第21話
「はーい、ヒナチャンネルはじめまーすっ! よろしくお願いしまーすっ!」
「よろしくお願いしまーすっ!」
「今日はなんと、コラボっすーー! ゲストは、同じ学校に通うリサちゃんでーす!」
「どうもどうも! リサでーす! お願いしまーす!」
放課後になると、一同は家庭科室へと集まった。コラボを申し出た黒ギャルは『ヒナ』という名前らしく、リサと並んで黒板の前でオープニング場面を撮影している。
今回のコラボは、リサ以外のメンバーは入らないらしい。確かにリサがメインのチャンネルなわけだから、当たり前かもしれない。マナとミクは不服そうに着席して見物している。マナも案外撮られるのが好きだったのかな?
カメラを撮る係はというと、いつも通り僕だ。僕の役回りって何なんだろうな、雑用係って感じだよな……。
カメラの中で、黒ギャルのヒナと白ギャルのリサがニコニコしてこちらを見てくる。制服にエプロン姿というのは、意外と良いかもしれない。
「そうそう! 今日は、カメラさんがついてくれていまーすっ! いつも自撮りだったから、なんか新鮮だよねっ!」
「あれは、とっても良いカメラなんですよー、すっごい高かったですし! あとあと、うちのカメラマンは敏腕ですからね!」
「えーっ、そうなの? 恭介くんって敏腕?」
撮影している時に語り掛けられても、どうしようもないけども……。
しょうがないので、カメラを上下に動かして、うんうんと返事をしておいた。
ヒナは、スタッフいじりをする系のYoutuberなんだろうな……。
「なるほど、なるほど! まぁ、それはそうとして。今日のメインですっ! 今日料理をするのは……。ドゥルドゥルドゥルーー……」
ヒナは、自分でドラムロールを鳴らすようにしている。机の下に一旦潜ると、何かをごそごそと取りだしているようだった。
「よいしょ、よいしょ……」
机の下から、ドスンドスンと大きな骨と思われるものを取り出している。なんだか匂いが強い……。
「あとは、ネギともやしとチャーシュー! あと、特製の麺っ!」
カメラは食材に寄って撮っていく。何だか本格的な食材だな。ヒナは料理系Youtuberっていうことなのかもしれない。
「今日は、家庭科室でこってりラーメン作りまーーすっ!!」
満面な笑みを見せた後、キメ顔なのか小悪魔味がある顔を見せてくる。こういう顔を恥ずかし気も無く作れるというのは、人気Youtuberの証なのかもしれない。
「オーディエンスは、拍手しておいてねっ!」
そう言われたマナとミクは舌打ちをしながら、拍手を送る。おまけにガンを飛ばしているだろうことが背中に感じられた。あの二人を怒らすと怖いと思うんだけれども、ヒナは怖いもの知らずだな……。
今にも食ってかかりそうな殺気を背中に感じながら撮り続ける。
これは、カメラ止めない方が良いかもな……。止めたら襲い掛かりそうな気がする……。
◇
「さて、豚骨をそのまま煮ていくと、すっごい時間がかかってしまうので、骨は砕いていきまーす! 助手の人たちに手伝ってもらいまーす!」
そう言って紹介されたのは、マナとミクだ。
斜めに傾いてカメラにガンを飛ばした姿勢のまま、片手にはハンマーを持って骨をボキボキと折っていく。
非常に怖い絵面になってしまっている……。もしかすると、モザイクでも入れた方が良いのかもしれない。いや、逆に怖いか。
動画には映らないけれども、家庭科室に獣臭さが充満していった。これはさすがに、匂い過ぎかもしれない……。
ヒナ以外のメンバーは、匂いに苦しんでいる。それを見ているヒナは、終始ニヤニヤとしている。
ヒナは、僕に向かってこっちこっちと合図をしてくるのでカメラをヒナへと向ける。
「家庭科室で一番大きいのがこの鍋なので、これで煮ていきまーす!」
砕かれた豚骨を鍋一杯に入れて、火をつける。
しばらくすると、蒸気に包まれた豚骨臭が充満していく。周りにいるメンバーは、さらに顔を曇らせていく。
「あっひゃひゃ。みんな良い顔するね。恭介くん今だよ、撮って撮って!」
「ちょっと、ヒナさん!! これ酷く臭いよ! 窓開けるよ?!」
マナが文句を述べながら窓を開けていく。ヒナは相変わらず笑っている。
「良いよ良いよ。ひゃっひゃー!」
窓を開けると、煮られた豚骨の蒸気が外へと出ていく。その臭いに、校舎の周りを走っていたと思われる運動部がすぐに反応した。
「なにこれっ!? くっさ!!」
「臭いやべーよ!!」
それを見ながら腹を抱えて笑うヒナ。笑いながら僕に催促してくる。
「恭介くん、早く撮って撮って! あれが面白いんだよっ。ひゃっひゃっひゃ! あー、おもしろっ!」
ヒナの悪魔のような笑い声が家庭科室に響いた。
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