第40話
「とはいえさー、気合い入れるだけじゃ、どーにもならなくない?」
「たしかにー? 気合いだったら、私は今までもずーーっと入ってたよー?」
ギャルの声が、左右からステレオ音声で聞こえてくる。僕を挟んで仲良さそうに話している。二人で話すなら僕から離れてくれてもいいんだけどな……。
一方で、前にいる二人は理想的なカップルのように見える。
「結局のところ、全員がバズれば良いんでしょ?」
「マナ、何の動画を撮るか決めてるの?」
相変わらず腕を組んでいるマナとミクの二人。この二人がベストカップルな気がする。もはや、熟練カップルYoutuberのような雰囲気さえ感じる。
このままミクの方からイチャイチャしだすじゃないかというくらい顔を近づけて、マナのことを見ている。マナも引く様子が無く見つめている。おそらく、二人は目と目で通じ合ってるのだろう。
「全チャンネルを横断する動画を撮る」
「全員でコラボをするっていうことだね」
今までのマナは、実力を抑えていたと聞いた気がする。敢えてバズらない方向に動画を仕向けていたと。パッとしない動画を撮って、僕と編集するのを楽しんでいたって。
けど、そんなそのマナが、僕たちの動画をバズらせようと全力で頭を働かせてくれている。それに加えて、もう一つのブレーンであるミクと意気投合しているようだ。
その様子を見ているだけで、どうにか出来てしまうんじゃないかって思ってしまう。
「全員が出演するとしても、今までの各チャンネルの方向性は変えない。各チャンネルの視聴者が期待することをひたすらやっていくのがバズるための条件」
「そう、マナの言う通りだね。やるべきは、今までの各チャンネルの動画を上手く組み合わせること」
なんだろう……。
息が合い過ぎて怖いくらい。二人はこのままキスしてしまうんじゃないかと思ってしまうくらい顔を近くに寄せている。
「ヒナチャンネルの迷惑系なドッキリ」
「リサチャンネルの際どいエッチな動画」
「高橋先生のチャンネルもチェックしたんだけど、ゲーム実況をしていた。実況動画だったよ」
「篠原先生のは私が見た。官能小説を朗読していた」
先生たちは何でそんな動画を撮っているんだと呆れてしまうところもあるけど、今は気にしていられない。
そういう動画だということ認識して、それを合わせるということが全動画チャンネルの視聴者を満足させることに通じる。
つまり、それが、バズらせるための条件。
二人は頬をつけ合ったりしながら笑っている。
最終的には、おでこをつけあって見つめ合い喜んでいるようだった。二人だけの世界のようで、僕なんかには理解できない世界があるのだろう。
「それも、時間が無いから基本的には『生配信』で勝負だね」
「動画編集なんてしてる時間も、もったいない」
二人は見つめ合って、瞬きしあっている。
そんな二人の様子は気にせずにギャル二人が不安な声を漏らした。
「えぇー? なまでするの……?」
「なまなんて、大丈夫なの……?」
ギャル二人が言うように、ドッキリ動画やエッチな動画だと『一線』を超えてしまいそうな気がする。失敗すれば、垢BANは免れないだろう……。
リスクが高過ぎると思われるが、そんな心配は余所に、自分たちの世界に入ってしまった二人は続ける。
「運良く、高橋先生のチャンネルだけ『投げ銭』が解放されているのを確認したから、基本はそこで生配信する」
「そうなれば、メインは『実況』で攻めるっていうことだね」
話がまとまったのか、無言で少し見つめ合った後、ミクは目を瞑った。そしてマナの方へと唇を寄せていく。
その唇に対して、マナは人差し指を当てて制止した。彼女からのキスをお預けする彼氏のような、そんな彼氏面にも見えてきてしまう。そして、マナは顔を離していった。
ミクは名残惜しいような、寂しそうな表情をしていた。
二人の関係って、何なんだろうな……。
定期テストが上手くできた時のような、得意気な表情をしているマナ。こちらを見てニッコリと笑ってきた。
「そう。動画撮るときは、サプライズでゲストが登場するかもしれないからね。それこそ、全員を救わないといけないから」
おそらく、マナは僕のこともコラボメンバーに入れる気だ。バレないようにコッソリ撮ろうって言ったのに……。
「生配信している時は、何があったとしても撮影を止めないからねっ! みんなも、そのつもりで続けてねっ!」
マナの気合いの入った言葉に、みんな深く頷いた。
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