第16話

「あっ! あの下着良さそうですよっ! ちょっと見てきますっ!」



 リサとマナは、先程まで僕と手を繋いでいた。僕の両手の自由を奪われていたわけだが、リサは気になる下着があったようで、僕の手を離して店の奥の方へと進んで行った。

 残った方の手はマナと繋いだままでいたが、しばらくすると「……恥ずい」と言いながら、手を離してリサと同じく店の奥へと進んで行った。二人はそれぞれ楽しむようだ。


 二人に置いていかれて、僕は下着売り場に一人残されてしまった。どうしようも無いので、二人の進んだ方へと進んでいく。


 お店の中には、沢山の下着が飾られている。右にも左にも様々な形状をした下着。素材も色もいっぱい種類があるようで、僕に見せるように飾られている気がしてしまう。所々にマネキンも置かれており、それも下着を見せつけてきているようだった。


 やっぱり男子がこんな所に来るのは間違ってたと

 思いつつリサ達がいる売り場へと追いついた。

 ちょうどリサ達はお目当ての物に巡り会えたようで会話をしていた。



「これ、すっごく良くないですか? マナちゃん用です!」

「私も、リサさん用を見つけたところだよ」


「これなんですけど。マナちゃんは、大胆な下着とかも似合うかもですよ? 胸の小ささとか気にせず、大胆にいきましょ! 今日の撮影で着てみましょっ!」


「なっ……おまっ……! 人の胸が小さいみたいに……。ちなみに、リサさんは胸の大きさばかり馬鹿みたいに強調し過ぎだよね? それって下品だから、今度からババシャツ着用で。色はベージュ色で。とっても似合うよ、はははっ!」


 お互いに似合いそうな下着を選んでいるようだ。二人とも笑顔だから、楽しんでいるのだと思う。たぶん……。


「マナちゃん、気に入ってくれたみたいで良かったです!もうちょっと際どいのは、こっちにあるんですよ! 行きましょ!」


 リナは更に奥へと進んで行ってしまった。マナは何かに負けたような顔をして俯いて動かなくなっていた。ご愁傷さまなのかな……?


 とりあえず僕は奥へと行ったりなを追いかけていく。すると、曲がり角の所で何かにぶつかってしまった。強い衝撃と共に、僕は尻もちをついた。


「いたたた……」


「ご、ごめんなさい……」


 ぶつかってきたのは、他のお客さんらしい。その人も目の前で尻もちをついて倒れていた。僕の不注意でぶつかってしまったため、慌てて謝った。


「僕の方こそごめんなさい。大丈夫ですか?」


「全然大丈夫です……」


 目の前の女性は、とても小さな声で返事をしてきた。

 編んだ髪が肩の辺りに垂れている。眼鏡をかけた女性。どこかのOLさんだろうか、大人らしい雰囲気が漂っている。


「いえ、僕の不注意です。こんなところ初めてだったもので、注意散漫になってました……。立てますか?」


 手を差し伸べると、僕の手を取ってくれた。か細くて柔らかい手をしている。今まで強い二人に手を握られていたから、一層弱々しく感じる。手を取るだけで女性らしさが伝わってきた。そのまま力を入れて起こした。


「ありがとうございます……」


 女性が立ち上がると、見たことのある制服を着ていた。もしかして、同じ高校なのかな……?


 声と同じように、か細い身体をしている。華奢な足でぶつかったらすぐ倒れてしまうだろう。僕も人のことは言えないけども……。

 リサやマナとは違って、スカートを短くしていていないからパッと見で、うちの制服だと気付かなかった。あれ、ということは、僕と同じ高校生……?


 それにしても、大人しそうに見える子だけど。もしかすると際どい下着コーナーから出て来たということなのかな……?

 リサが歩いていた方から来たし。そんなことを僕が聞けるわけ無いけども……。


 そんなことを考えて見つめてしまっていると、リサが際どい下着を持って帰ってきた。


「恭介くーん! これ、マナさんに似合いそうじゃないですかー? 大事な部分が全部見えてるんですけど、寄せて上げてくれるんで大きく見えるんです!」


「あ、え、えっと、それは撮影出来ないんじゃないかな……?」


 目の前の女子越しにリサの方へと答えると、女子もリサの方を振り向いた。


「あっ……、聞いた事ある声がしたと思えば、リサさん。お久しぶりです」


「あ、久しぶりーっ! ミクじゃん! こんな所で奇遇!」



 ミクと言われた子は、リサの友達のようだった。


「ここであったのも何かの縁かもだよ! 久しぶりだから、ミクも一緒に撮影しない?」


 ……あれ?

 ……今からするのって、下着撮影だったような?

 ……初対面の子だけども、下着姿を撮ればいいのか?

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