第28話
「さて、あらためまして。制服を着てもらった、迷惑系Youtuberのヒナさんです!」
「どーもー、ヒナでーす!」
「良い肉体を堪能させてもらって、ありがとね。視聴者さんも、きっと楽しんでいたことでしょう」
「気に入ってくれた人は、あーしのチャンネル登録もよろしくねっ!」
自分のチャンネルを宣伝しようとカメラの前に出ようとするヒナ。それを、他の三人で引っ張って止めている。打ち合わせには無かった部分なのだが、この連携ができるのはなかなか息が合っている。
「はい。そんなヒナさんをゲストに迎えて、今日は女子トークをしていこうと思いまーす!」
司会進行をするのは、マナの役割のようだ。
狭い僕の部屋にて、女子四人がベットの上を占領する形で座っている。できるだけ全員が画面の中に入るようにと、僕はできるだけ離れて撮っている。狭い部屋なので、動かれるとどうしようもないのだが、みんな前へ前へ出てこようとしているのが伝わる。カメラが大好物らしい。
「さてっ、気を取り直して! 今日はゲストのヒナさんのことを、丸裸にしていこうと思う企画です」
「才ープニングから文字通り『丸裸』にされたけどね。あれ使えるの? BANされない?」
「はい。ほぼカットなので大丈夫でーす。もしも見たいっていう人がいたら、私たちの方のチャンネル登録しておいてね。いつか黒塗りで投稿するかもですー!」
「はぁーっ? 私の裸で釣るの? ズルー!」
「これもコラボですから。迷惑かけらたので、精神的損害はたっぷりと搾り取っていきまーす」
「ひどっ! 極悪非道っ!」
罵声を浴びせられた三人は、ニコニコした顔でうんうんと頷いていた。きっと、ヒナが悔しがる姿が楽しいのだろう。女子って怖い……。
「そうは言ってもね、実際に裸にするわけじゃないです。ヒナさんにいろんな質問をぶつけてみて、内面をさらけ出して頂こうという企画でございます!」
やけに慣れているしゃべり方をしている。テンポの良い口調でマナの進行は進められていく。
そういえば、マナは小さいころから物怖じしない性格だった。こうやってテレビやラジオの司会者の真似事をすることが好きだったような気もする。
そして、軽快な口調から繰り出されるのは、マナの性格通りのSっ気の強い質問だ。
「それでは、最初の質問です、ヒナさん。……ズバリ、スリーサイズを教えてくださいっ!」
驚いた顔をするヒナ。内面を聞こうって話し始めておいて『スリーサイズ』なんて……。
ヒナ以外は相変わらずニコニコしている。動画用のスマイルということじゃなくて、心の底から笑っているのかもしれない。
「じゃあ、はいっ! 喜んで答えますっ! 上から、バスト88、ウェスト60、ヒップ90です!」
「はっ!? お前ずるっ!!」
「そんなにあるの? ウェストは嘘でしょ?」
ニコニコと聞いていた面々は、今にも殴り掛かりそうな勢いでヒナに詰め寄っている。自分が質問したはずなのに、怒るのはいかがなものかとは思うけど。
「さっき触ってたじゃん。そのくらい大きいのっ!」
「嘘つけよーっ!」
「これは何かの違法です!」
詰め寄るマナとミクとは対照的に、リサが余裕の顔で答える。
「それって、私と大体同じですねっ!」
自分の胸を両手で揉みながら、口を開く。
「私のスリーサイズはですね。上から、えーっと……」
「ダメダメダメ! リサさんのは聞いたらショックで倒れちゃうのでダメです。この話題は以上! 恭介、今の部分は全部カットでお願いっ!」
「……うん」
僕の頭にインプットされてしまったのは、どうにか忘れる努力をしようかな……。
「……っはい! ということで質問していきます!」
上手いこと編集点を作ってくれたのだろう。ここから仕切り直してということらしい。
「それでは質問です。ヒナさんは、どうして迷惑系Youtuberをやっているんですか?」
「あー、そういうことを聞きたい系かー。あーしは、弟の手術代を稼いでんの」
「……と、言いますと?」
「なんか入院しちゃってさ。うちって、親もいないようなもんだし。あーしが稼がなきゃって」
画面の中からはニコニコ顔が消えていき、重々しい空気が流れ出した。その空気を感じ取ってか、マナは話の方向性を変え始めた。
「うんと……、なんだか重そうな話に進みそうなので、話題を変えようかな?」
「じゃあ、あーしから逆質問! そういえば、リサっちがYoutuberをする理由を聞いてないんだよね。なんで、そんなにバズろうとしているの? 気になっちゃうなー!」
ヒナから質問を受けたリサ。明るい顔で答え出す。
「私はですね、借金返済するためですっ! 12月までに動画を収益化して返済しないと、夜のお店に売られちゃうのですっ!」
ニコニコするリサ。
それ以外のメンバーは、口をがくがくとさせている。
「ええぇぇぇーーっ!? 初耳なんだけど、なにそれっ!? こんな呑気に動画撮ってる場合じゃないじゃんっ!! 売られるって、それ違法でしょっ!?」
「だから、私はバズりたいのですっ!」
本当なのか冗談なのか、顔の前でダブルピースを浮かべるリサ。無邪気な表情が可愛かった。
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