第41話

「それじゃあ、みんな心の準備だけしておいてね。いきなり撮り始めるかもしれないからねっ!」


「ういっすーーーっ!」

「いつでもいいよっ! ドンと来いだよっ!!」


 マナの号令に、みんな力強く頷いた。それぞれの瞳に光が灯っているのを感じた。気合いだけじゃ、バズれないと言っておきながら、十分にみんなをヤル気にさせただろう。

 さすが、僕の幼馴染だ。



「じゃあ、動画の企画を考えるから、今日のところは解散しよう!」



 そういうことならと、僕たちは気合いが入った状態で学校を後にした。きっと明日には心の準備もできていつでも生配信ができてしまうだろう。



 ◇




「じゃあ、私たちは二人で作戦会議しよっか!」

「う、うん?」


 皆には心の準備をしておいてと言って気合いを入れさせて。そして、自分は企画を考えると言っていたのだが、マナは僕の家へとやってきた。自然な流れで「ちょっと寄ってくねー」って言いながら。


 学校での引き締まった表情から一転して、嬉しそうなニヤニヤした顔をしたマナが口を開く。



「ねっ、恭介。久しぶりに二人っきりだねっ!」

「そ……、そうだね? 動画の企画を考えるって言うものだから、マナが一人で考えるものだと思っていたんだけれども、今日は何用で……?」


「動画企画を考えるのもそうだけどさー、ちょっとくらい良いじゃんっ! 久しぶりに、ちょっと話そうよっ!」

「まぁいいけども……」



 マナは、僕の手を引いてベッドへと座らせる。座った後でも手を握りっぱなしだった。何だか距離が近い気がするし、こんな状態で何の話をすればよいというのだろうか? マナがリフレッシュするような話でもすれば良いのかな……?


 僕の考えをよそに、マナはウキウキしながら話始める。



「今日も学校楽しかったねっ! 学食のかき氷とかって食べた? 今の時期限定のヤツ!」

「い、いや? まだ食べてないけども。あれって、すぐ売り切れちゃうんだよね」



 マナは、本当に動画とは関係のない話を始めてきた。その話を皮切りにして、しばらく何気ない学校の話が続いた。時間が無いと言っていたけれども、これも皆を救うためのリラックスタイムと捉えれば良いのかもしれない。


 話をするごとに、段々と距離が近づいている気がするけれども……。

 お互いの太ももは触れ合っており、繋いでいた手は腕を組む形に変わっていた。



「それでさー。恭介は結局どういう子がタイプなの?」

「……ほぇっ? 唐突にどうしたの?」



 マナは小首をかしげながら、上目遣いに聞いてくる。


「やっぱりギャル系が好きなのかな? それともお姉さん系?」

「いや、僕としてはどちらも違うと言いますか……」



 少し不満そうな顔になるマナ。ギュッと腕を抱き寄せて身体を押し当ててくる。


「ふーん。じゃあさ、尽くしてくれる女の子とかが好き?」

「そ、それはまあ、良いと思う、かな……? それを悪いと思う男子はいないと思うよ……?」


「違うの、恭介の意見が聞きたいのっ!」



 マナは、ぷくっと頬を膨らませた顔をした。表情がころころ変わるところは、昔から可愛いとは思っていたけれども、こんな風に怒って見せるのは初めてのことだった。


「色んな女子がさ、恭介の周りに寄って来てるじゃん……? 私だって焦ってるんだよ……?」

「う、うん……」


「みんなを助けたいっていう恭介の気持ちは尊重したいの。だから私も全力で頑張りたいの」

「ありがとう。マナが傍について協力してくれて、すごく助かってるよ。最高のだって思う!」



 マナの眉がピクッと動いた。


 ……と、思った瞬間。僕はベッドへと倒された。



 マナが馬乗りになる形で、僕に跨ってくる。


「私のこともとして見てよっ!」


 コロコロと変わっていく表情は、今度はいつになく真剣な表情となっていた。本気の表情だ。



「私はふざけて好きって言ってるんじゃないからね。本気だから……」

「……うん」


「……って、そんなに迫っても、逆に引いちゃうよね。けど、本気だから……」

「……うん」



 マナは、今にも泣き出しそうな顔をしていた。そして、俯いてしまった。


「私のことを見て欲しい……。……そうだっ!」



 何かを思いついたのか、マナは目に涙を滲ませたまま、明るい顔になってこちらを見てくる。


「私もやる気にさせてよっ! もしも、全部うまくいったら、私と付き合って!」


 条件を出してくるときは絶対に守らなければならない。昔からの僕とマナの約束だった。

 上手くいかなければ、みんなが闇の世界に引きずり込まれてしまうという状況なのに。そんな条件を出してくるなんて。



「……卑怯だってわかってる。けど、それが女の子だよっ!」


 そう言われてしまっては、僕は頷くしかない。

 僕の反応に、マナは今日一番の笑顔を見せてくれた。



「ふふ、じゃあ私も本気で頑張るねっ!」


 馬乗りの状態から、僕に抱きついてくる。

 嬉しさの表れだろう、ギューッと強めに抱きしめられる。



「恭介の初めては、私がもらうからねっ!」

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