第31話 仕込みは上々!

「あっ留守番、ご苦労様です」


 ダクスヌールの街に到着し、

 もぬけの殻となった僕の家を警備してくれていた衛兵に挨拶し、

 一緒に中へ入るとアンヌさんとナンスィーさんがきょろきょろしている。


「ごめんなさい狭くて、これでも次期領主邸です一応は」

「いや、空き部屋は無いのか」「できるぅ~だけぇ~ひろぃのがぁ~」

「えっと、未来の奥さん用の部屋があるのと、二階は実は僕の子供用でして」


 そう、この規模の建物だと僕と奥さんひとり、

 あと子供は二階の一室で複数生まれたらそこを仕切りで分ける感じになる、

 えっ側室はどうするって? 知りませんよそんな可能性の低い話は。


(一応、もう一棟建てるスペースはあるから増築かな)


 奥様予定の部屋は半分物置、半分はメイド休憩部屋だ、

 建物の規模に対してメイド五人は休んで抜ける数を考えると丁度良いが、

 それでも予備含め五人揃うとメイド部屋はちょっと窮屈らしい。


「ここにひとつ作れるが、どうする」

「そぅですねぇ~、ものぉ~どかせればぁ~~」

「あとは二階か」「いきましょぉ~~」


 廊下に出ると上への階段はすぐに見つかる、

 そしてドタバタと駆け上がる、僕の家だぞいいのか?

 まあ僕がいいなら、ってついて行くとこっちは物がほぼ何も無い。


「ここは雨が降った時に洗濯物を室内干しする場所ですよ」


 そんな僕の説明も相手にせず部屋内を見るふたり。


「こっちも広さはさっきと同じか」

「ものがないぶん~、いぃかんじかもぉ~~」

「ではこちらにするか、御主人様、場所を借りても良いか?」「あっはい、どうぞ」


 ナンスィーさんがアイテム袋から図面を出す、

 それを見ながらアンヌさんと一緒に魔方陣を作り始めた、

 ということはだ、こっちにも転移装置を……いったいどこと?!


(一階と二階を繋げると、階段が楽にはなるけど)


 こっちのメイド長と副メイド長は階段がキツいって言ってたからね。


「これって後で消そうと思えば消せますよね?」

「もちろんだ」「たてものぉこわせばぁ~」「えええええ」


 それって部屋を『借りる』とは言わないんじゃ……?!


「距離のある分、少し複雑か」

「そぉですぅねぇ~~、おおきさもぉ~、すこしぃ~」

「……ここの部分がこうなるのか、考えたな」「きんだいまほぉのずしきでぇ~~」


 ナンスィーさん、とろけそうな感じで作ってる、

 僕は窓から外を眺める……うん、今日は闇の瘴気が薄い感じがする。


(この街もこの街で、好きんだけどなぁ~……)


 それなりの思い出を巡らせていると、

 しばらくして大きな魔方陣が完成した。


「よし、では御主人様、行くぞ」

「えっと、どこへ」

「いきさきはぁ~、もぉつくってありまぁ~~~す!」


 ふたりに腕を引かれて、

 転移魔方陣の中へと入ると……!!


「うわ、前より眩しいっ!!」


 そして周りの風景が変わる、ここは……?!


「成功したようだな」

「えっと、もしかしてここは」

「はぃいぃ~、村のぉやしきぃ~、そのちかいっかぃですぅ~」


 部屋から出ると確かにそうだ、

 凄いなこれ、一瞬で戻って来ちゃった!


「あっ、ブランカちゃん、こっちこっち!」

「はい、なんでしょうか」

「一緒に行こう!」「えっ」


 今度は僕がブランカちゃんの手を引いて、

 ふたりだけで転移魔方陣に入ると……!!


「うん、また戻った!」

「ここは……?!」

「ダクスヌールの街だよ!」


 あれ?

 うずくまっちゃった。


「……ここ、薄い……」

「えっ、何が? 空気が?」

「闇が……ううっ、も、戻ります……」


 あっ、逃げるように魔方陣の中心へ。


(よっぽど身体に合わないんだろうな、村の外が)


 あれでよく王都へ行きたいだなんて言えたものだ。


「御主人様、無茶をするな」

「えっ、そんなにぃ?!」

「へたするとぉ~、しんぢゃいますぅ~~」「えええええ」


 それは悪い事をしちゃった。


「まあそれは大袈裟だが、長時間は良くない」

「あっはい、以後、気を付けます」

「ではぁ~~、わたしぃたちはぁ~することがぁ~~」


 階段を降りて行く、僕も付いて行こう。


「あっ、アンヌさん、ここの一階には作らないのですか」

「何をだ」「ここの二階との転移魔方陣です」

「それくらぁい、あるきましょぉ~~~」「はっ、はいっ!」


 ナンスィーさんに言われると従うしか無いな、

 僕じゃなくメイドお婆ちゃん達の事を考えてなんだけど。

 三年間、ここの留守番が終わったら隠居だからまあいいか、階段に手すりでも付けよう。


「あっ、サエラスさん」

「今から一緒に冒険者ギルドへ行きませんか?」

「良いですけど、何をしに」「冒険者パーティー結成です!」


 えええええええ?!?!


「僕もですか?!」

「いえ、私達だけですよ」

「私が復活した以上、パーティーに入って登録させたい」


 あっそうか、

 あっちの冒険者ギルドだと駄目なのかな、

 確か作ったメイドの身分証明書が冒険者カードにもなってるって聞いたけど。


「闇の村のギルドじゃ駄目なんですか?」

「あっちでやってもこっちでやる扱いと同じなのよ、それと」

「顔見世もあるからね、このお姉さんの冒険者正式デビューよ!」


 ドリーちゃんもやる気満々だ。


「タマラさんもですか」

「はい! 強くなって、男の人に襲われても反撃できる力をもっとぉ」

「そうですね、王都へ行ったら不安でしょうし」


 冒険者パーティーかぁ。


「それで御主人様にお願いがある」

「はいアンヌさん、なんでしょうか」

「私達の、パーティー名を決めて欲しい」「えええ」


 みんなで一緒に冒険者ギルドへ向かう、

 わざわざ馬車で……中で僕は色々と考える。


「あっ、カタリヌさんは居ないけど良いんですか」

「非戦闘メイドだからな、回復役で一応、登録だけはしておく」

「あっ、そのメイドカードは」「カタリヌのだ、本人が行くまで仮登録になるが」


 そのあたり、きっちりしているんだ。


「うーーーん、パーティー名かぁ」

「ちなみに魔王を倒したパーティーの名前は知っているか」

「はいアンヌさん、『クリスタルパレス』ですよね、超有名です」


 学校で習うし。


「皆さんの希望はありますか、どんなのが良いとか」

「御主人様が決めてくれる、それが私の希望だ」

「サエラスさんは」「そうね、『メイドお姉ちゃんズ』とかはどうかしら」


 ……よし、それで行こう。


「決まりました、パーティー名は『メイドお姉ちゃんズ』で」

「えええ、そこは『メイドお姉さんズ』でしょう?!」

「ドリーちゃん、ここは先輩を立てましょう」「んもう」


(タマラさんも頷いているから、これでいいや)


 こうして立派な、

 武骨な冒険者ギルドに到着した、

 選ばれし高レベル冒険者が集う場所だ、あと地元民。


(入ると……いたいた、名物受付嬢のアガットさんだ)


 ここは僕が挨拶しよう。


「どうもこんにちわ」

「まあ次期領主様、本日はどのような依頼ですか?」

「僕が何かして欲しいんじゃなくって、ウチのメイドで冒険者パーティーを結成する事になったんだ」


 ずらりと並ぶアンヌさん、サエラスさん、

 ドリーちゃん、タマラさん、ナンスィーさんってえええええ?!


「ナンスィーさんも?!」

「まほぉ~には、すこぶるじしんがありますよぉ~、んほぉ~~!!」

「いや最後、変な声を出さないで」


 アンヌさんがメイド(兼冒険者)カードを渡す、

 いつのまにかナンスィーさんも作っていたのか。


「失礼、二人ほど来ていないが後で正式登録する」

「はい、アンナ様とカタリヌ様ですね、かしこまりまいた」

「それでパーティー名だが『メイドお姉ちゃんズ』で頼む」


 うん、これで今日はもう、仕込みは上々ってやつだ。


「……申し訳ございません、そのパーティー名はすでに存在しております」


 えええええ?!?!


「では『メイドお姉さんズ』でお願いする」

「……そちらも登録済みですね、違う名前を」

「だそうだ御主人様、どうする」「うーーーん……どうしよう」


 そうか、被る可能性を考えてなかったや。



※通しての誤字脱字修正等は第一章終了後にまとめてやります!

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