第6話
リサの第一声に、教室の空気が一瞬止まった。
教室中の視線がリサに集まったかと思うと、その視線は間もなくして僕へと集まった。いたたまれない気持ちになった僕は、席から立ち上がって答えた。
「あ、あの! 朝からそんなことは、できないです!」
「そうなんだ? じゃあ、また放課後にしようか」
リサからの誘いに毅然として答えたつもりが、リサには響いていないようだった。少し驚いたような顔を見せたものの、依然として僕を求めるスタンスに変わりはないようであった。
リサは楽しみが延びただけというように、ウキウキした顔で言ってくる。
「じゃあ、放課後。昨日の場所で待ってるね。皆には秘密だからねっ!」
長い人差し指を唇の前で立てて、「内緒だよ」というジェスチャーを見せてくる。だが、やっていることといえば、教室の入り口付近から教室内に大声で叫ぶという、矛盾に満ちた行為である。
リサは天然なのか、どこか抜けているところがありそうだ。どこかというよりも、大量に抜けていそう……。
リサは、去り際に僕にウィンクを飛ばしてきた。
パチンと飛ばされたウィンクの破壊力はすさまじく、僕以外の男子も「うお……可愛い……」と声を漏らしていた。雄太郎も例外なく、ハートを射抜かれているようだった。
「あんな可愛い子、初めて見たわ……。あの子、恭介に対して話していたよな? どういうことだ……?」
動揺する雄太郎とは違い、マナは笑顔を崩さずにいた。ただ、眉間に怒りが集まっていくのが分かった。
「恭介? もしかして、目が充血するまで下着を見てたっていうのが、あの女なのかな?」
「うぅ……。ノーコメントです……」
◇
授業が一限終わる度に、「どういうことなのか」とマナが問い詰めて来た。僕ははぐらかすように話題を変えてみたり、ノーコメントを貫いていたがマナは一向に諦めなかった。
そして、放課後になった。
「言ったら楽になるよ? むしろ、あの女に直接聞いてこようか?」
「ノーコメントでお願いします……」
マナは僕の保護者みたいなところがある。なにも取り柄が無いような僕なのに、しつこくかまってきては何かと口を出してくる。夜まで僕の家にいて勉強を教えてくれたり、お弁当を作ってくれたり。
「危ないことに巻き込まれているかもしれないから、私も付いて行くね!」
こうなってしまったマナは、誰にも止めようがなかった。しょうがないので、マナを連れて昨日の階段のところへ向かうと、既にリサが待っていた。
僕は、事の成り行きをリサへと説明をした。
「……ということで、リサさん。今日は幼馴染も同席させてください」
「はい! 恭介の幼馴染のマナです。うちの恭介が目を充血するまで、すごいものを見せてもらったらしいですね。とっても嬉しそうだったので、私もそれを見たいなぁと思いまして」
マナの外見だけは良い。可愛い顔に、丁寧な口調、低い物腰。ただし、腹だけは黒いと思う。
リサは驚いていたが、ニコリと笑って答えた。
「なるほど、恭介くん。これは、ナイスアイディアかもしれないです! 女子が見てくれるっていうのも良いですよ! もしくは、マナさんの動画を撮るでも良いですし。二人で一緒に撮るなんていうのも、良さそう!」
マナを連れて来たことに驚かないばかりか、すんなりと受け入れるリサだった。僕は内心驚きを隠せなかったが、横目でマナを見ると、マナの笑顔は崩れていなかった。ただ、細く延びた目じりをピクピクと動いていた。
リサは、僕の想像を超えた痴女なのかもしれない……。
「そうしたらー。まずは昨日撮った動画をざっと見てみるのが良いと思うんだけれども、恭介くんはどう思う? それとも、動画のおさらいはせずに、いきなり始めちゃう?」
「え、えっと、始めるって……?! いやいやいやいや! まずは見ましょ! 昨日の動画をたっぷり見ましょ!」
マナがいる状況で昨日の続きが始まってしまったら、マナは大激怒だろう。僕が殴られるか、リサが殴られるか……。はたまた両方か……。
けど、リサが押し切って、「二人で一緒に」なんてことが起こったり……。
……ごくり。
いかんいかん。変な想像が頭をかすめたが、すぐに追い払った。
固まってしまっている僕を余所に、リサはカバンからビデオカメラを取り出した。そして、カメラについているディスプレイを動かして、僕たちに見せてくる。ピコピコと操作をして映像を映し出した。
「えっと、これが昨日の映像なんだ……? 撮っているのが恭介ってことだよね。リサさんは、なんで脱いでるの……? これ、何するところ……?」
マナの言葉に怒りが籠っていくのが分かる。予想していたかもしれないが、マナにとっては衝撃映像だろう。我が子のような幼馴染が、こんなことをしていたなんて。もう、弁明の余地は無いけれども、言うしかないか……。
今日はこの続きをするなんて言ってるし、早めに全部言ってしまった方が、傷は浅くて済むかもしれない……。
「あ、あのこれは、その……、僕はリサさんと、エ、エッチなことを……」
しどろもどろに喋り出そうとしたが、すぐにリサが遮った。
「これは、エッチな動画です!」
「はぁー!? 私の恭介使って、何やってくれてるんだよーーっ!!」
案の定マナがキレ始めたが、リサは気にせず続けた。
「これを編集して、Youtubeに投稿する予定なのです! 私、Youtubeでバズりたいんです!」
初めて聞くリサからの言葉に対して、僕とマナの声が揃った。
「「Youtubeに投稿する……?」」
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