第35話

「……で、高橋先生の肩揉み、どうだったの?」

「……うん。……頑張ったんだけど、とっても難しい事態が発生してね」



 放課後になり、屋上へと通じる階段にいつものメンバーで集まる。メンバーには、黒ギャルの迷惑系YouTuberヒナも加わっている。

 借金返済を目的に、僕たちのメンバーにしれっと入っている。

 ヒナが首を傾げながら聞いてくる。



「んんーっ? ちっひーの肩揉むだけでしょー? 楽勝だったんじゃないのー? ちっひーは口軽かったでしょ?」


「は、はい。ですけども、篠原先生という存在が問題をややこしくしたりで、苦労したんですよ……。けどけど、なんとか聞くには聞けたんです!」



「じゃあ、結果オーライじゃない? 結局のところは、高橋先生が使い込んでたとかいうオチじゃないの?」


「そうでは無いらしくて、なんと言えば伝わるか……」



「……?」

「……??」

「まどろっこしいから、結論だけお願い、恭介!」



 マッサージのところだけは話したく無くて、ぐだぐだと芯から外れた話ばかりをしてしまった。


 マナに言われた通り、高橋先生から聞いた最後の方だけを話すことにした。



「あの……、僕もYouTuberになることになりましたっ!」



「……?」


「……??」


「……はぁ? やっぱり、きちんと話して。流石に理解が出来なかった」



「う、うん」




 ◇




 高橋先生と篠原先生は、元YouTuberらしいこと。


 教師の給料だけじゃ生活出来ないと、周りの先生達に相談したらYouTuberをやったら良いと言われたらしかった。それが数ヶ月前だったこと。


 二人とも知識は無かったので、相談したら教えてもらった業者にチャンネル開設をしてもらったこと。


 それぞれ、丁寧に話した。




「はぁー……? なんか、ムズかしい話ー……?」

「ということは、高橋先生と篠原先生も、その業者に騙されてたわけですか?」



 頭にハテナが浮かんでるギャル二人にも、かろうじて通じているようだった。


「そうらしいんです。それ以上は二人を追求しても何も出てこなそうでして」



「なるほど。それであれば、業者に追求していく必要がありそうだね」

「確かに、その通りかも。業者が最重要容疑者」



 勘の良いマナとミクには、しっかりと僕の話が通じていそうだ。そこまで通じていればと、僕が単独で決めた作戦をみんなに話す。



「なので、僕が潜入捜査してきたいと思いますっ! 『YouTuberになる』と言って、業者に会って、問い詰める。それで、みんなから集めたお金をどうにか回収してこようと思いますっ!」



 恐らく、僕の考えうる中で一番の作戦だと思った。女子ばかり狙ってる業者であれば、きっとをターゲットにしている新手の詐欺業者だろう。


 この中で、一人だけ男子の僕がやるしかないと思う。だからこそ、僕は男らしく潜入してこようと考えた。


 男らしく、ハッキリと宣言してみたのだ。



 みんな僕のことを、あんまり男として見てくれて無さそうなので、名誉挽回できるだろうと思っていたが、みんなはキョトンとしているようだった。




「潜入は良いけど……。もちろん、それを動画にするんだよね?」



「……えっ?」



 マナから指摘をされて、僕はキョトンとしてしまった。


「業者が悪者と分かれば、こんなに面白いことなくない? とことん悪を暴いてやろうよっ!」


「それ、いーじゃん! あーしたち騙されてたわけだし、ガンガン晒してこっ!」

「私も、お金返してもらいたいですっ!」


「こっちは騙されたわけだし。転んでもタダでは起きないマナさんらしい。これ動画にしたらウケると思う」



「動画を撮ってくれば良いんだったら、撮ってくれば良いのかな……? 証拠にもなるだろうし……?」



 みんなの意見に乗る形で、僕も了承する。ちょっと負荷が上がるけれども、高橋先生のマッサージを上手く乗り切った今の僕なら出来るという自信もある。多分、大丈夫だ。うん。



「けどさ、男子が潜入すると印象良くなさそうだよね。恭介、女装して潜入ね。今までのYouTuberもみんな女子なわけでしょ?」


「は、はい……? 多分、今までは女子だと思うけれども……。僕は、普通に潜入しても良いのでは……?」



 マナの提案に、他のメンバーもなんだかニヤニヤと乗り気になっているようだった。


「大丈夫だよ。初めはみんな分からないことだらけだから。教えてあげるね。下着の付け方とか、スカート履いてる時の所作とかっ!」


「それ、あーしも手伝うよーっ! 恭介くんの女装可愛くなりそうーっ!」


「せっかく女装するなら、カメラテストもしよ。大丈夫、可愛く仕上げるから」



 乗り気な女子たちを止める術は、今の僕には持ち合わせていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る