第27話

「恭介は目を瞑っててね」

「うん。これは見せられない」


 僕の部屋に着くと、早速動画を撮影する準備が進められた。

 企画としては、ヒナのことを深く知ろうという趣旨のもとに、「迷惑系Youtuberヒナを丸裸にしちゃおう!」ということらしい。帰り道でうっすら聞こえて来たとおり、オープニングは文字通り「ヒナを裸にして撮影する」ようだった。

 ヒナも乗り気で脱いでいくようで、その音だけが聞こえた。マナとミクにその様子を撮影されているというところだ。


「えーーっ? 恭介くんが撮ってくれるんじゃないのー? 話違くないー?」


「さすがに裸姿は見せちゃダメでしょ。……意外と胸大きいし」

「不純異性交遊になるので絶対ダメです。……胸の形も綺麗ですね」


 僕はというと、「絶対に見ないように」とお達しを受けて、壁の方を向かせられている。自分の部屋だというのに、部屋の端で壁を見つめている。女性陣が楽しんでいる声だけが、すぐ後ろから聞こえてくる。


「コラボ動画したからさー、ついでにリサっちも裸になってよ?」

「うーん。それは動画の趣旨と違ってくる。ダメ」



「カットになっても良いからさー、私だけじゃさすがに変じゃない? 集団から、イジメられられてるみたいに見えちゃうし。せっかくならリサっちも脱いじゃおうよー?」

「あ、はい。いいですよ! もう半分脱いでますよー!」


 スカートのチャックを降ろす音とか、脱いだ服を床に置く音とか。脱いだ服を置いた時に生じたであろう風がダイレクトに感じられる。本当に、すぐ後ろで脱いでるんだ……。

 そもそも、この部屋はそんなに広くもないのに、女子がこんなに入ること自体が間違っている気もする。僕が見ないようにするなら、部屋の外で待ってるっていう手もあった気がするんだ


 それに、垢BANに気を付けるから過激にしないって言ってたのにな。人が多くなると、制御が効かなくなっちゃうんじゃないかな……。


 そう考えていると、後ろから背中を叩かれた。


「恭介くん。オープニングはやっぱり白い壁を背にする方が良い気がするんです。場所変わってください!」


 リサの声だ。

 裸の状態であろうとも、緊張なんてしないような声をしている……。


「ほらほら、目を抑えててあげますから。移動です、移動!」


 そう言われて、リサに目を抑えられる。もちろん自分でも目を瞑っているのだけれども。念には念をということだろう。


「絶対見ちゃダメですよ? ヒナさんの裸、すっごい刺激的ですから。すごいナイスバディです」


 絶対ダメという気持ちの表れだろうか、目を抑えてくる手がとても強い。もっと力が入るようにと、ぐいぐいと身体を寄せてきて、僕の背中に身体を押し付けてくる。感触は『生』だ……。


「こうすれば、万が一にも私の裸は見えないですし、良い作戦じゃないですか?」


「いやいや、後で編集するときに見えるんじゃん? それなら、今のうちに見てたらよくない? むしろ、編集の時間削減のためにさ、見ときなよ?」


 過激派の発言はヒナだ。リサが押さえつけている手をどうにか剝がそうと、揉み合っているようだ。


「ダメですよっ! そんなにいっぱい見せちゃったら、恭介くん困っちゃいますよ!」

「いーや、ダメ。見て。見せるために私はここに来たようなもんだからっ!!」


 リサの力は意外と強いらしく、僕の目は守られている。やっぱり僕は、この場にいない方が良かった気がするんだよな……。


「わかった。リサっちはずっと恭介くんの目を抑えておいてね。私は、そんなリサさんをくすぐる。力だけが全てじゃないんだよー?」


「あっ……。ダメです……。ダメですってば……」


 目を抑えられながら、耳元でリサのセクシーな声を聞かされている。僕は何をされているんだろう……。

 なおも、ヒナのくすぐり攻撃は続いているようだった。


「ほらほら、どこが良いのかな? 裸だから直接触れていいねーっ!」


「あっ、そこ……。そこは、ダメです……ってば……」



 なんで他の二人は止めないのだろうか……。僕は目を瞑っていたら何もわからないんだけども……。

 もしかして、この状況を動画撮影してて、これがそのまま使われるの……?


 そうだとしたら、バズるためには、この状況を止めないようするのが僕の務めなのかもしれない。


「はむはむ。ふふ、リサっちって、すっごく柔らかいねー!」

「……ん。……んんーっ!!」



 これって、あとどのくらい耐えたらいいのだろうか……?

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