第36話 三回目の朝チュン!

 チュンチュン、チュンチュン……


(お姉ちゃんに甘えるって、最高だぁ……)


 朝、幸せな気分で目が覚めた、

 身体で甘えさせてもらいながら何度『お姉ちゃん』と言わされたんだろうか?

 なんというか、軽い快楽洗脳とでもいうか、完全な夜伽で骨抜きにされてしまった。


(サエラスさん、もう『お姉ちゃん』と呼ばずには居られない)


 それでもメイドと主人の関係の場所に戻れば……

 いや、これはこれで当然、メイドと主人の関係でやったことのはず、

 身体を重ねた関係で、じゃあこれからどう接すれば良いんだよっていう……


「んっ、坊ちゃま、おはよう」

「あっはい、おはようござい、ます」

「んふふ、気持ちよく眠れたかしら」「は、はいぃ」


 正直、今も抱きすくめられていて心地よい。

 そして窓の外に見える、巨大な影に目をやると……


「グエエエエェェェェェ~~~……」

「あっ、ダークネスドラゴンの母子が」

「ブランカも早く添い寝したいそうよ」


 まさか……

 ちらっとこっちを見た気がする、

 そんな僕の、朝の様子を確認しに来ているみたいな。


「とりあえず今は、その」

「お姉ちゃん、でしょう?」

「はい、おねぇちゃぁあぁぁん……」


 コンコン、コンコンッ


「失礼すすわね」

「ど、どうぞー」


 入って来たのはサンドリーヌさんだ。


「目覚めの濃い紅茶を持ってきたわ」

「ありがとう、ございますぅ……」

「あら、副メイド長が逃がしてくれないみたいね」


 うん、がっしり捕まっている。


(それが心地良いんだよなぁ……)


 目の前で紅茶を淹れてくれる、

 おお、椅子の上に立ってテーブルの上のカップに!

 低身長ドリーちゃん、精いっぱいの工夫か。


(見ていて、ほほえましい)


 子供のメイドごっこかよ。


「ではサンドリーヌ、私はここの掃除の後、お休みを貰うわ」

「はい、お任せ下さい、ということでダルちゃん、今日は、ね」

「あっ、それじゃあ剣術練習は無しで?!」「あるわよ、私じゃないけどね」


 じゃあ誰だろう、

 アンヌさんは剣じゃなく拳だし……

 タマラさんって剣が使えるのかな?


「朝食が終わったら中庭で、ね?」

「あっはい、ではサエラスさん、そろそろ」

「んもう、もっとぎゅーーーってしちゃう」「あわわ、お姉ちゃーーーん!!」


 などという事があって、

 朝食ではアンヌさんドリーちゃんタマラさんが並んで世話をしてくれた。

 サエラスさんとの一晩(添い寝)でまだ身体の感覚がふわふわしたまま、デザートを平らげると……


「では御主人様、私はナンスィーと魔法の研究を」

「はい、お願いします」

「じゃダルちゃん行きましょ、もう待っているはずよ」


 一度しっかり準備、装備をし、

 ドリーちゃんタマラさんを連れて中庭まで行くと待っていたのは、

 街の冒険者ギルドで何度か見た剣士、いや勇者だった!


「ラッシュさん! ラッシュさんじゃないですか!!」

「よーう坊主、こっちで会うのは初めてか」

「スゥクネィダが拠点なのは知っていましたが、ひょっとしてこの村に?!」


 渋いおっさん勇者、もう五十代とか言っていたっけ。


「隠して悪かったな、ここで家庭を持っている」

「えっ、フリーの独身勇者だったんじゃ」

「ダクスヌールに流れ着いた時は確かにな、だがその、なんだ」


 おっさんながら照れくさそうにしている。


「素敵な女性を見つけたと」

「いや、正直に言うと『悪い魔女に捕まった』っていうやつだ」

「それにしては、にやけていますが」「まあな、四人目が嫁の腹の中だ」


 なんでもこのラッシュさん、

 パーティーを組んでいた頃はそれはそれは凄かったらしいが、

 こんな辺境ではそんな話は噂でも流れて来ない、でも個人でSランクなのは間違いない。


「その、お手柔らかにお願いします」

「おう、百本勝負だ、一本でも取ったら特別な賞品をやる」

「なんですかそれは!」「俺が前に使っていた勇者剣だ」


 あっ、これくれる気はいな、

 そもそも勝てる気もしないけれど。


「よし、では構えろ」

「はい、お願いしますっ!!」


 そこそこ頑張ったのは最初の十戦程度、

 後はまあ、はっきり言えばボコボコにされた、

 いつのまにか来ていたカタリヌさんに回復魔法をかけて貰ってはやられるを繰り返す。


「どうした、ここからは一本どころか一度でも避けきれたら勝ちにしてやろう」

「そ、そんなこと言われても……ぐあっ!」

「膝を打たれても一本だ、全ての急所に気を使え!」


 こうして戦いは百二十戦を超え……!!


「はぁ、はぁ……」

「今日はこんな所だな、俺も暇じゃない」

「ありがとう、ございましたっ」


 当然、一本どころか躱す事すら無理だった。


「学院へ行くまでこの勇者ポールキース=ラッシュ、まあこれは冒険者としての名前だが、

 この俺がお前を『最後の弟子』として鍛えてやる、この村のためにな!」

「い、いやいや僕はそこまで強くは」「わかっている、でも0より1のがマシだろ、1000点満点の、いや10000点満点でもな!」


 あんまりな言い方だけど、僕はそれでいいや。

 中庭から外へ通じる方を見ると、

 いかにも悪い魔女っぽい感じの熟女が迎えて汗を拭いている。


(あれが捕食した魔女かぁ)


「ダルちゃんも、汗を拭きましょ」

「あっはいドリーちゃん、それでこの後は」

「昼食と座学ですよ」「ですよねー」


 学院まで、あと25日。


※当作品、毎話3000文字はあきらめました!

 それでは皆さん、良いお年を。

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