第25話

「恭介のこと好きだよ? 何を今さら? 十年来の片思いなんだけど?」


 放課後はいつも通り、屋上に続く階段へと集まっている。

 メンバーはというと、これまたいつも通り。リサとマナが一つ上の階段に座り、僕とミクが下の階段に座る。


 どこから聞いたのか、マナが僕のことを好きだと発言してきた。十中八九、雄太郎から聞いたからだと思うけれども。

 恥ずかしさの『は』の字も無いような、当たり前というような顔をしてこちらを見て言うのであった。


「い、いや……。もう少し包み隠して欲しかったりもするんだけどな……。そういう告白的なのって、一大イベントなんじゃないかな……?」


「はぁ? すぐ隣にライバルたちがいるでしょ。後れを取ったら負けちゃうの。ただでさえ、いろいろ負けてるのに……」


 マナは自分の胸元へと視線を落とすと、自身の平らな胸をすくい上げるように撫でる。そして、すぐ横にいるリサの胸元を恨めしそうに見つめながら、そちらもすくうように撫でる。相変わらずリサの胸は柔らかそうにゆさゆさと揺れている。


「ちょっと、マナさん! なんで胸触ってくるんですか!? エッチですかっ!?」

「ご利益あるかなって。ご神体みたいじゃん。良い物持ってるんだから、みんなに撫でられなよ。ノーブレス・オブリージュ!」


「ご利益なんて、あるわけないですよーーっ! 何にも分け与えられないですよ!」



 マナからの告白の途中なんじゃないかなと思ったりしたけれども、「そんなの当たり前」といった発言はすぐに流れていった。今日もマナとリサは楽しそうにじゃれ合っている。

 二人は、はしゃぎすぎてスカートがめくれてしまうんじゃないかとヒヤッとする。何回も見せられているから感覚がマヒしてきたところもあるけれども、やっぱり心臓には良くない。


「マナさんは、形は良いんじゃないですか?」

「当たり前でしょっ!!」



 どちらにしても楽しそうで何より。僕の悩みがちっぽけに思えてくる。好きな人しか撮らない方が良いのかなと思っていたのだけれども……。


「はぁ……」


 ため息交じりに向きを変えると、僕のことを真面目な顔で見ているミクと目が合った。


「あれっ……、まさか……。ミクさんも、僕のこと……!?」

「そんなことあるわけない。好きになる要素が無い」



「……ですよね。雄太郎の話のあとだから、てっきりね。ははは」

「……まぁ、嫌いではない」



 そう言うミクは、少し頬を赤く染めていた。僕が驚いて目を瞬いている間にも、ミクは真っすぐこちらを見つめてきている。いやいや、まさかね……。



「それよりも、その二人を撮って。日常のシーンも大事」


「わ、わかりました!」



 カメラの中には楽しそうな二人が映っている。

 協力したいから僕は撮っているんだ。それだけ考えていれば良いかもしれない。僕はただ二人を魅力的に撮って、バズるためのお手伝いをする。好きとか好きじゃないとか、そういうのは関係ない。

 リサが退学しないために協力している。理由は言いたくなさそうだったから、聞かないけど。


 とはいえ、こんな普通の動画がバズるのかと思わないけれども、地道な投稿が実を結ぶっていうこともあるらしいし。

 時間が無いって言ってたから、黒ギャルこと『ヒナ』みたいに過激に攻めた方が良いのかもしれないけれども……。


「……あっ、そういえば。この前、コラボの申し込みをしてきたヒナさんっているじゃないですか? この前の動画はヒナさんのチャンネルに投稿したので、今度はこちら側に投稿する用の動画を撮ったりするのはどうですか?」


 僕の発言に、みんなが振り向いた。明るい反応を示したのは、リサだけで他の二人は顔色が曇ってしまった。


「あーっ!! 確かにそうですね! しましょしましょ!」


「迷惑系Youtuberヒナ……」

「あいつか……」



「えっと、早くバズりたいって言ってたので、どんな手でも使っていくといいのかなって……。ヒナさんも、エッチな動画撮って欲しいって言ってましたし……」



 僕の発言が、またまたみんなの表情を変えてしまったようだった。リサだけが楽しそうにしており、他の二人は怒っているような表情を浮かべた。

 蛇足と思いながらも、僕は付け加えた。


「ヒナさんって、動画映えする身体を持っていると言いますか……」


「……はっ? 恭介、どういう意味? あんな身体が好きなわけ? これ以上、強力なライバルを増やさないでもらいたいんだけど?!」


 マナが僕に詰め寄ってこようとした時、この前と同じような足音が近づいてきた。すぐ階段のところまで来ると、ニコニコと笑ってこちらに言ってきた。



「恭介くん、約束通りエッチな動画撮ってよ! 私なんでもするよっ!」

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