出かけていく。


 自分の担当する探索者パーティーが出発していく様子をカウンター越しに職員が相手と何か軽口を交わしながら、にこやかに見送っている。


 昨日同様、ヘレンの前には列はなく彼女に声をかける探索者もいなかったが、ヘレンも立って「行ってらっしゃい。お気をつけて」と誰彼構わず声をかけていた。返事はあまりない。


「お早う」と俺はヘレンの前に座った。


「ギンさん、お早うございます」


 何故か、にんまり、とヘレンが笑った。


「何?」


「いえ。いいですね、自分が担当する探索者と朝の打合せを行うのは。久しぶりです」


 ヘレンは嬉しそうに言うと自分も椅子にどかりと腰を下ろした。あまり優雅ではない。


「何かいい依頼は?」


「ギンさんはFランク探索者なので定番ですが、やはり薬草採取が良いと思います」


 特定の種類の薬草を既定の数量採取して納品するという異世界物定番のお仕事だ。


 一日頑張れば素泊まり宿と食事代ぐらいにはなるらしい。薬草はポーションの原材料だ。


 実際には薬草の種類により採取部位が葉であったり花であったり根であったりと色々異なるのだが、例えばある薬草が十本一束で納品処理されるとしてそこから何本のポーションができるのだろうか?


 薬草中に薬効成分がどれだけあるのかは知らないが普通は煮たり絞ったり濃縮させたりという行程を通過する気がするから目減りをするはずだ。十本程度では液体の薄い色付けにしかならないだろう。


 仮に薬草百本でポーションが一本できるとしよう。


 素人が丸一日薬草の採取に時間をかけたとして、はたして何本の薬草が採れるものか。


 畑でうねの小松菜を百本抜けというならば簡単だが、どこに生えているか不明なまばらに生えている薬草を自然の中から百本見つけるという行為は簡単とは思えない。


 一日頑張って仮に百本採れるとしたら御の字だろう。もっと簡単に見つけられて採取もできるものならば薬師たちは、わざわざ探索者ギルドに薬草採取依頼なんか行わない。


 昨晩の俺の素泊まり宿の値段は小銀貨五枚だった。朝晩の食事に小銀貨一枚ずつかかるとすると一日に最低必要な金額は小銀貨七枚だ。本当は貯金とか探索に必要な物、それこそポーションもほしいので探索者が一日に必要な金額はキリよく銀貨一枚だとしよう。


 探索者は丸一日かけて薬草を百本採取して銀貨一枚の収入を得る。但し、探索者ギルドの手数料は考えないものとする。


 逆に薬師側は銀貨一枚を支払って材料を仕入れてポーションが一本完成する。


 けれども完成したポーションを銀貨一枚で販売したのでは儲けがまるでない。


 ポーションを作るためには薬草以外にも何か混ぜ物が必要かも知れないし容器の仕入れや煮たり焼いたりに必要な費用もかかるだろう。


 諸々ひっくるめてポーション一本を銀貨二枚で販売したい。原価率五割の商売だ。締めて一本二万円也。


 って、誰が買うか!


 一日の収入の倍になる。


 ポーションは本来消耗品だ。


 探索者の一日の支出の内訳で言えば宿泊と食事で小銀貨七枚プラス必要経費小銀貨三枚の経費部分で買う話だ。


 仮に一日に一本ずつポーションを消費するならば最高でも小銀貨三枚より高くては生活が成り立たない。余裕を考えれば一本小銀貨一枚程度までだろう。


 薬師が販売するポーションの値段を小銀貨一枚程度に収めるためには材料費を下げる必要がある。薬草百本に銀貨一枚も支払ってはいられないから小銀貨一枚未満に収めたい。


 そうなると薬草採取だけで生活する探索者の日当たりの収入も最大で小銀貨一枚未満しかなくなるから宿代と食事代で一日小銀貨七枚かかってしまうと・・・。


 要するに、具体的に必要な薬草の本数なり金額をすべて適当な仮定値で計算しただけでも素人が天然の薬草採取で一日生活できるように薬草の買い上げ金額を設定することは普通は不可能だ。


 そう考えると初心者探索者が薬草採取だけで生活が成り立つためにはポーション一本の値段が普通の探索者には手が出ないような高額であるか、薬草採取と言いつつ天然ではなく実際は薬草を大量に生産している農場での日雇いの収穫アルバイトぐらいしか考えられない。前者だったらそういう世界なので仕方ないが、もしも後者であったとしたら例え労働環境がホワイトであろうと死んでまで地道に農場でアルバイトなんかしたくはなかった。


 一体どうやれば初心者の薬草採取で生活が成り立つのか?


 俺は以前から異世界物に対して思っていたそんな疑問をヘレンに確認した。


「薬草採取は新人探索者の定番だって話はよく聞くが薬草一本の買取り金額がよほど高いか数を採取できない限り薬草採取だけでは生活は成り立たないだろ? 安全第一で宿にも泊まれずは御免だぜ。そうなるとヘレンのことはお嫌じゃないが担当者を変えてもらうしかなくなっちまう。どうやって両立させるんだ?」




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 本作品は「カクヨムコンテスト10」に参加しています。


 12月9日現在、総合週間ランキング199位。異世界冒険週間ランキング47位でした。


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 よろしくお願いします。


                                  仁渓拝

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