第10話
「これって、いつバズります? ちょっと更新ボタンを押してみて下さい。再生数増えてるかもですよ」
リサは、画面を食い入るように見ている。何回目か分からない「更新ボタンを押してみて下さい」という言葉に、僕はポチッと更新ボタンを押す。当たり前の事だが、再生数が増えない。
リサは不思議そうに画面を眺めている。
「なんで増えないんですか? やっぱり、もっと脱がないダメですか?」
「い、いや、そういう訳じゃないと思うよ。チャンネル登録者数も少なめだから、バズるとしても時間後かかると思う」
リサの後ろから、マナが声をかけてくる。
「そんなすぐにはバズらないでしょ? 明日の朝とか見てみたら? それでダメだったら、一人で脱ぎなー?」
マナは部屋の掃除を順調に進めていた。やることが、本当にお母さんみたい。主に僕のベット周りを掃除しており、枕の下やらベッドの下も入念に掃除をしている。
「それよりも恭介のおかずが出てこないんですけど? やっぱり、その立派なパソコンで動画でも見てるの?」
「いやいや、そういうのは無いよー……」
マナの追求にされてる間に、リサがマウスを操作し始める。
「うーん。頑張ったと思うんだけどなぁ……。じゃあ、もう一回だけっ!」
更新ボタンをクリックしてみても、案の定再生数は変わっていなかった。エッチなサムネイルだけが寂しそうに表示されている。リサの方を向いても、同じく寂しそうな顔をしていた。そうは言っても、動画の再生数とはそういうものだろう。
「じゃ、じゃあさ……。結果は明日確認するってことで、二人とも帰ってもらってもいいですか……?」
そう促しても、二人とも帰ろうとはしなかった。リサは画面を見つめて、マナは後ろで部屋掃除を頑張っているようだ。誰も僕の言うことを聞いてくれない。二人とも、何か起こらないと帰ってくれなさそう……。
時間が解決してくれるのを待つしかないかと、腹を括ろうとした時、画面に変化があった。
「恭介くん! これなんですかっ!? 初めて見る画面です!」
「ほ、本当だ。えーっと、こんなことになるんだ。僕も初めてだ……」
「えー、なになに? いきなりバズったって言うの? うそでしょ、私にも見せてよ!」
画面に映し出されているのは、黒い画面。中央に白い文字が表示されている。
『利用条約に違反したため、この動画は削除されました。』
リサはゆっくり文字を読み上げていくが、だんだんと声が小さくなり、最後まで読む頃には声が消えて無くなった。画面を見つめながら、たどたどしく言葉を発する。
「……恭介くん、これってどういうことですか? 私たちの作った動画は、どうなったんですか?」
今にも瞳から寂しさが零れ出しそうなリサ。その顔を見ると答えるのを躊躇してしまう。僕がどう答えようか迷っていると、マナが割り込んできた。
「書いてある言葉の通りだと思うけども? やりすぎって判断されちゃったんじゃないのかな? けどさ、どの道いつか消えてたと思うよ? 自分で見せるとか、痴女じゃん? YouTube分かってないんじゃない?」
「……」
マナが辛辣な事を言うので、とうとうリサの瞳から涙が零れてしまった。僕にとっては、『良くあること』だと思ってしまったけれども、これに泣いてしまうリサはやはり何かに追い詰められているように感じた。暗くなった画面を見つめて、リサは呟くように言う。
「……私だって、一生懸命やってるのに。……なんでいつも上手くいかないの」
リサは俯いて、動かなくなった。その姿がいたたまれなくなり、気休めでもいいから声をかけなくてはと口を開く。
「そんなに落ち込むことないと思うよ? 初めはこういうこともあるよ。どうしてもバズりたいって言うなら、また協力してあげても良いけども……?」
リサは泣き止まないまま、答える。
「でもでも、一回だけっていう約束でしたし……。今回も目が充血するまでやってくれたのに、これ以上なんて言えないですよ……」
「確かに大変だったのは、その通りだし。刺激も強すぎたし、もうやりたくないとは思ったけど……。もう一回くらいなら、協力しようか?」
リサの顔が、パッと明るくなる。
「本当ですかっ!? 恭介くんは神ですかっ!?」
僕の手を握って、自分の胸へと付けてくる。先日も暗闇の中で触れたとは思うけれども、手で触れると柔らかさを直に感じられる。そのまま僕の手をグイッと引くと、息が吹きかかる距離に顔を寄せてきた。
「私、何でもやります! お礼も何でもします! 恭介くんが求めるなら、何でもします! 何なら先払いでも良いです! 今からでも!」
「……さ、先払い」
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