第7話
「Youtubeへ投稿するって言ったってさー。これは、さすがにアウトじゃない? 見えちゃってるよ?」
「あ、やっぱりそうですか? このくらいならセーフかなって……。ちょっと見えるのもサービスってことで、どうでしょう? バズれないですか?」
「バズるというよりも、炎上しちょうよ。リサさんだっけ。ちょっと感覚ずれてるかもよ? 見えたら絶対ダメなの」
リサとマナは、二人でビデオカメラの画面を覗いている。
昨日していたことがいかがわしかったとはいえ、マナが想像してたものとは違ったらしい。先ほどまでの怒りはおさまったようだった。
僕はというと、画面を見ないように後ろを向かされている。
「これとか、ダメにほどがあるでしょ。なんで自分で見せてきてるの!? 毛も見えてるし、アウトでしょ!」
どうやら耳も塞いでおいた方が良いかもしれない。
やはり見えていたと思ってた部分は、その通りだったわけだ。画面は見ないで白い壁を見ているだけというのに、昨日のことがフラッシュバックして見えてくる。白昼夢とはこういうものなのだろう……。
無機質な壁を見てると妄想が膨らみ過ぎてしまうので向きを変えたいけれども、少し動いただけでもマナに殺されてしまいそうな気がする。
そんな僕のことを余所にして、二人でワイワイと動画を見ている。
「動画をバズらせたいって言う気持ちは分からなくもないよ? 恭介だって動画撮って投稿していたわけだし、再生数一桁だけど」
「えっ? そうなんですか?」
「ちょっ……。それは言わないでよっ! 僕の黒歴史!」
思わず振り向いてしまうと、マナとリサと目が合った。マナはニヤニヤとしており、リサは驚いた表情をしていた。
ニヤニヤ顔のまま、マナは続けた。
「リサさんの動画もほとんど使えるところ無いし、そもそもセンスも無いし。恭介の黒歴史もわかったでしょ? こんな奴に頼むのは間違いだよ? もう解散しよ、解散!」
マナは立ち上がると、僕の手を取ってこの場を去ろうとした。マナがすたすたと階段を降りるものだから、引っ張られる僕も合わせて階段を降りていく。
「恭介は、変な女の子に騙されやすいんだから。もう巻き込まれたらダメだからね?」
そう言われると、ぐうの音も出ない。もともと断る予定だった告白だし。リサさんの誘惑に魔が差してしまったわけだから。マナはいつもこうやって僕を助けてくれようとするのだ。
マナに手を引かれて階段の踊り場に着こうというあたりで、反対側の手を取られた。リサが僕の手を握ったようだった。
「恭介くん! やっぱりあなたは、私が見込んだ人でした! そんな気がしたんです!」
窓からの光がリサを照らして、輝いて見えた。リサは潤んだ瞳で僕を見つめてきている。どうしてこうなってしまったかわからないけれども、左手をマナに握られ、右手をリサに握られて、その間に僕は立たされている。
「恭介くんなら、私の力になってくれることを確信しました! 私の王子様かもしれないです! どうか助けてくださいっ!」
右からリサに引っ張られる。身長が大きいからか、意外と力は強く僕は階段を一つ上らされた。
「動画をバスらせてくれたら、私、何でもしますらっ!」
明るい光の中にいるリサは、昨日までの状態な姿とは違い、どこかのお姫様にも見えるようだった。綺麗な瞳に吸い込まれるような錯覚を感じた。逆の手を掴んでいたマナも呆気にとられているようだった。
止まった時間の中、僕は答えた。
「な、なんでもするっていうと……、なんでもなの……?」
「うん。なんでもいいよ……」
僕は押しの強い女の子に弱いらしい。気付いた時には、「うん」と頷いてしまっていた。僕からの返事に、リサは今までで一番可愛い笑顔を見せてくれた。
「……ちょっとーー!! なにオッケーしてんのよ! 今さっき、変な女の子に騙されないでって言ったばかりじゃないのーーっ!!」
後ろで喚き始めたマナ。リサは階段を数段降りると、マナの空いている方の手を握って笑いかけた。
「マナさんは、魔法使いみたいな存在かもしれないです。見守っているだけじゃなくて、一緒にバズるお手伝いをして欲しいです! もちろん、同じことを約束します。バズったらなんでもします!」
「……ほぇ?」
リサの柔らかな空気が辺りを包んだようだった。暖かい日差しの中、リサはとても嬉しそうだった。
「みんなで動画をバズらせて下さい! いざとなったら、私脱いじゃいますからっ!」
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