第23話 寝室でメイドと真面目に話そう!
「ええっと、こんばんわ……」
なぜか余所余所(よそよそ)しくユピアーナ様の寝室へ入る、
いやほんと巨大なベッドだ、魔神モードで寝ると良い感じのサイズ、
その中央で誰か寝ている、メイド服が乱れているけど……こっ、これはあああ!!!
「ZZZzzz……」
「ってナンスィーさんじゃないですか!」
そういえばメイド講習会みたいなのの時も見なかったな、
まさかもしや、ずっと、ずーーっとここで眠っていたとか?!
「……zzzZZZzzz……」
「熟睡しているみたいですがメイド服ですよね、あれ眼鏡は」
ガチャッ
「御主人様、ようやくいらっしゃったか」
「うわっアンヌさん、ってメイドルームからか」
「待っていた、すぐに眠る場所を用意する」
そう言ってナンスィーさんを抱えて、
廊下にポーイ……そしてシーツに挟まっていた眼鏡も、
遅れて拾って廊下へ投げた、良いのかな、風邪ひかないといいけど。
「風呂上がりのようだな」
「あっはい、アンヌさんは」
「メイド区域でメイド専用の風呂に入ってきた、頭を冷やしながらな」
深々と頭を下げるアンヌさん。
「本当にすまなかった、自分の立場をまだよく理解していなかった」
「……僕も少し言い過ぎました、ごめんなさい」
「主人が、御主人様がメイドに謝るような事は、何も無い」
そう言って何やら用意する、
あれは……紅茶? いや違う、
匂いからしてホットミルクのようだ。
「とりあえず座って欲しい」
「じゃあ、こっちで」
ベッド横のソファー、
軽いテーブルがあってそこにカップを置かれ注がれる。
「これを飲んで、まずは落ち着いてくれないか、御主人様」
「うん、いただくよ……んぐっ、んぐっ……ぷはぁ、おいしい」
「口を拭かさせていただこう」
どこからか出したタオルで……
まるで子供の面倒を見る母親みたいだな、
でも、今までのメイドごっこより、少しはまともなメイドになった気がする。
「それでアンヌさん、その、あの、これから」
「御主人様、まずは話をさせて欲しい」
「はい、じゃあその、聞かせていただきます」
アンヌ姿のユピアーナ様は立ったままだ。
「一度に何もかも話をし始めるには一晩では時間が足りない、
ゆえに申し訳ないが、まず今夜は伝えたい事のみになると思うが、
そのだな、なぜ私がメイドになりたいか、という話で良いか」
頷く僕、真剣な表情のアンヌさん……
少し腹が立つ感じだった態度も改めて、
気を引き締めているように感じるのは気のせいじゃないよね?
「……まだ正直、あの闘いの延長線上にいるような気分がするのだ」
「そ、そりゃあそうですよ、魔王を倒した直後に封印されて、解かれたばかりで」
「本当に終わった、何もかも……その実感を今、確認している最中と言えよう」
うん、でも共に戦った仲間は、もう……
「そう考えるとしばらくは、その、ユピアーナ様として休んで良いのでは」
「ああ、だからこそ、メイドとしてゆっくり過ごして楽しみたい」
「そうですよね、ユピアーナ様にはその権利がある、世界を救った魔神として……」
そうなると『ワガママ言うな!』っていう僕が不敬って事になっちゃうのかな、
でもなあ、僕への『プレゼント』みたいな話だったし、いや真に受けるなって事?!
だからってこれからの大切な学院生活三年間、ユピアーナ様の奴隷みたいにはなりたくない、メイドだし。
「世界を救ったから、魔王を倒したから、だから私の言う事を聞けだとか、
言う事を聞かないなら私が新たな魔王になってやろうとか、そういう事では無い、
もっと純粋に……仲間たちが、あの人間たちが、羨ましいのだ、皆、仲良く楽しそうで」
うん、ひい爺ちゃんも魔王討伐の話になると、
本当に楽しそうだった、いやそれ絶対に盛ってるよねって話も含めて……
そういえば、ひい爺ちゃんからの遺言まだ読んでないな、あの分厚い書類の束。
「それに、憧れていたんですか」
「そうだ、討伐の旅終盤、世界を平和にすれば後はどうするという話をしていた、
おのおのが夢を語る中、私には……魔神である私は、それが、何も無かったのだ」
悲しげな表情、
そもそも魔神ってなんだって話は今は聞ける雰囲気じゃないな。
「でもその、それこそ国が手厚く面倒を」
「あの王子だぞ、勇者であること以外、何の脳も無い」
「あっはい、それにあの聖女ですからね」
あそこまで酷いとは、ひい爺ちゃんも言ってなかったぞと。
(どちらかというと、話題に避けていたくらいだ)
今にして思えば触れるのが、
話題に出すのが失礼とかいう話ではなかったっぽい。
「それにある意味、今のこの状況が『手厚い面倒』とやらだろう」
「確かに、立派なお屋敷に、その、たいそう立派なメイド服に、この館のメイドに」
「そして何より、私が一番望んだと言って良い『御主人様』も用意してくれた訳だからな」
……その言葉で僕は気付いてしまった。
『これって、僕って単なる、魔神様への『生贄(いけにえ)』じゃないですかー!!』
いや、口に出しては決して言えないけれども!!
(どうりでひい爺ちゃんの出だしが『すまぬひ孫よ』のはずだ)
まだその続きを読んでいないけれども。
「それでその、なぜどうしてよりにもよって『メイド』なんですか」
「楽しそうだったからだ、討伐パーティーの仲間同士はもちろんのこと、
それぞれの地元で会うメイドが、本当に主人の事を思う、あれはまさに一種の『家族』のようだと」
それでかぁ、
うん、大体わかってきた、
ユピアーナさんがこっちで孤独に過ごしているなら、そういった『家族』が欲しかったんだろう。
「……ユピアーナ様は、その、勇者パーティーと家族のようなものだったんですね」
「ああ、かけがえの無いな、だが魔王を倒す代償に、それを失う事となってしまった、
もちろん厳密は失ってはいないが、共に過ごす事が敵わなくなってしまったのだ……」
仕方が無い事とはいえ、
他に方法が無かったとはいえ可哀想だ、
だからこそ、メイドとなって誰かの家族になりたかったのか。
「わかりました、真面目な話、僕に御主人様が務まるかどうかはわかりませんが」
「ルールを押し付けようとしてしまってすまない、これからは考えを改める」
「いやその、僕も事情をようやく呑み込めたので、最初の提案、で良いのかな、それをベースにしましょう」
こうして真面目に取り決めたのは……
・基本的にはメイド「アンヌ」「アンナ」として終始、行動する
・中の人(ユピアーナ様)は極力出さないが、緊急時や僕の命令によっては出す
・メイド長、副メイド長の言う事はきく、後は自分の地位はメイドとしての仕事で上げていく
これでおそらく、
急にユピアーナ様が表に出てきて、
まーた面倒くさい事にはならないはずだ。
(上下関係がしょっちゅう入れ替わる、そんなドタバタ劇は勘弁だ)
とまあ話が落ち着いてホットミルクを飲み干すと、
さすがに僕もそろそろ眠くなってきた、うん、寝よう。
「それではユピアーナ様、いえアンヌさん、そろそろ」
「ああ、いよいよだな……『夜伽』の時間だ」
「そ、それなんですが、そもそも、夜伽って何を、するつもりですか」
そろそろ核心に触れて欲しい。
「うむ、それなのだがな」
「はいはい、それと、それとは」
「これからする『夜伽』というものはだな、それは……」
(どきどきどきどき、ドキドキドキドキ!!!!!)
固唾を呑み込んで待つ僕、、
そして、アンヌさんの発した言葉は……!!!
「私も良くは、知らぬ!!!」
「ええええええええええぇぇぇぇぇ……」
(じゃあこれから、どうするの?!)
いや、むしろ僕が、どうしよう。
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※次話から『小説家になろう』版と『カクヨム』版ではある意味、
内容が分岐します、具体的にはこちらはアダルティな方向へと。
大筋のストーリーは変わりませんのでお好みの方をお読みいただければと思います!
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