第12話

「健全、健全!」


 そう言いながら、リサがやっているのは立った状態での開脚前屈だ。スクール水着姿で大股を開いて立ち、身体を前に倒していく。手も脚も長く、サバンナの池に水を飲みに来た草食動物のような、神聖な生物にも見えてくる。

 どんどん前屈をしていき、両手がプールサイドに着くくらい手を伸ばしながら身体を折り畳んでいく。身体が柔らかいようで、手のひらまでぴったりと地面に着いてしまった。


「どうですかー? 身体が柔らかいのが長所なんですよー!」


 確かに、こんなに身体が柔らかい人は中々見ないかもしれない。スタイルの良さからして、小さい頃からバレーをやっていたと言われても信じると思う。


「ほらほら、脚だって曲がってないんですよ?」


 リサはサービス精神なのか、体勢を戻すと身体の向きを後ろにして前屈をしだした。バッチリ撮るのが僕の役目なわけなので、どんな状況だろうとカメラを向けないといけない。



 スクール水着を着ている女子の、立った状態での開脚前屈。それを後ろから見たことがある人がいるだろうか。身体の柔らかい人が前屈すると、綺麗に伸びた脚と臀部だけが見えるのだ。その部位だけしか存在しない生物のように見える。

 ぴっちりしたスクール水着によって臀部周辺が強調されることで、見えてはいないのだが、見えているのと同等のフォルムが目の前にある気がする。多分、目の錯覚なのだろう。たぶん……。


 こんなアングルで、こんなものが映るような動画は見たことが無いわけで。見たことが無いということは、それは十中八九アウトなわけで……。つまりこれはアウトなわけで……。



「リサさん、アウト!! いつもやり過ぎなのよ、全然健全じゃないから!」


 リサの姿を横目で見ているマナ。腕組みをしながら、不服そうな顔をしている。リサは申し訳なさそうな顔をしながら元の姿勢に戻った。


「ウソですよー?! これアウトですか? 綺麗なお尻はアウト……? んー。難しいです……」


「狙い過ぎてもダメなの! 表向きは完全に健全じゃないと、全然ダメ。恭介も恭介だよ。いつまで撮ってるのよ! 見過ぎなのよ、ばかっ!!」



 激しい剣幕のマナ。あまり見たことが無い感じで怒っている。僕は一生懸命仕事をしているだけなのにな……。


「ご、ごめん。一応撮っておかないとかなって……。セクシーな感じだったし……」

「だからダメなのっ!!! もうリサさんを見るなっ! 今見たの全部忘れろっ!!」


「……は、はい」



 なぜだか僕が怒られる形になってしまう。今日のマナは情緒不安定なのかな?

 怒るマナのことを、リサがなだめてくれた。マナの険しい顔も少しだけ和らいだようだった。



「とりあえず、次は私がやる番か……。やりずらいなぁー……」


 文句を言いながらも、マナも脚を開いて上半身を前に倒していく。リサと同じく前屈をしようとしている。


「リサさんって、身体柔らかいよね……。おっとりしているから、スポーツとかできないかと思ったのに。それと比べられちゃうと、困っちゃうんだよね。ううー……、よいしょー……!」


 リサとは対照的に、マナの身体は物凄く固い。頑張っている声とは裏腹に、全然身体が折り畳まれていかない。指の先が地面に届くどころか、膝にすら届かないかもしれない。

 それに見かねたリサは、マナの後ろへと回り込んだ。そして、リサの腰の辺りに手をかけた。


「マナさん、身体が固まっちゃってますよ。こういう時は、補助が必要です。ちょっと強く押してみますね? よいしょっ!」

「あ、イタイイタイイタイ……。痛いよっ!!!! ばかばかっ!!!」



 さっきとは違う雰囲気にはなったけれども、僕は何を撮らされているんだろうとは思う。スクール水着でじゃれあう女子高生というのは、バズるのかな……?


「もう、一旦カメラ止めてっ! 次は、座って股開いてやる! 二人で手を繋いでやるやつ!」

「はいっ!」


 どんな動画が人気になるかはわからないけれども、マナの曰く「エッチな度合いは薄っすら入っていれば、男は食いつくから!」と言っていた。

 健全な『ストレッチ動画』だと、削除されないという作戦のようだ。

 キーワードは『健全さ』。スポーツをしているような爽やかさがあれば、動画は削除されないらしい。本当かどうかは僕にはわからないけども。


 じゃれあっている姿は楽しそうで人気が出るかもと思ったけれども、また削除されてしまうラインを越えてる気がするのは気のせいだろうか……?


 リサは座った状態で脚を開くと、180度開脚ができるようだった。左右に伸びた脚は普通にしている時より長く感じる。コンパスを全開まで開いたようで、とても長く感じる。


 それを撮るのは僕のわけなので、端から順番に撮っていく。

 脚の先までピンと伸ばされているところを見ると、やはりバレー経験者なのだろうことが分かった。そこから脚の上をスーっと滑らせていく。

 次に来るのは、細く締まりの良い脹脛ふくらはぎ。そこも滑り、綺麗な膝小僧を滑り、太ももへとたどり着く。柔らかく弾力のありそうな太もも。表面も良いが、地面に着いている裏面は、ぽにょんと地面についてる。


 一部の場所に見とれてしまわないように、その先へと進む。すると出てくるのが水着部分。


 水着部分のはず……、たぶん……?


 リサの水着は小さいのか、リサがいきなり成長したのか、サイズを間違えて買ってしまったのか……。毎度ながら、見えている気がするのだ……。

 これも撮るのが僕の役目なわけで。僕にしか撮れないわけで……。


「恭介っ!!! どこ撮ってるのっ!! ダメダメダメダメーーー!!!」


 再度、プールサイドにマナの声が響いた。

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