第45話 感想の言えない朝チュン!

 チュンチュン、チュンチュン……


(ううぅ……あまりにも凄すぎる朝になってしまった……)


 いや正確には昨晩の話なんだけれども、

 その、なんというか、これ口に出しちゃイケナイというレベルの話だ、

 正直言ってその、なんというか、女性の恐ろしさすら覚えてしまった。


(夜伽とか男と女の行為とか全身で甘えるとか、そんなレベルや次元じゃないや)


 見るとタマラさんの目がはっきり見える、

 いや今は目を瞑っているけれども、うん、

 さすがにここまで近づければ見放題とでも言うか。


(ひとつだけ言えるとすれば、まさに『無理矢理に溺れさせられた』とだけ……)


 これがメイドの順番があって良かった、

 毎晩だったらいつか腹上死(腹下死?)してしまう自信がある、

 いやいやこれ以上はイケナイ、とてもとても、口に出すのもはばかられる。


「んんっ……おはようございますぅ……ダルマシオさまぁ」

「う、うん、おはよう……」


 ようやく目を開いた、

 と同時にその視線がちょっと怖い。


(なぜだろう、開けてはいけない箱を開けた感じ)


「それでぇ、ダルマシオさま」

「はい、な、なんでしょう」

「感想を、お聞かせぇ……願えますか!」


 そんな、そんな恥ずかしいことを……!!


「そのっ」

「はいぃ……」

「言えないのが、感想です……」


 そう言いながら決して嫌じゃないという事を伝えるために、

 タマラさんの胸元へ抱きつく……うん、昨夜の夜伽はまさに『反則』レベルだ。


(僕から抱きついても、怖くは無いみたいだ)


 いや、元が密着しているからか。


「グエエエエェェェェェ~~~……」

「あっ、声だけ……ちょっと離れて良いかな」

「感想を聞くまではぁ、離しません!」


 いやいや、今日はちょっとやりたい事が。


「んっ、よっ、と……脱出成功!」

「もぅ……次はお聞かせ下さいねっ!」


 窓を開けると今日も乗っているのはクライスさんか、

 遅れたせいでダークネスドラゴンが通り過ぎちゃった。


「ドラエー! おはようー!」

「グエグエグエッ!!」


 あっ、旋回して戻ってきた!

 そして後ろの子ドラゴンにも……


「ドラビー、ドラシー、ドラディー、ドライー、おはよーー!!」

「「「「グエッ! グエッ! グエッ! グェーッ!」」」」


 喜んでいるっぽい。


(色々考えた結果、もうこれでいいやってなっちゃった)


 厳密には全員、

 語尾を伸ばす方向って僕が決めたんだけどね。


 コンコンッ!!


「あっはい」

「おはようございますっ!!」


 やってきたのは朝から眼鏡のナンスィーさんだ。


「ナンスィーさんおはよう、朝から気合いが入っているね」

「ダルマシオ様、ダルマシオさん、ダルマシオちゃま、どれにしましょう!」

「まだ固まってなかったんだ、じゃあ、ナンスィーさんの言いやすい方で!!」


 正直、なんだって良い。


「ダル様、ダルさん、ダルちゃま、ダルダル、他にも候補は……」

「学院に行くまでに固めてくれたら良いよ」

「あと何日で!」「23日かな、出発はもうちょっと早い」


 そこも決めなきゃ。


「それでは今夜、ベッドで決めましょう!」

「うっ、そうなんだ、ナンスィーさんの順番なんだ」

「とりあえずはですがっ!」


 寝起きながら整理すると、

 ナンスィーさんは一応、僕らが王都へ行くのにはついてくる、

 でもそれは闇のアイテム関連の納品のためなんだっけ、確か。


(で、どーーーうしても残って欲しければ、残ると)


 でもなあ、ナンスィーさんはナンスィーさんで忙しいはずで。


「確認なんだけど、ナンスィーさんって」

「まずはお紅茶をどうぞ!」「あっはい」


 廊下からガラガラとワゴンで持って来た。


「うっわ、これ黒い!」

「この村特産の茶葉ですよ!」

「タマラさんも」「はいぃ、では」


 うん、距離を少し置いてもタマラさんの目が見える、

 今まで前髪でどの角度からでも微妙に見えなかったのが、

 逆にどの角度からでも見えそうというか、ちょっと離れてみよう。


(……うん、見えた見えた、メカクレじゃないタマラさんだ)


 とはいえメカクレと呼んでも良いくらいギリギリだが。


「ダルマシオ様、どうなされました?!」

「あっナンスィーさん気にしないで、紅茶こぼしたらタマラさんにかかると思って」

「おやさしいですね、ふぅふぅしてさしあげましょう!」


 熱い紅茶を美味しくいただいたのちに……!!


「ナンスィーさんってアイテム袋、もうひとりで作っているの?」

「実質そうですね、小さいのというか、質が並のは年配の方々四人が」

「名目上はその四人が作ってる事になってるんだっけ」「よく御存じで!」


 あれ、ナンスィーさんが自分で言ってなかったっけ?


「そういえば街の闇道具屋でも、たまーーーに新品が入荷していたような」

「微妙な完成度のものですね、王都へ送れるレベルでは無いものの使えなくもないレベル、

 年配の皆さんが一生懸命作ったものもそこへ、出来が良いとお得意様や偉い方用に奥に仕舞っていますね」


 それでいざ、そういう人が来たら『特別ですよ』みたいな感じで売るのかな。


「お得意様って」

「街の住民や、冒険者の方々ですね、Sクラス冒険者はギルドの推薦状があればコッソリ」

「でも本当に質の良いのは」「お城や王都のギルドへ、今回もそれを持って」


 あっ、そういえば!


「この屋敷の地下に溜めてあった、宝箱のアイテム袋は」

「ロストテクノロジーですねえ、ご年配のお爺様かひいお爺様レベルの」

「同じもの、ナンスィーさんなら作れる?」「調べている最中です!」


 なるほど、そして大切な事を聞かなきゃ。


「それって王都に三年間、行くことになっても作れる?」

「もちろんです! ただしダクスヌールの街やここ闇の村への入荷が、

 時間がかかってしまう事になるかもですが、でも、でも! でもお!!」


 でもなんだろ。


「何があるの?」

「全てを解決する方法を、研究中です!」

「あるんだ方法」「ご期待下さいっ!!」


 ずいっ、と迫ってくるナンスィーさん!


「近い近い近い!!!」

「ということで朝食は私が作りましたっ!」

「あっ、そうなんだ」「それはもう、力を入れさせていただいて!」


 とりあえずベッドから降りてタマラさんと二人で着替えさせて貰う、

 そして食事に出ようとすると見送ってくれるタマラさん、ベッドを掃除してお休みか。


「ダルマシオさま、行ってらっしゃいませ」

「うん、じゃ、じゃあ」

「次の夜番は、もっともっと上手にやらせていただきますね」


(もっと上手って、僕、死んじゃうかもーーー?!)


 そして部屋から出る際に見たタマラさんの表情、

 うん、今まで隠れていた両目が前髪ぎりぎりで見えている。


(まさか、夜伽をされると見れるようになる……とか?!)


 相変わらずここの魔女は、不思議だ。

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