第39話

「恭介が行ってくれた潜入捜査の結果だけど……」


 放課後、いつものメンバーを集めてマナが話し始める。マナの言葉は、どこか重く感じられる。僕の潜入捜査で分かったことが相当重たい事実だったというこということだろう。


 どう言おうか迷っているようだったが、マナは気丈に振る舞うように話を続けた。



「結局、詳しいことはわからなかったらしいよ。なんか動画も撮れてなかったみたいだし。恭介に頼んだの大失敗だったよー、ははは。だから、今まで通りバズりを目指して頑張っていこう!」



 借金を背負うリサとヒナの顔は曇ったままだったけれども、やることに変わりはないと決心したのか、瞳に光は宿っているようだった。



「それならしょうがないねー! 恭介くん、お疲れ様っ!」


「まぁー、恭介くんの勇気はカッコよかったよー! ぐっじょぶっ!」



「は、はい。すいません。こんな感じになてしまって。不甲斐ないです……」



 僕はマナの話に合わせるようにして謝る。みんなの不安を煽ってもしょうがないということで選んだ説明なのだろう。リサ、ヒナはすんなりと受け入れてくれたようだった。

 その中で、一番冷静なミクだけが僕ではなくマナを見つめていた。



「マナ……、本当?」


「うん……。私たちは、まだ動画を撮るしかないみたい。今までと同じく。今までと変わらないけど、絶対にバズらせないと、だよ!」



 マナの言葉は、いつもよりもたどたどしかった。危ない所は伝えないように、かといって正直に話そうとしている印象だ。マナなりの仲間への誠意だろう。

 ミクの瞳は全てを見透かしているようであった。瞬きさえもせずに、マナを見つめたまま返事をする。



「マナが言うなら信じる。この二人をバズらせればいいんだね?」


「……うん!」



 マナとミクは言葉にせずとも、どこか深い所でわかり合っているようだった。長い間苦楽を共にした戦友という雰囲気さえ感じる。

 そんな二人の友情が確かめられたところだったが、僕は申し訳ないと思いつつ割り込んだ。



「……マナ。正確に言うんだったら、先生二人も追加じゃないかな……?」



 マナは一瞬ハッと思い出した顔をした。

 悪徳業者に騙されていたとするなら、家庭科の高橋先生も、保健室の篠原先生も追加だ。闇に片足を突っ込んでしまった人たちは、弱みを握られておそらく闇社会へと堕とされるだろう。身近にいるのだったら、見て見ぬふりはできない。



「……そっか、その二人もか。はあ……、大人なんだから自分でどうにかして欲しいところだけど……」


「やるんだったら、全員を助けないと!」




 マナはやれやれと頭を振る。

 こういう姿は、今までに何回も見たことがある。僕が厄介ごとを持ってきたときに、いつもマナは僕を助けてくれようとしてくれる。今回はお世話になるまいと頑張ってみたけれど、結局マナのお世話になることになりそうだ。



「恭介は、昔っからお人好しなんだからさー」


「そうだよね、マナに迷惑かけっぱなしで。ごめん……」



 マナも決意を固めたような表情になった。霞がかかったような瞳に光が宿ったようだった。



「いいよ。私、恭介のこと好きだからさっ! 私の生涯で一番好きな人だからね!」



 唐突なマナの告白に、みんな固まってしまった。目線だけキョロキョロと動いて、マナを見て僕を見て、マナを見る。


 告白された張本人の僕でさえ、すぐにリアクションが取れなかった。マナからは、いつもの『好き』と言われているけれども、それよりも真剣な言葉。僕の方も真剣に答えないといけない気にさせられる。


 言葉に詰まってしまい、静まり返った空気を壊したのはリサだった。



「……幼馴染って、羨ましいですね! そんな簡単に『好き』って言えちゃうものなんですね! 私だって恭介くんのこと大好きですよ! 世界で一番好きです!」


 そう言いながら、リサは僕の左腕へ腕を絡ませてくる。以前、エッチな動画を無理やり撮らせた時のように強引な掴み方。僕の隣に来ると、マナのことを睨んでいるようだった。



「それ、あーしもだよ。一生懸命頑張ってくれているもんね。あーしの味方は恭介くんしかいないよっ! 大好きっ!」


 ヒナも僕の右腕へと腕を絡ませる。二人とも身長が高いから、囲まれてしまうと圧が強い。ギュッと自らの胸を押し付けてくる感じもして、僕はどうしようもなかった。



「そんなこと言っても、二人の言葉も軽過ぎでしょ、ギャルのくせに!!」


「まぁまぁ落ち着いて。マナには私がついているから大丈夫」


 そう言って、ミクはマナと腕を組んだ。嬉しそうな恥ずかしそうな、初めて見るミクの表情だった。そんなミクの行動に、マナは少し怯んでいるようだった。



「と……、とりあえず! みんなみんなバズるしか道は無いのっ! 気合い入れて次の動画撮影するよっ!」

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