第41話 解呪はおまかせ!
教会前で並んで待っているが、
肝心の姫様がなかなか出て来ない。
(……あれ? さっき姫様に失礼な態度を取った気がする)
あんまり覚えてないな、
まあ大した事はしていないだろう。
「大丈夫だな、降りるぞ」
女騎士がまず例の長槍ケースを持って降りる、
あんな楽器みたいにして運んでるのはあの呪いの強さから行って納得だ、
続いて姫が降りて、メイドとあれ、包帯でぐるぐる巻きにされた人物が……?!
「セィル、足元気を付けて」「うん、マージ姉さん」
二刀流戦闘メイドはマージっていうのか、
弟さんは包帯の隙間から可視化できる闇の臭気を放っている。
(彼もまた呪いに……包帯を直してたのかな)
そしてもうひとりメイドが出てきた、
獣人族か珍しい、臭気をぱくぱく食べてる、
霞を食べているみたいだ、メイド服獣人ねぇ。
(戦闘メイドだと、たまに居るらしい)
本当の意味で戦闘しかできなさそう、ってこれ差別か、
闇の村住民や闇魔法使いが差別されているような感覚を、
僕も獣人に向けてやってはいけない、ちょっと今の僕、変だな。
「ようこそいらっしゃいました、私は解呪師の元締めグザヴィエと申します」
闇の村長さんそんな設定なんだ!
いや兼業って言った方が良いのかな。
女騎士が前に出て粗方自己紹介してから説明する。
「呪いの武器と呪われた少年、代金は支払い済みだ」
「聞いております、こちらが解呪師のクシャマでございます」
「……」
無言で頭を下げるお爺さん魔法使い、
うん、見た目は間違いなく闇の魔道士だ、
骨で出来たドラゴンを背後から召喚しそうな不気味さがある。
(ローブも黒いのに、見る角度で金色がきらきらしている)
まさに見た目で納得させる作戦だ。
実力は知らないけど。
(いや、闇の村長さんが連れて来て失敗は無いだろう)
「では早速奥へ」
「ああ、さあ姫」
「お邪魔致しますわ」
一応、僕も同席しないといけないみたいだ、
カタリヌさんタマラさんも付いてくる、ゲンズブールさんも。
「儀式はこちらでございます」
円形の部屋、
前には女神像、
他にも天使像が取り囲んでいる。
(あっ、黒いローブで身を隠したアンナさんとナンスィーさんが居る!)
大きな台座の左右で待ち構えていた、
よく見るとナンスィーさん眼鏡モードだな、
二人とも黙って頭を下げる、まずは長槍からのようだ。
「……」
無言の老解呪師、
クシャマが目配せするとアンナさんナンスィーさんが封印の布を剥ぐ、
すると槍から『闇の瘴気』が一気に吹き出す!
(うわっ、つい後ずさりしちゃった)
「では始めよ」「……」
グザヴィエさんの言葉に杖を掲げるクシャマさん、
そして軽く振り回しては大袈裟なポーズを取り続けると、
闇の瘴気が渦巻いて天へと昇って行く、ってあれ? これって……
(僕にはなんとなくわかる、コレ、解呪しているのって両脇の……!!)
間違いない、真ん中のクシャマさんはダイナミックな動きのみだ。
「……!!」
険しい顔で全身を振るわせるクシャマさん!
すると闇の瘴気がさらに勢いを増して昇って行く、
あっ、これ天窓の隙間から外へ、そうか、逃げしているのか。
(場所が場所だけに、空に溶けても問題無さそう)
やがて勢いを増し切ると闇の臭気が、
瘴気がほとんど出なくなって行き、そしてついに……!!
「ハァーーーッ!!」
(うわっ、クシャマさんが喋ったあああああ!!!)
と思ったら全ての瘴気が放たれたようだ!
「……ふう」
両腕を下げて肩で息するクシャマさん、
でも本当に疲れているのは……ってわからないな両脇のふたり。
「これでもう、浄化された槍ですな」
グザヴィエさんが言うと女騎士が手に取る、
うん、磨いたみたいにピカピカになっているな。
「次は弟を、こちらを」
メイドさんが包帯ぐるぐるさんを連れてきた、
アンナさんナンスィーさんがそれを取る取る、巻き取る。
(あっ、裸だ)
そして少年だ、
とはいっても十三、いや十四歳くらいかな。
そして全身に、まだらな黒い痣が……うん、呪いだ。
(何に引っかかったら、こんな目に)
「ではクシャマ」「……」
あっ、さっきまで槍を乗せていた台座に座らせた、
そしてまた派手な動き、と同時に両脇のふたりが解呪を施しているっぽい。
(人からの臭気放出は、色々と大変そうだ)
少年も表情が苦痛にゆがんでいるし、
何より瘴気の濃さが違う、あてられそうで怖い。
(それでも、どんどんどんどん、ぐんぐんぐんぐん昇華して行って……!!)
「クワァーーーッ!!!」
さっきより強く変な叫び声!
うん、痣が綺麗さっぱり無くなって綺麗な少年だ、
急いで下着や服を渡すお姉さんメイド、少年も慌てて着る。
「以上ですな」
「助かった、クシャマ殿、姫が礼を」
「陛下に代わってお礼を言わせていただきますわ、ありがとう」
「……御意」
さすがに無言では通せなかったか、国王陛下の代理と聞いてはね。
(僕の見立てだとクシャマさん、うん、仕事は頑張った)
解呪ではなく『お仕事』は、ね。
「さあ姫、こんな所にもう用は」
「そうですわね、ダルマシオ殿」
「は、はいっ、ロゼッタ姫さまっ!!」
つい直立してしまう!
「春からの学院では同学年になります、是非とも頑張って同じSクラスへ」
「は、はいっ、がんばりまっしゅ!!」
最後ちょっと噛んじゃった。
「では再会の時まで、ごきげんよう」
まずは出口へ向かう姫と女騎士、
そしてメイドと服を着たばかりの弟が来た。
「……ありがとう、弟のセィルも同じ学年で入る」
「そ、そうなんですか」
「そして私はメイドとして付く、春にまたお会いしよう」
と言って残りの二人も出口へ……。
(姫のメイド、その弟が学院ねえ)
貴族には見えないんだけど、
実は良い所の坊ちゃんなのかな?
さあ、みんなして教会の前でお見送りだ。
(で、これで結局、父上はいくら儲けたのだろうか……??)
国王代理の依頼なら、うっはうはな金額だろうな、うらやましい。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(本当にさっさと行っちゃった……)
やはりこの街を覆う闇の臭気にあまりあてられたくないのか、
馬車の窓から手は振りつつもあっという間に走り去って行った姫たち。
土埃を残して消えたのち、ローブをぬぐアンナさんとナンスィーさん。
「……上手く誤魔化せられたでしょうか」
「ばっちりです! いつもやっている私が言うんだから、間違いないです!」
「えっ、いつもはナンスィーさんひとりでやっているの?!」「事実上はそうですね!!」
じゃあやっぱり、
クシャマさんはお飾り、ギミックか。
確かにナンスィーさんより、この見た目だけでも大魔導師な方が客も安心して任せられる。
「それでダルマシオ様」
「はいはいカタリヌさん」
「ロゼッタ姫について、気が付かれましたか?」
ええっと、ここは素直に……
「まあ、美人と言えば美人ですが、僕はあんまり」
「……そうですか、やはりですね」「えっ、どういうこと?」
「ロゼッタ姫はダルマシオ様に、魅了の魔法をかけておられましたわ」
な、なな、なんだってーーーーー?!?!
「それは、本当なのでしょうか」
「ええ、ですよねゲンズブールさん」
「はい、次期領主様が少しおかしくなったのは、それが関係しているかと」
あっ、変なテンションになって不敬っぽく対応した時か!!
「それは、姫の魅了が上手く発動しなかったという事ですか?」
「……それ、私のせい」「アンナさん?!」「こっそり……魔法防御、仕込んだ」
「い、いつのまに」「……秘密」「そ、そんなぁ」
まあ、夜伽の時が最有力かな、
精神関与に対して防衛魔法が発動した結果、
僕がおかしくなった、と、僕なんか傀儡にして何の意味が……
「おーーい、来てやったぞー!」
「お姫様はこれから来るんだよな?」
「ダル、お伴っぽく演出してやるから任せろ!」
あっ、取り巻き三人が今更来た!
「カイル、ディラン、ロジャー、大切な話がある」
「どうした」「どんな話?」「ダル、もったいぶるな」
「国王家のお姫様は、ついさっき帰った、以上!!」
さ、屋敷に戻るか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。