第38話
「お疲れ様ー、恭子ちゃん! 結果どうだったー?」
「うぅー……。その名前は、しばらく呼ばないで……」
朝の教室で、マナは気楽に話しかけてくる。「女装して悪徳業者へ潜入する動画を撮って来て」と、僕のことを
「すっごい可愛かったし、似合ってたよ? バレないで潜入できたんじゃない?」
「それはできたけどさ……。危ない業者だったから色々されそうだったんだからね……。すっごく怖かったし……」
マナは僕の両手を握って、嬉しそうな顔で見つめてくる。僕をイジめて楽しんでいる気もするし。そんな気軽に潜入させて良いところじゃなかったんだけどな……。
「怖かったよねー、けど頑張ったよ恭介! そんな動画が欲しかったんだよ。闇業者は怖い方が盛り上がるよ! でかしたっ!」
マナはウキウキした口調で返してくる。
そんなに撮りたかったら、マナ本人に行かせてやろうかと思っちゃうけれども。流石にそれはダメか。僕は幼馴染のマナも含めて危険が無いようにと引き受けたわけだし。とりあえず証拠となる動画は取れたから、これで僕たちのエッチな動画を撮るっていうYoutuber生活も終われるわけだ。
「マナ、あんまり恭介をイジメないでくれよ? 動画撮影の集大成として頑張ってくれたわけだから、飛びっきりのご褒美でもあげないとだぞ?」
そう言ってくれるのは雄太郎。
優しい言葉で僕をねぎらってくれる。今までの頑張りも見ててくれたし。雄太郎だけが僕の心の支えかもしれない。
これで終わりという思いと、怖かった思いが込み上げて来た。感極まって雄太郎に抱きつく。
「そう言ってくれるのは、雄太郎だけだよーー! ありがとうーー!」
「あぁ、恭介は頑張ったぞ。よしよし」
雄太郎の胸はがっしりしていて、抱かれると落ち着く。このまま抱かれても良いとも思ってしまうくらいには安心感がある。これが頼りがいのある男の見本なのかも。怖い男の人を見て来たこともあって、そう感じてしまう。
「まぁ、私からのご褒美はまた今度用意しておくよ。それよりも、動画確認して訴える準備しないと」
「そうか。そういえば、業者の男が気になることを言ってて。Youtuberを集めているって……」
「なにそれ? ちょっと詳しく教えて?」
僕は動画を見せながら、業者で起きたことをマナへと話した。
◇
「それであれば。恭子ちゃん、再度始動しましょう」
「……ほぇ? どうしてそうなるの?」
話を全部聞き終えたマナは、真面目な顔でそう言うのだった。
「昨日撮ってもらった動画を使って、業者と交渉しようとも思ったけれども。全貌がわからないと、私たちの手が通用しないかもしれないって思ったよ。もう少し話に乗ってみる方が良いかもしれないな……」
「え、えっと……? じゃあ、もっと潜入捜査をするっていうこと?」
僕の疑問に対して、マナは深く頷く。
「そういうこと。人気Youtuberを集めてるって、かなり組織的な犯行だと思うの。それも大きな組織」
「ふむふむ……?」
「小さな詐欺集団だとしたら、強気に押し切って契約破棄できたと思うけれども。もしかすると、中途半端に交渉しても負けちゃうかもしれない……」
もしかすると、僕たちは大きな事件に足を突っ込んでしまっているのかもしれない。こんなにマナが真剣な表情をするところなんて見たことが無かった。相当厄介な事態だ。
「恭子ちゃん。私も協力するから、チャンネル登録者数増やしていこう」
「わ、わかった。頑張ってみるよ」
「このことは、一旦私たちの中だけの中に留めておく方が良さそう。他言はダメだよ。リサさんにも、ヒナにも」
「りょ、了解!」
「今まで通り、リサさんの動画収益化を目指しつつ、裏で恭子の動画を撮っていく。恭子の動画を撮るときは基本的に私と二人きりで撮らないとだね」
「オッケー!」
僕はマナと握手を交わした。
どうにかして、皆を助けるためには多分この道しかない。
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