第14話

「恭介くーん! 昨日もばっちりでしたかー?」


 朝の教室で呼びかけられる。それが日課になりつつある。毎朝、リサが教室のドアのところから話しかけてくるのだ。相変わらず元気に話しかけてくる。

 その度に教室中の注目を浴びてしまうので、遠慮して欲しい所だけれども……。恥ずかしい気持ちもあるけれども、同時に誇らしい気持ちも湧いてくる。

 あんなに美少女に話しかけられるというだけで、優越感がある気がする。


 僕も大きな声で答える。


「大丈夫でしたよ、リサさんー! 昨日も良い感じでした!」


「ありがとうー! 私のな動画ー! 隅々までチェックしてくれて、助かるよー! また、放課後いつもの場所で待ってるからね!」


 嬉しそうにするリサ。去り際の返事に、教室中がざわつく。


「やっぱりさ、あの二人って何かあるよな」

っていうと、逆に怪しく感じる……」

「隅々まで見るって、何を隅々まで……?」

「毎日何しているの……?」


 リサは、毎回一言多い気がするけれども……。

 誤解が生じてしまっていない事もない。僕は毎日リサのスクール水着を隅々まで見てチェックしているのだ。いやらしい気持ちがゼロにできるかと言われると、答えは否だけど……。


 心の中で言い訳をしながらも、スマホでリサのチャンネルをチェックしてみる。プールサイドで撮った動画は、毎日同じ時間に投稿している。その結果として、毎日少しづつではあるがチャンネル登録数が増えて来ているのだ。


 マナも覗き込んで来た。


「順調に増えてそうだね。まぁ、まだまだ足りないけどね」


 雄太郎も興味津々に覗いてきた。教室の中では、いつものメンバーが集合した形だ。雄太郎とマナが二人で会話を始める。


「チャンネル登録者数『100人』って数字は、多いのか?」

「全然、少ないよ。まだまだ駆け出しも良いとこだよ」


「これをどんどん増やしていくと、バズるのか?」

「そうね。もっともーーっとチャンネル登録者数を増やさないとだけどね」


「ふーん。けど順調らしいからいいか。なんかお前ら楽しそうだな」

「そんなのは、どうでもいいんだとね。私は毎日恭介の家に行く口実がてきてるから嬉しいんだー」


 マナは、スマホから顔を上げて僕の方を見てくる。ニコニコと楽しそうな顔をしている。マナが僕の家に来ても、何も良いことないんだけれども。マナは家に問題でもあるのかな……?


「マナは無理しなくても良いからね。僕一人でもある程度できるようになってきたから……」

「それは絶対にダメっ! あんな不健全な動画見たら、何するかわからないでしょっ!?」


「あ、あれ? 健全な動画なんじゃ……?」

「不健全だよ、ほどよくムラムラするくらいの不健全っ!」


「……?」

「あの動画を、恭介の部屋で二人で見るとさ。段々と恭介がムラムラしてくるじゃない? それで、いつか我慢できなくなって。近くにいる私に襲ってくるかもっていう作戦なの」


「……??」

「それに気付かれないように、少しづつ動画を過激にしていくの。鍋の中に入れた蛙は、沸騰していくことに気付かないんだってね。気付いたころには……。ふふふ……」


「あ、あの。マナの心の声が全部駄々洩れなんだけれども……?」

「うん! 今日も動画編集を頑張ろうね! 恭介のお母さんにお土産も持っていくからね!」


 マナは幸せそうな顔をしている。目の奥までしっかり笑っている。これは、嘘も何もついていないのだろう。ということは、僕は煮られて食べられちゃうっていうことなのかな……?


 雄太郎の方を見ると、雄太郎は顔の前で手を合わせてお辞儀をした。『いただきます』なのか、『ごちそうさま』なのか、『ご愁傷様』なのか……。

 マナは僕の腕に絡みついてきて、耳に顔を寄せてくる。


「今度、私のエッチな動画も撮ってよね……?」

「え、え、えっと……?!」


「ふふふ。まぁ、もう少し経ってからかな? それまでには、私も勝負下着を用意しておかないとな……」

「う、うん?」


「そうだ! 良いこと考えたっ! そろそろスクール水着の動画も飽きてきたでしょ! 別の動画撮りましょ!」


 マナはニコニコしながら、僕の顔をしたから覗き込んで来た。


「男の子を落とすには、緩急が必要なの。だから普通の制服の動画、デート動画を撮りましょ! ちょうど下着も欲しかったから、下着を買いに行く動画ね!」


 最近のマナは、終始楽しそうにしている。怒られているよりかは良いけれども。リサの目的達成に向かって、ちゃんと進めているのかな。それが不思議でならない。


 僕は聞いてみる。


「それって、リサさんと僕がデートしている動画を撮るっていうこと?」

「うーん。不服だけど、そうね。……けど、二対一でも良いか!? トライアングルデートっていうことにしましょっ!」


 マナは、今日一の笑顔を僕に向けてきた。

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