第31話

「はーーーい! これで授業終わりぃー!」


 高橋先生がそう言って、授業を終えた。手持ちのノートをパタンと閉じて、首をコキコキと右へ左へ動かす。


「はぁー……、今日も肩こったぁー。あたしってば、先生向いてないんじゃないかなー?」


 高橋先生は、やたらと肩がこるらしい。おそらく理由は誰もが分かっている。高橋先生の胸が大きいのだ。どうも肩がこり過ぎるようで、授業終わりには、肩もみする男子を募集したりする。

 先生から指名してもらいたい男子は多い。それは噂話で聞こえてくる。先生が適当に指名する。


 いつもなら。


 先生が指名する前に、僕は率先して手を上げた。


「た、高橋先生っ! 今日は僕が肩を揉みたいですっ!」


 周りの男子から、睨まれているのが分かる。

 だが、これもリサを救うためだと、自分に言い聞かせて強引に進めようと勇気を出した。僕のことを見ていたマナは、うんうんと舞台袖にいるような師匠面をしているようだった。


 なんで僕がやらなきゃいけないんだとも思うが、動画作成メンバーの中では、男子である僕しかこの役をできる人がいないのだ。


「おっ。せんきゅー! やっぱり男子に揉んでもらわないと、肩こりとれないんだわー」



 職権乱用に聞こえるけれども、高橋先生はそんな気は多分ないのだと思う。単純に男子くらいの力が無いと、マッサージにならないのだろう。


「あたしさー、豊胸手術の逆やろうと思ってるんだよねー。これ、肩こってしゃーないのよ」


 高橋先生は自身の胸を両手で持ち上げて、たゆんたゆんと揺らす。率直に言って、デカイ。男子たちが僕のことを睨むくらいには、デカイ。わかってはいたけど、間近で見るとデカイ。


 手を上げて立候補した僕は、先生の肩を揉むのだけれども、一つ提案をしなければならない。



「か、肩がこっているようなので、本格的にマッサージをしたいのですけれども。保健室に一緒に行きませんか……?」


 すべてが棒読みになってしまったが、僕は高橋先生を保健室へと誘う。こんなことを言うと、勘違いして暴れ出してしまう男子が出てきてもおかしくないだろう。殺気立った視線が、僕に突き刺さってくる。



「ほぉーー? そんなにマッサージ上手いのか? じゃあ、ほいほいついていっちゃおうかなー?」

「は、はい! お願いします!」


 先生からいやらしい目で見られた気がしたけれども、僕は任務遂行をせなばならない。なぜならば、できなかった場合は、マナにもどんなことをされるか分かったものではないから。

 昔、マナとの約束を破ってしまった時には、散々な目にあったから……。


 ビビってしまうから、すぐに行ってしまおう。



「それでは、先生! 行きましょう!」


「おー。よろしく頼むー! ちょっとくらいなら、触っても許してやるからなー!」



「……ッオイ! 恭介! お前っ!!」

「……後で覚えてろよ!」


「恭介くんって、見かけによらず大胆なんだー」

「大人しそうに見えて、意外とやり手だねー」


 男子の強い言葉と、女子からの冷たい言葉を一身に受けて教室を出る。すると、高橋先生はすぐに追いかけて、僕の手を取った。


「恭介ー、あせらなくていいよ。せっかくなら、じっくりと入念にお願いしたいぞーーっ!」



 ◇



 保健室に着くと、保健室の先生が迎えてくれた。


 僕と高橋先生が手を繋いで保健室に来たことに対して、不思議そうに見てきた。


「えっと、何の御用でしたっけ……? 二人で手を繋いで……?」


「あ、あの。ベットを一つ貸して欲しいです」

「そうそう、詩織ちゃん。今から恭介が、あたしをしてくれるんだって」


 大人しそうに見える保健室の先生。名前は篠原詩織だったと思う。高橋先生と同じくらいの歳だからか、仲が良さそうに見える。黒縁眼鏡の中で高速の瞬きをして、下がってもいない眼鏡を何度も上げていた。



「え、えっと? その? そういう行為は、あの、ここじゃなくて、ホ、ホテルとかで……」


「あー? 時間がかかったら、やっぱりダメなのか、ココって?」



「い、いや、時間とかの問題じゃ……。不純な行為は、学校では……ちょっと……」


「はぁーっ? 不純じゃないだろ。私は真剣だし、恭介も真剣だし? なぁ、恭介?」


「は、はい! 僕は真剣にさせて頂きます! 全力で頑張ります!」


 僕の答えに、篠原先生は力が抜けたようだった。


「ほぇほぇ……。私は、どうすれば……。性が乱れて……」

「保健室の先生らしく、一緒にやってもらっても構わないぞー。いっつも湿布だけしかくれないしさー? それじゃあ、借りるよー!」


「わ、わかりました。そこまで言うなら、私が責任をもって見届けます!」

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