第26話
「なんでも言われた通りにするよっ! コラボ動画撮ろうよっ!」
ヒナが来たことで、一瞬にして不穏な空気が流れた。
こちらのメンバーは、ヒナとのコラボ動画がトラウマになっているらしい。豚骨ラーメンは相当臭いがきつかったと思う。僕もそうだったけれども、あれはすぐに取れる臭いじゃなくて鼻にずっとこびりついた感じがした。
そして、何より制服に臭いがついてしまったのだ。すぐには洗えないので、消臭剤スプレーでどうにか耐え凌いだりしている。
僕でさえそうなので、他の女子からしたらヒナに対して相当怒りが溜まっているだろう。
「……コラボ」
「……ヒナ」
マナとミクの
ヒナからの申し出はありがたいとは思うけれども、僕はリサの動画をバズらせようと決めたばかりなのだ。それにそぐわないのならば、ヒナは撮らないでいた方が良いだろう。みんな嫌な顔をしているし、そんな顔じゃ良い動画は撮れない。
険悪なムードになり過ぎないように、僕から丁重にお断りしようと、ヒナへと一歩近づく。そして、ヒナの目を見て言う。
「気持ちは嬉しいけれども、コラボ動画は撮らなくても、だいじょ……」
「いや、恭介!! コラボ動画撮ってやろう!」
「そう、恭介くん。コラボ動画撮るのが良い!」
僕が断ろうとすると、マナとミクが僕を右腕と左腕を掴んで階段の方へと引き戻した。ついでにリサも僕の肩を掴んでいるようだった。先ほどまでの怒り顔がスッと引っ込んで、張り付けたような笑顔があった。
「コラボ動画に出演してくれるっていうならさ、ぜひ出てもらおうよ。ねっ、ミクさん!」
「マナさんの言う通り、私たちの企画に乗ってもらうのが良い」
「うん。どんなエッチな動画でも、どんとこいだよっ! あーしの動画の宣伝にもなるしねっ! 過激過ぎてBANされたとしても、あーしのチャンネルにはなんの被害も無いし」
ヒナと睨み合う、笑顔の女性陣。
視線と視線が混じり合い、バチバチと火花が飛び散っているように見えるのは僕だけだろうか。笑顔のまま固まっているのは、一番怖い表情かもしれない。
「BANなんてしないよ。そんなことしなくても、いくらでも報復手段……、いや、バズりを狙える動画はあるからね」
「ヒナさんには、どんなことでバズったとしても、後悔しない心の準備が必要」
「いーよ、いーよ! バズるなら、私はなんでも来いだよっ! 望むところだしっ!」
どうやら、僕たちはコラボ動画を撮るらしい。
◇
「中身が伴わなくても、エッチなサムネで釣るのはセーフ」
「そこだけはヒナの言う通りになるのは仕方ない。そこだけ露出させる」
マナとミクが二人でぶつぶつと打ち合わせをしながら歩いている。
動画を撮る場所はというと、なぜか僕の家に決まったらしい。「何があったとしても、家の中なら犯罪にはならない」という謎理論を二人で作り上げていた。
マナとミクは自身のスマホで動画を調べながら会話を続けている、
「どこまでがBANされるかわからないけれども、これはセーフらしいよ」
「『迷惑系Youtuberを丸裸にしてみた』とかも良いかもしれない。サムネ用に、本当に裸を撮影しても、黒い線を入れておけば大丈夫」
そんな会話を聞いて戦々恐々としながら、二人の後ろを歩く。リサとヒナはというと、僕の後ろを歩いている。
「ヒナさんは、やっぱり動画が好きなんですか?」
「あーしは、別に好きじゃないよっ? 動画投稿は、一攫千金を狙ってるんだ! 効率的でしょ?」
「なるほどですね。私も一攫千金狙ってるんですよ。どうしても大金稼がないといけなくて……」
「へえー。それじゃ、あーしと一緒じゃん! 早くバズろーねっ!」
後ろは後ろで、夢物語が話されている……。
もう少し、まともな人がいてくれたら嬉しかったのだけれども……。
マナとミクは帰り道でずっと、黒ギャルにどうやったら仕返しができるかを語り合っていた。
「実際に丸裸にしてもBANされるだけだから、すっぴんを晒させるとか良いかもしれないね。ふふ……、ギャルメイクの下には、どんな顔が待っていることやら……」
「それも良い。隠された内面を探るのも、心に深い傷を負わせられていいかもしれない。初恋の相手を聞いたり。ふふ……、ギャルの初恋は、どんな男子なのか……」
この会話が後ろにいるヒナに漏れなくて良かったと思う。そこを食い止めるのが今の僕の役割なのかもしれない。
一行は僕の家へと向かった。
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