第23話
ヒナに手を引かれるまま、教室まで戻ってきた。
生徒指導の時間が遅く始まったこともあり、教室には誰もおらず静まり返っていた。
夕日が教室の中に差し込んで気ている。昼とは違った雰囲気が教室の中に立ち込めている。
夜が始まる前の教室。ヒナと二人きり。
ヒナは窓際の席まで歩いていくと、ひょいと机の上に座った。スラリと長い脚を上げて、交差させる。その上に肘をつき、僕の方へと向く。
夕日が眩しくてヒナの姿は影になって見え無いが、短いスカートで組んだ脚の根元があらわになっており、奥にある三角形が僕のことを挑発的に覗き込んでくるようだった。
「今からさー、あーしのエッチな動画撮ってよ?」
廊下でも誘われたのだが、そんなことを言われてすぐに「はい」と言えるほど、僕は心の強い人間じゃない。そもそも僕が撮る義理も無いと思うのだけれども……。
そんな考えが頭の中を駆け巡っている。どうにか断る方法が無いだろうか……。
「そ、そうですっ! カメラが無いので撮れないですよ!」
きっと性能の良いカメラが一番の目当てだろう。それを使って、どうにかバズらせたいのだと思う。
あとは、僕みたいに言うことを聞きそうな人を使って、自分好みの動画を撮らせたいというところだろう。
そう思っていると、ヒナは自分のスマホを指差す。
「これで撮っちゃってよ。もしくは、君のスマホでも良いからさ。恭介くんに撮って欲しいんだよ?」
暗闇に染まっていく教室で、ヒナの表情は伺えない。どんな顔をして言ってきてるのだろうか……。僕の回答を聞きもせずに、ヒナはワイシャツのボタンに手をかけていす。躊躇の無い動きで一つ、二つとボタンを取っていく。
「あ……、いや……、撮るなんて言って無いですし……」
ヒナは動きを止める様子が無かった。そのままワイシャツのボタンを外し切ると、今度はスカートの方へと手を伸ばす。
「恭介くんってさ、リサっちのこと、好きなの? リサっちの彼氏?」
「い、いや、違いますよ。僕みたいな男子が付き合える女子じゃないですよ。……最初は告られたって勘違いしちゃいましたけども」
ヒナは僕の答えに笑ったようだった。肩を揺らしながらスカートのチャックを下ろした。ゆるゆると左右にお尻を動かすと、スカートがだらしなく机の下へと落ちていく。
「じゃあさ、私のこといくら撮っても良くない?」
「いや、それとこれとは別の問題で……」
「恭介くんってさ、彼女とか好きな子とかいるの? いないならさ……」
ヒナは机を降りて、僕の方へと近付いて来る。暗闇の中で、段々とヒナの顔色が見えて来るようだったが、僕が思っているような顔はしていなかった。
恥ずかしそうに、下を向いているようだった。
「私のこと、ちゃんと見て欲しいな……。撮って欲しい……」
「そ、そんな迫られても……。僕はリサさんの撮影係なわけで……、それ以外はやっていないと言いますか……」
真面目になったヒナの雰囲気に飲まれまいと、無理やり声を絞り出すが、ヒナは怯まずに続けてくる。
「恭介くんってさ、リサっちのこと、どれぐらい知ってるの?」
「え、えっと……?」
「実は、何も知らないでしょ? なんで動画をバズらせようとしているかとかも知らないわけでしょ?」
「そ、それは……。たしかに知らないですけど……」
「私はさ、迷惑系YouTuberってのやってるんだ。お金のために」
「えっ……!? そんなことしてるんですか?!」
「豚骨ラーメンもそう。人が困ることやるの。そうすると動画が伸びるんだ。それでお小遣いを稼ぐの。それが悪いことって言うのも知ってっけど……」
「じゃ、じゃあなんでやるんですか……?」
「お金が必要なの。弟を養うために」
ヒナは僕にスマホを手渡してきた。今まで動画を撮っていたよう、録画画面が表示されていた。
「……なーんてね。騙された? ははは。私の動画はドッキリとかもあるんだよ」
ヒナは笑いながらも、恥ずかしそうな表情を浮かべているようにも見える。
「昨日の動画伸びてたでしょ? 私は、こういうことしていかないと、動画伸びないの」
悲しそうな顔にも見える。どれが本物のヒナなのだろう……。
「動画撮ってさ、見られてる時だけ、私が生きてて良いんだって実感できる気がするの。ここに居ても良いんだって気持ちになるんだ。再生数増えれば増えるほど、その気持ちが強くなるの。だから、私は何でもする」
その言葉を言うヒナだけは、本物に感じられた。
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