第7話 分厚い胸部装甲が好きなんだな。
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さすがに小銀貨一枚で今から明日の朝まで酒場で過ごすのは難しいだろう。寝た振りをするにも早すぎる。
ひとまず様子を見てから外で時間を潰して後でまた来よう。他にも夜露をしのげる場所があるかも知れないし。
そう考えて軽い気持ちで探索者ギルドに併設されている酒場に俺は足を運んだ。
ギルドの受付カウンターがあるロビーとは壁を隔てた隣の部屋になる。
一言で言うとフードコートのような広い空間だ。
最奥に代金と引き換えに軽い食べ物や飲み物を渡すカウンターがあり手前に木製のテーブルと椅子の組み合わせが何十も並べられていた。カウンターで支払いを終えた客が自分で商品をテーブルまで運んで飲み食いをする仕組みだった。
正確に言うとこの空間は酒場ではなく探索者同士が打合せをするためのスペースだ。
出発前にパーティーで最終確認を行ったり帰還後に受け取った報酬の分配などが行えるようギルドが用意した空間である。探索者を集めて行う集会等でも利用される。
護衛依頼などで依頼人と打ち合わせを行う場合もあるだろう。
もっと単純にパーティーメンバーの待ち合わせのための場所でもあった。同じパーティーの探索者であっても必ずしも同じ宿に泊まっているとは限らない。
待ってる間に何か飲ませろ、何か食わせろという声があるため軽飲食の販売が行われていた。
当然のように酒がある。本気で飲みたい奴はちゃんとした店に行け、という謳い文句だが探索後の打ち上げの一軒目として便利に利用している探索者も多いようだ。
飲酒の上での刃傷沙汰にならない範囲内での探索者間の喧嘩は風物詩として見逃されているが、あまりに目に余る騒ぎが起きた場合は隣の探索者ギルドから担当の職員が駆けつけてくる仕組みだ。さすがに荒くれ探索者たちでも担当職員に怒られれば静かになるらしい。依頼の斡旋を二度としませんと言われてしまったら街を出るしかなくなるためだ。
もちろん、食うや食わずの新人探索者は俺以外にも多数存在する。寝場所がなくて朝まで酒場で仮眠する仲間たちになるだろう。下手に外で野宿をするよりも酒場は探索者ギルドの中であるため安全であるようだ。探索者に対しては飲食に探索者割引があるので、併設酒場はある意味ギルドの探索者救済施設となっていた。
そんな酒場に俺が足を踏み入れるなり、「おっさん!」と横手から聞き覚えのある声がかけられた。
見ると、部屋の角に一番近いテーブルにカイルたちのパーティーが座っていた。
もちろん、声の主はカイルだ。すっかり俺は、おっさん呼ばわり定着である。
俺が受付に並んでいた時から考えれば既に何時間か経過している。
時間の経過を示すようにカイルたちがいるテーブルには空いた木製のジョッキが十以上も並んでいた。新しい酒を受け取って持ってくるばかりで空いたジョッキを下げに入っていないのだろう。ある程度溜まったらそのうち職員が下げに来るのかも知れない。
他にも軽食の皿がいくつも並んでいるが飲んでばかりで、あまり食べてはいない気配だ。料理が残っている。運んできたまま冷めている物もある様に見受けられた。
早い時間に酒場に入ったのだからもっとカウンターに近い場所に座れただろうに、わざわざカウンターから最も離れた場所である。
部屋の角部分の壁に百八十センチの俺の身長ほどもある巨大な二枚の盾が重ねて立てかけられていた。どうやら盾が他の客の邪魔にならないようにと配慮した席取りらしい。
邪魔にならないようにでありつつ誰にも触らせないためにでもあるのだろう。
そもそも、そんな邪魔な物は飲む前に置きに戻れ、という気もしたが黙っておく。
酒場のカウンターに近い側のテーブルは客で埋まっていたが、この付近のテーブルはまだ空きが多かった。カイルたちの隣のテーブルも空いている。
俺はカイルたちに近づいた。
先ほどは遠目でちらりと目にしただけだったカイルのパーティーメンバーを改めて見る。
黒系統の魔女のような服装の赤毛の女性がテーブルに顔を伏せていた。右手にほとんど空になったエールのジョッキを握ったままだ。眠っているらしい。
分厚い胸部装甲が体とテーブルに挟まれて柔らかそうに潰れていた。
テーブル上の空いたジョッキの位置関係から想像する限り、彼女が一番呑んでいそうだ。
白系統の聖職者のような法衣を着た女性は、ほんわりとした優しそうな表情でジョッキを傾けている。垂れた目元にほくろがあった。
頭髪の右半分が白い髪、左半分が黒い髪だ。染めたものか天然なのかは分からない。
白地の法衣に赤黒い点や線の模様があるのでそういう柄なのかとよく見たら乾いた血の跡だった。返り血なのだろう。まだ新しい染みと古そうな染みが混ざっている。
まさか洗ってないのか?
確かに手の込んだ刺繍が施された法衣は素人が簡単に洗えるような服ではなさそうだ。
本来であれば何らかの儀式でだけ着るような衣装であり酒場で着るような普段使いの服ではない。もちろん探索にも不向きだ。おまけにちょっと臭う。
そんな法衣を分厚い胸部装甲が内側からはちきれんばかりに圧迫している。
座っている椅子には金属製の棘が生えた重そうな
残る一人は絶対に酒場にいてはいけない見た目の童顔で小柄の金髪少女だ。
身長百四十センチくらいだろう。日本だったら十歳女子の平均身長に感じられる少女がジョッキをあおっていた。合法なのか? 少なくとも見た目と実年齢は違うのだろう。
受け付け前の列後方にいた時には、この少女が盾を支えて立っていた。
多分、タンク系の職業なのだろう。彼女の身長で俺の身長ほどもある盾を構えれば全身を完全に隠せそうだ。
盾が二枚あるということは片手で一枚を持てることになる。
衣服や鎧に隠されていて肌は露出していないが唯一見える首筋の筋肉がごつっとしていた。ヘレンにも負けていない。
もちろん胸部装甲も分厚い。合法金髪筋肉ロリ巨乳だ。
三者三様の女性たちだったが共通点からカイルの嗜好は明らかだ。
カイル、分厚い胸部装甲が好きなんだな。
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仁渓拝
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