第35話 今夜は副メイド長の自称お姉ちゃんと!

「さあ坊ちゃま、こちらへ」

「う、うんっ」


 大きなベッドで待ち構えるサエラスさん、

 相変わらずお姉ちゃんというよりはママみを感じる。


(でもさっき、本物の母親に面倒を見て貰ったから、彼女に比べれば……)


 いや本物の母親って言っても僕のじゃないよ、

 ブランカちゃんのお母さんであるクライスさん、

 それに比べれば『お姉ちゃん』と言うのも間違ってはいないんだけれども……


(僕の中でお姉ちゃんは、やっぱり実姉と婚約者メイドだ)


 という事でお姉ちゃん枠は埋まっているはずなのだが……


「その、サエラスさんって、こういうことは」

「ふふ、そんなの気にしないの、今夜はいっぱい甘えて良いのよ?」

「あっはい、と、とりあえず、失礼します……」


 やっぱり緊張するなあ。


(そこそこ知っている相手なだけに、照れる)


 昼の、そしていつもの厳しい剣術教師が嘘のようだ。


「まずはお話しましょう?」

「はい、その、素敵なネグリジェで」

「ありがとう、さあ、もっと近づいて」


 指示されるがまま、

 サエラスさんの方へ……


(ふわあ、良い匂い……)


 まさに大人の女性、二十四歳だもんな、

 僕よりも九歳も年上、甘えたいタイプだけど……


(いざ、身体で甘えさせてくれるってなると、なんというか、ムズムズする)


 と同時に心臓がどきどきバクバクしている。


「ふふふ、こちらを向いて」

「はいっ!」

「もっと力を抜いて……」


 ベッドの中で向かい合う、

 うん、近い、凄く近いってば。


「こうして一緒に、その、寝るだなんて」

「私はいつでも構わなかったわよ?」

「いえいえ、そんな」「あら、嫌なの?」「嫌じゃないです!!」


 嫌な訳がない、

 お姉ちゃんだろうがママみを感じようが、

 素敵な女性である事は間違いないのだから。


「では学院へ、王都へ行った時の事をお話しましょう」

「はい、楽しみです、どんな所なのか」

「それで、どのようなお嫁さんを探すのかしら?」


 ……うん、王都へ行く目的の、

 重要なひとつでもあるんだよなぁ。


「まず闇耐性があるに越した事は」

「そうではなく、どのような女性のタイプが良いかよ」

「うん、僕に贅沢言えるかなあ」「思うのは、夢見るのは無料よ?」


 ……僕の場合、身近なサンプルが悪いのばっかりだからな、

 直系の第四夫人である元メイドの実母は悪い意味で父上の事しか考えていない、

 父上との間に生まれた姉上や僕ですら『父上との仲の邪魔者』として扱っているくらいだ。


(そしてその上の、三人の義母はどれもこれも……)


 さすがに『どいつもこいつも』とまでは言えない、

 でもまだ自分が腹を痛めた子に対し愛情を持っているだけマシであり、

 と同時にうらやましくも感じる。


(その分、姉上が肉親としての愛を一手に注いでくれている……)


「やはり、姉上のような女性が良いです、婚約者メイドまで用意してくれて」

「あら、じゃあやっぱり『お姉ちゃん』が良いのね?」

「ま、まあ、言い方は何でも」「ふふ、じゃあお姉ちゃんで練習しましょう」


 そう言って、ぎゅっ、と抱きしめてくる!


「れ、れれれれ練習って」

「学院で素敵なお姉ちゃんを見つけた時、手も握れなくてどうするの?」

「はいぃぃぃ……」


 でもこれは、密着し過ぎでは!


「ダルマシオ坊ちゃま、どのような奥様が来ても、私達はしっかりお支えするわ」

「うん、お、おねがい、します」

「と同時に、坊ちゃまに相応しい女性か、しっかり確かめさせていただきますね」


 ……カタリヌさんサエラスさんのチェックは厳しそうだな、

 早々に諦めてワンディちゃんを、ってほんとワンディちゃんに失礼だけれども。


(ワンディちゃんとも相談したいな)


「ふふ、そんなに目を泳がさなくても」

「ご、ごめん、ちょっとプレッシャーに」

「坊ちゃまを好きになって下さる女性を、楽しみに待っておりますわ」


 と言われても、想像つきません、はい。


「やはりお相手は、年上でしょうか」

「ど、どうなんでしょうね、しっかりしたタイプだと、僕が楽かな」

「このお屋敷の金貨を、財産を散財するような方は選んじゃ駄目ですよ?」


 確かに僕の価値は何だと言われたら、

 お金目当ての女性が来てもおかしくは無い、

 まあこの屋敷が売られる心配はないけど、街の方が……


「あっ、そういえば学院に来る貴族の娘って、

 お婿さん探しの女性とも多いんでしたっけ」

「でしたら意外な掘り出し物を見つけましょう」「物って!」


 そうなるとやっぱりクラスメイトからかな、

 だったら良いクラス、AクラスやBクラスに……

 駄目だ、無理して高いクラスに入ると、おそらく恋人にする難易度が上がる。


(だからといって、わざと下げるのは……)


「一年経っても目ぼしい相手が見つからなければ、年下も探しましょう」

「うん、必然的にそうなるよね、あっ、じゃあ年上を射止めたら僕が卒業するまでの一、二年は」

「王都かこちらの辺境伯領で、花嫁修業をしていただきましょう」


 僕の花嫁になる修業、かぁ。


「じゃあ年下を射止めたら、その彼女が卒業するまで……僕が花婿修行?!」

「さすがにその時は中退してもらう可能性もあるわね」

「それはちょっと」「でしたら待ちましょう、婚姻だけして」「そっか、その手があったか」


 何も結婚は必ず卒業を待つ必要は無い、

 この国だと結婚は十六歳からだからね。


「あっ、でもダルマシオ坊ちゃんなら」

「はい、なんでしょう」

「学院の先生という手も」「えー」


 さすがにそこまで年齢差は……

 どうしても『王都の学院』って考えると、

 女教師は若くても三十代ってイメージしちゃう、僕の倍以上か。


「とにかく、学院へ入学するまでに、そういう事も勉強しておきましょう」

「べっ、勉強ですか」

「ええ、私達で色々と教えてあげるわ」


 ……意味深だなあ。


「さあ坊ちゃま、もっと近くへ」

「こ、これ以上、近くということは」

「今夜はたっぷりと甘えて下さいね、坊ちゃま」


(……うん、これはもう、身を任せよう)


 こうして僕は、

 サエラスお姉ちゃんに存分に『甘えさせてもらって』から、

 疲れ果てて眠ったのであった……。


回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回


 そして、夢を見た。


(これは、初めてワンディちゃんと合った時の……!!)


「はじめましてダルマシオ様、ダクリュセック辺境伯家の新人メイド、ワンディです」


(可愛いお姉さんだなぁ……いや、お姉ちゃんって感じ)


「ダッ、ダルマシオ、ダクリュセックでふっ!!」


(あっ、最後言えてないっ!)


「今はまだダルマシオ様の姉君でいらしゃるブリジット様にお仕えしますが、

 ダルマシオ様が学院を卒業された時にお相手がいなければ、私が結婚相手となります」

「ほん……とに?!」「ええ、そう当主様より決められましたから」


 この時、胸が高まったんだよなぁ、幼いなりに。


「ぼくの……お嫁、さん?」

「あくまでも最終手段、保険と考えて下さい、私はメイドです、

 第四夫人ならともかく正妻がメイドというのは恥ずべきことですよ?」


 続いて離れた所に少し大きくなったワンディちゃんが。


「ダルマシオ様、ブリジット様お付きメイドとして王都の学院へ行って参ります」

「うん、僕、必ず手紙を出すよ!」

「私もお返事を必ず出しますから、そして三年後、今度はダルマシオ様のお付きメイドとして……」


 うん、年三~四回の手紙は僕の宝物だ、

 会えないと想いが募るのはやはり一応でも婚約者だからか、

 学院での生活は順調そうだった、姉上も、ワンディちゃんも。


(更に離れた所、これは……今のワンディちゃん?!)


 でも何か変だ、

 ただただ佇んでいるだけ。


「ワンディちゃん、ダルマシオだよ、もう戻ってきたの?」

「……」

「手紙のお返事そろそろこっちに届くよね? ねっ??」


 無表情で何も言わない。


「……ワンディちゃん? ワンディちゃんっ?!」


 とまあ、ここで目が覚めた。

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