第40話 朝チュン完全敗北!

 チュンチュン、チュンチュン……


「んっ……ドリーお姉さああぁぁあああん……」


 朝、すっかり腑抜けにされていた僕が居た。

 いやあ、やっぱり『大人のテクニック』は、恐ろしい。


「んふふ、おはよう、可愛いダルちゃん」

「お姉さん、僕、僕、もう、お姉さんにぃ……」

「とろけきっちゃって、可愛いわねぇ、ふふ」


 ドリーちゃんの方が可愛いよ、

 と昨夜なら言えていたかもしれない、

 でもこうして一晩、夜伽をして貰った結果……!!


「その、あの、ドリーお姉さん……」

「謝っていただこうかしら? このお姉さんに」

「はっ、はいいいぃぃ、ごめんなさああぁぁぁぃ……」


 身も心も完全敗北である。


「グエエエエェェェェェ~~~……」

「あっ、窓の外にダークネスドラゴン、そして乗っているのは!」

「今日はクライスさんのようね」


 良かった、ブランカちゃんもきちんと休みの日があるんだ。


「何て呼んでるんでしょう、名前」

「ドラエ、ドラビ、ドラシ、ドラディ……」

「それドラゴンA、B、C、Dの略じゃないですかー!」「早く付けてあげて」


 うん、ドラゴン本人、いや本ドラゴンがそれで憶えてしまわない内に!


 コンッ、コンッ


「おはようございます、タマラです」

「あっはい、入ってきて」


 暖かい目覚めの紅茶を持ってきてくれた、

 相変わらずメカクレで目が見えないなあ、

 この角度だと少し下からで、見えてもおかしくないのに……


「タマラちゃん、おはよう!」

「はいサンドリーヌ様、おはようございます」

「あっ、じゃあ僕も、おはよう」「おはようございます」


 手際良く紅茶を淹れるタマラさん。


「どうぞ」

「ありがとう」

「サンドリーヌ様も」「ありがとねっ」


 そして……あれ? 

 タマラさん廊下へ、と思ったらすぐに戻って来た、

 サンドイッチとソーセージが乗せられたトレイを持って。


「朝食はこちらでどうぞ」

「う、うん、別にいいけど、なんで」

「すでに王家のお姫様が、街の方の屋敷にいらっしゃっているので」「えええええ」


 いくらなんでも早過ぎだろう……

 僕はサンドイッチを速攻で食べ尽くす!


「あの、デザートの黒プリンを」

「んぐ……ごちそうさまでした!」

「ダルちゃんすごいわね、プリンの一気飲み」


 僕はベッドから立ち上がって着替えモードになる、

 それをタマラさんが丁寧に手伝ってくれている……。

 サンドリーヌさんがトレイを片付けながら僕に話しかける。


「ねえ、相手が勝手に早く来たんだから、待たせて良いんじゃない?」

「いやいやいや相手はお姫様なんだから!」

「ふーん、貴族って大変ね、ま、私は今日は、ここの掃除をしたらお休みだけど」


 うん、そうだとは思っていた。


「……よし、とりあえずはこんなものかな、

 じゃあドリーちゃん、後はよろしくねっ!」

「ちょ、ちょっと、もう戻っちゃったの?『お姉さん』でしょっ!!」


(あれはまあ、夜伽のとき限定でいいや)


 今のところは、ね。


「タマラさん、行こう」

「はい、ダルマシオさま」

「んもう、次の順番、憶えてらっしゃい!!」


(順番あるんだ)


 昨夜ベッドで垣間見た、

 ちょっと悪の魔女モードっぽい雰囲気を出したドリーちゃんを置いて、

 さっさっと転移魔方陣、の前に歯磨きとトイレくらいは行っておこう、あと洗顔。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 コンコンッ


「誰だ」

「ダクリュセック辺境伯家、ダルマシオ=ダクリュセックです」

「姫」「はい」「よし入れ」


 複数の女性の声……

 入ると僕の家だけどすでにお姫様がくつろいでいた、

 左右には女騎士と女戦闘メイドかな、あとさらに両端は町長とウチのメイド長カタリヌさん。



「申し訳ありません、皆さんお待たせして」

「いや、こちらが早く着いただけだ、気にするな」


 と答えたのは女騎士さん、

 戦闘メイドの方は剣を左右に二本挿してるな。


(あっ、姫様が紅茶のカップを置いてこちらを見た!)


「初めまして、伝説の勇者イスマエル=ロシュフォールの血を継ぐ者、

 国王家ロゼッタ=ロシュフォールと申しますわ、以後、お見知り置きを」

「は、ははーっ」


 片膝を着いて頭を下げる、

 ちょっと遅かったかな? 心配。


「今日は公式な訪問と言えどお忍びに近いものですから、そこまで畏まらなくてもよろしくてよ」

「は、ははっ、はいっ」

「さて本題を、ウルー、説明さしあげて」「はっ」


 あの強そうな女騎士、ウルーっていうんだ。


「こちらになります」


 床に置いてあった大きな武器ケース、

 中から出してきたのは厳重な封印の布で巻かれている長槍だ。


「これは禍々しい」

「国王家に伝わる、不幸を呼び込むとされる『ダクネスカオス・ロングスピア』だ」

「これの解呪をしたいと」「話が早いな」


 そりゃあ、こんなデンジャラスなものをこの街に持ち込むのは、

 解呪か売りに来たしかない、そして売るなら商業ギルドに行っているはずだ。

 

「失礼しますね……うーんこれは、そんちょ、いや町長」

「対処に相当な魔力が必要なゆえ、すでに解呪師を手配しております」


 さすがゲンズブールさん、爺ちゃんの弟子だけある。


「代金はすでにダクリュセック家に前払いしてある、貴殿には立ち会って貰うだけだ」

「そうですかさいですかはいですかはいはいさいさい」

「なんだその態度は」「あっ、もーぅしわけあぁーりませぇーーんっ、ロゼッタ姫っ!!」


 いや、つい、いつもの父上だなあって思ってそれが態度に。


「では姫、行きましょう」

「そうですわね、教会の方へ」


 ぞろぞろと表へ行くと用意されている馬車、

 姫様専用だなこれ、なぜなら後ろに僕の馬車があるから。

 まずは姫が先に白く綺麗な馬車へ、いかにも王室専用って感じ。


(後ろは僕とカタリヌさん、タマラさんと町長さんだ、運転は街の衛兵)


 そして僕らの馬車が姫の馬車より先に出発、

 先導っていうやつだな、教会なんてすぐ近くなんだけど。


「それにしてもこんなに朝早く、どうしてそんなに急いでいるんでしょうね」

「次期領主様、私の経験から言わせていただきますと」「はいゲンズブールさん」

「一番ありうるのが、できるだけここに居たくないから、かと」「あー、ありそう」


 早く来て早く去る、

 嫌な事はさっさと先に済ませてしまおうと、

 うちの母上なんかこの街に着いただけで絶望の表情だ。


(姉上は表情に出すまいと、必死になってたのに)


 それを考えると、あの姫はどうなんだろう?

 闇の臭気、瘴気が合っていなかったとしたら相当我慢しているはずだが、

 だから隣の女騎士に話させた、までありそう。


(改めて言うけど僕は平気のへっちゃら、もっと酷い闇の村も平常運転です)


 魔法は使えないけれどね!

 と言いたいけど、もう僕って使えるようになっているんだっけ……??


「ダルマシオ様」「はいカタリヌさん」

「あのお姫様を見て、何か感じませんか?」

「ええっと、それなんだけれども……」


 三人が僕を見る中、

 溜めた言葉を告げる僕。


「緊張のあまり、あのロゼッタ姫の顔、まともに見れてない」


 いやクスッとしないでタマラさん!

 一方でゲンズブールさんとカタリヌさんは真面目な表情だ。


「次期領主様、それはむしろ、良かったかと」

「そうですね、これなら心配はいりませんわ」

「えっ、どういうこと?」「詳細は、姫様が街を離れてからですわ」


 なーんか裏がありそうな予感、

 気のせいかも知れないけれどね!!

 

「ダルマシオさま、教会が」

「あっ、もう着いたのか、降りて姫様を迎えなきゃ」


 すでに闇の村、

 あっちの村長が全身黒ずくめローブの老人と、

 教会前で待っていた、僕らもさっさと並ぼうっと。

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