第29話
「ちょっと、一旦カメラ止めようか。それって、どういうことなの?」
「……え、えっとー、言った通りですよ? 借金返さないと。夜のお店で働かないといけなくって」
マナには止めろと言われたけれども、事前に相談されていた通り僕はカメラを回し続ける。カメラが止まったと思って、リアルな雰囲気で話せるのではないかというマナの仕掛けた作戦だ。
リサが少しリラックスしたのを確認すると、マナが再度質問をする。
「借金を返済するって、何のために借りたの?」
「えーっと、そこのカメラ買ったり。チャンネル開設のための費用だったり。私、そういうのに疎くって、いろいろやってもらったんです」
ぎょっと目を開いて驚くマナ。カメラが回っていると知っているはずなのに、あまりにも素を出し過ぎている気がする。人様に見せられるような顔ではない。変に口が半開きになっている。
「えっ?! チャンネル開設には費用なんていらないよ?」
「ほぇ……?」
「あれー……? チャンネル開設ってお金かからないのー? あーしも払ったよ!」
どうやら、リサとヒナは同じことをしているらしい。チャンネル開設にお金を払っているようだ。
これは、新手の詐欺か何かなのだろうか?
「それ、騙されてるよ。どうしてそうなったの? ちょっと詳しく聞いていこう」
マナは目配せで僕に合図をする。しっかり撮っておけということなのかもしれない。マナの口調は、動画を撮っている時と同様で『司会』のようだった。
「私の場合は、『
「あーしも、同じかも。最初は、遊ぶお金欲しーな値って話ししてたら、Youtuberやらないって誘われて。Youtuber始めたんだけどさ、その後に弟が入院したって聞かされてさー」
なんだか、どちらも怪しいかもしれない。裏に何か大きな闇が関与していそうな……。
頭が良くなさそうなギャルを狙って、詐欺を働いているということだろうか?
「ちなみに、それって誰に相談したの?」
「私は、高橋千尋先生に相談したよ。顧問の先生になってーって相談したよ」
「あっ! 同じじゃん。あーしも、ちっひーに相談したよっ!」
マナは一瞬驚いたような顔をしたが、急に雰囲気が変わった。腕を組んで、何かを見透かすように首を逸らせて二人のことを見定め始めた。まるで、名探偵が謎を解きた時のような。
「まさかの偶然だね。……というよりも、これは必然なのかしら? チャンネル開設のお金を払った相手は二人とも、高橋千尋先生?」
「うん!」
「そう!」
「これは、高橋千尋先生に突撃して真実を確認するしかないね。こんなムチムチな高校生二人を騙すなんてね」
「マナさん、それを言うなら『無知な高校生』です。二人ともムチムチな身体だったけど」
一本取られたなというように、マナは自分の頭を軽く叩いた。なんだか、リアクションが古臭過ぎる。マナの頭の中は、古いテレビ番組で一杯なのだろう。
「おっと、失敬。けど、これはなかなか良い企画になるんじゃないでしょうか?」
「名探偵マナの謎解き企画。良いかもしれない」
マナとミクは、目を輝かせてカメラの方へと向いた。今日の企画『迷惑系Youtuberヒナを丸裸にしよう』はどうするつもりだろう?
「……っはい。ということで、ヒナさんを丸裸にしてみたところ、なにやら黒い陰謀が渦巻いていることが見えてきました」
「んー? なにその動画的な喋り方?」
「ヒナさん、もしも借金を返す必要が無いと分かったら嬉しいですよね?」
「そりゃそうだよ。当たり前じゃん」
「例えば、弟くんの病気も『嘘』だと分かったら、これ以上嬉しいことは無いんじゃないですか?」
「あー……? あったりまえじゃん。心を痛めてながら迷惑系Youtuberやってたのも、弟のためだっつの」
マナはカメラの方を向いて、ニコニコと笑顔を見せる。口パクで「今、撮ったよね?」と言ってる。僕はいつものように、カメラマンの役割として、うんうんとカメラを頷かせる。
毎度のことだけど、ヒナのやり方は容赦ないというか、えげつないというか。
「それじゃあ、その二つ、『借金』『弟くんの病気』どちらも解決できるとしたら、私たちの動画に一生出ても良かったりー?
「ははっ。んなことあるわけないじゃん! いいよいいよ、解決できるなら出てあげるよっ! そんなことがあれば、私のこと好きにしてよーっ!」
「はい。言質取れました。今度は、本当にエッチな動画でも撮ってやろっかな。はは」
「はははは、冗談。ありえなさすぎ。ウケるーっ!」
「でしょでしょ。違うか、今度はヒナさんの家で豚骨ラーメンでも作るのが良いかっ! はははっ!」
笑い合うヒナとマナ。とても楽しそうな映像は撮れた。けど、この動画は、どこまでを編集して公開するのかな……?
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