第30話 メイドお姉ちゃんと剣の訓練!
朝食後の中庭、
早速サエラスさんと剣の特訓である。
「ほら、大きな隙が三つはあるわよ!」
「うわっ、サエラスさん、更に強くなってませんか?!」
「ふふ、なんででしょうね、どなたか物凄い剣士が乗り移ったかのようです」
あぁ、ユピアーナ様に捧げられた、
光の勇者イスマエル、その魂の外郭が入ってるんだっけ。
(って『外郭が入る』ってどういう意味だよ、まあいいや)
「これ、一本取れる気がしません!」
「もう……ダルマシオ坊ちゃまは、防ぐことに専念していいわ」
「い、いいんですか」「まずは隙を作らないことに専念して!」
言われた通り防戦一方になってみる、
でも『隙が三つある』という事は剣と盾で二つ防いだとしても……!!
「うわっ、上から!」
「そこよ!」「ぐあっ!!」
盾を上に向けたとたん、
横から一本取られてしまった……。
「坊ちゃまは基本的に攻撃する必要はありませんから、
必要な時はメイドをお使い下さい、私達が剣となり盾となります」
「そう言われても授業とかで」「その時は、もう形だけで構わないわ」
つまり、本当に斬ったり突いたりする必要はないってことか、
でも貴族たるもの自分の身はある程度、自分で護れるようにならないと、
あっ、だから防御だけで良いってことなのかな? 後はメイドに任せろと。
(学院の評価的には、どうなるんだろう)
とにかく今は、最低限の基本だけでもしっかり身に付けなきゃ。
「では次、いくわよ」
「はいサエラスさん、お願いします!!」
こうして何度も何度も戦いながら、
たまに休憩が入りドリーちゃんがお水をくれる。
「はいどうぞ、学院までに仕上がるかしら?」
「ど、どうでしょう、貴族になるための学院で、戦闘はあんまり関係ないのでは」
「でも貴族って基本的に国民を、そして国王陛下を護る一員なんでしょう?」
とはいえ、あんなクズ勇者の血が継がれている国王だしなぁ、
このあたりの文句を言える権利はユピアーナ様だけとはいえ。
「それにしてもサエラスさん、そのメイド服って」
「戦闘メイド服よ、動きやすくて良いわ」
「そっか、強いのはその服のせいもあるのか」
僕だって思いっきり装備しているけど!
「ドリーちゃんも戦闘には自信あるんだっけ」
「素早さに磨きがかかってるわよ、お姉さんとやる?」
「そういえばドリーちゃんも戦闘メイド服ですね」
ふたりともきっちりピンクのリボンをつけているけど!
「では、お願いします」
「じゃあ行くわよ、ポジションに着いて……」
向かい合って……
サエラスさんが合図を送る!
「はじめ!」
「でやあっ!」
「うわあああああ!!!」
真っ直ぐに突っ込んできたドリーちゃん!!
ボーーーン、という感じで弾かれる僕!!!
(なんなんだ、この人間大砲は!!)
いや、真っ直ぐ走って来たけど!
「なんだ、軽いな」
「アンヌさん?!」
背中から仰向けに飛んだ僕をガッチリと抱き受けるアンヌさん、
良かった……ティムモンス小屋の壁にぶつかる勢いだったよ。
「御主人様、ぶつかる瞬間にもっと腰を入れないと軽く吹き飛ばされるだけだ」
「あっはい、そのあたりの体術とかは、まるで」
「やはり魔法を教えるしかないな」「あっ、僕ってもう使えるように」「私が教えればな」
僕の体内にはひい爺ちゃんの『魂の輪郭』が入ってるんだっけ、
そのおかげで闇魔法を使えるとか、おまけで元からあった光魔法も。
「では今から」
「まだだ、基礎体力も無しに、基本的な戦闘訓練も無しにやると暴発する、
先ほどのサンドリーヌのように手加減して貰うダメージとは訳が違うぞ」
あれで手加減されていたのか……
「わかりました、学院へ行くまでに魔法を教えて貰えるように、頑張ります!」
「とりあえず私との魔法を使わない戦闘訓練はまだだ、副メイド長に教わるが良い」
「はい、ではサエラスさん」「続きと行きますわ」「よろしくお願いします!!」
こうして僕はせめて自分で自分を護れるように、
学院でせめて普通のクラスに入れるようにと鍛錬したのだった。
(でも実際、ウチのメイドの強さって、他のメイドと比べてどうなんだろうか……??)
「ふう、今日はこんな所ね」
「はぁ、はぁ、はぁ……サエラスさん、ありがとうございました!」
「サエラスお姉ちゃん、でしょう?」「は、はいぃぃぃ……」
正直、サエラスさんを『お姉ちゃん』と呼ぶにはまだ見えない壁が。
(でも、でも順番だと今夜……!!」
「昼食ができました! そろそろいかがでしょうかぁ」
「あっタマラさん、もうそんな時間か、いただきましょう」
「ダルマシオ、食べ終わったら今度は『街』の方を案内してくれ」「あっはい」
そろそろ一旦戻るか、
ダクスヌールの街へと。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
昼食をいただいて屋敷の外へ出ると、
例のシャドウホースが引っ張る馬車が用意されていた、
操縦するのは知らないおばさん魔女、うん、美熟女さんだ。
「次期領主様、お初にお目にかかります、クライスと申します」
「あっはい、ダルマシオ=ダクリュセックです」
「娘のブランカ共々、よろしくお願いしますね」「あー」
十六歳メイドのお母さんかぁ。
馬車の扉をアンヌさんに開けて貰って中へ入る、
サエラスさんが隣で向かいにドリーちゃんとタマラさん、遅れてアンヌさん。
「わぁたぁしぃもぉ~~~!!」
あっ、ナンスィーさんが慌ててやってきた!
そして僕の隣へ、相変わらずぼっさぼさな黒髪だ。
(そしてメイド服にリボンがピンクゥ!!)
僕の隣に抱きつくように座った。
「では出発です」
サエラスさんが内側から合図すると、
馬車が走り始めた……ぐんぐん加速する。
「ナンスィーさんは何の用事で」
「のぉひんですねぇ~~、ちょくせつはなすこともひつよぉなのでぇ~」
「そうなんだ」「あとは~~、ひみつですぅ~~~くふふふふ」
だから最後なんで笑うの。
「御主人様、戦闘訓練の話だが」
「はいアンヌさん、でいいんですよね?」
「ああ、このあたりまだお互い慣れていないな」
ユピアーナ様がメイドであるアンヌ・アンナの時は僕を『御主人様』と呼び、
その姿の時でも僕を『ダルマシオ』と呼ぶときは魔神ユピアーナとしての命令、
主従関係がややこしいうえにちょっと揉めたけどお互いそのあたり、互いに譲ろう的な話になった、はず。
「王都への出発までにはそのあたり、固まれば」
「だな、それで御主人様、御主人様自身の鍛錬も必要だが、
同僚のメイドも鍛えたい、その分の時間も欲しい」「あっはい、どうぞどうぞ」
拳闘士アンヌさんの体術と全属性魔法使いのアンナさん、
伝説の『魔王討伐パーティー』そのサブメンバーが直々に稽古をつけてくれる、
そう思うと僕のメイド達がどれだけ強くなっていくか楽しみではある。
「それぞれの個性を生かせた戦闘メイドに仕上げよう」
「怪我とか内容にお願いしますね」
「そのあたりはメイド長に高位の治癒魔法を教える、その時間も欲しい」
あっ、聖女の『魂の外郭』が入ってるんだっけカタリヌさん、
王都の学院で何かあったときに回復専門のナースメイドが居てくれると助かる、
それをメイド長がやってくれるのであれば、これほど心強い事はないな、でもひとりよりは……
「……僕も回復魔法を覚えたいのですが」
「自分用か」「いえ、カタリヌさんが休みの時、もしくはカタリヌさんが怪我したとき」
「その時はアンナがするだろう」「わたぁしもぉ、できまぁすよぉ~~」「ナンスィーさん……」
そんなすりすりしてアピールしなくても!!
(これで二十六歳だっけ、脱力系魔女だ)
「まあ良い、準備期間はあとどのくらいある」
「学院まであと26日です、馬車での移動に6日かかるのでこっちで出来るのは20日かな」
「よし、それだけあれば何とかしよう、王都へ着いてからも時間があるだろうしな」「具体的には」
こうしてアンヌさんから戦闘訓練の内容を聞いているうちに、
いつのまにか影の姿から普通の馬に変わったシャドウホース、
そして我が街、ダクスヌールへと戻ってきたのであった……。
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