第22話 お風呂で冷静になろう!

(良く見るとなんだよあのお湯が出てる口、まるで魔王じゃないか……)


 ちなみに両隣のガーゴイルは水が出て温度調節ができるらしい。


「ダルマシオ様、おかゆい所はございませんか?」

「お姉ちゃんが、どこでも綺麗綺麗にしてあげますよ~」

「いっ、いやそんな、あっ、目を閉じなきゃ」


 豪華なお風呂でまずは洗ってもらう僕、

 ちょっと詳しく具体的には言えないが、

 ま、まあ、あくまでも事務的に全身を、ね。


(ここは会話で気を逸らそうっと)


「そういえば、アンナさんとカタリヌさんで洗ってくれる予定だったんじゃ」

「ユピアーナ様、完全にしょげていらっしゃいますね」

「代わりにお姉ちゃんじゃ嫌?」「いえいえ、サエラスさんに問題は無いです、何も」


 うん、まあ、今の所は。


「ちょっと言い過ぎたかな、その、擦り合わせが上手くいかなくって」

「確かにユピアーナ様は魔王を倒した救世主ですが、だからといって、

 ダルマシオ様が都合の良い餌のようになる必要はありませんわ」「餌って」


 片目で見るとお風呂でも眼鏡をかけているカタリヌさん、

 曇らないのかな、闇魔法で防御でも出来るのだろうか……

 おっと目が染みる、再び閉じて会話を続けて、やり過ごそう。


「私がメイド長として話をした感じですと、そうですね、

 やらなければいけない事はわかってて、やろうとしているのに、

 そのやり方がわかっていないというか、見よう見真似でやっている感じですわ」


 うんまあ、それはなんとなくわかる。


「えっと、さらに言うと、それを探り探り、という感じでしょうか」

「ですから、きっちり話を詰め切ってしまえば」

「……じゃあ、いらいらして話を打ち切った僕の責任だ」「あれは仕方が無いかと」


 続いてサエラスさんの声が僕のすぐ近くに。


「詳しい事はよくわからないけれど、ユピアーナ様はやはり、人間社会について疎いのかしらね」

「子供みたいなものだと」「そう思えば楽になるんじゃないかなと、ふふ、そうなると子供の喧嘩ね」

「ど、どうせ僕はお子様ですよ、ええ」「学院で立派な奥様を見つけないとね、お姉ちゃんも協力するわ」


 ……ちょっとくすぐったくなってきたぞ。


「ひゃっ、ひゃ、ひゃなしを戻しましょ、うひゃひゃ」

「あまり動かないで下さいダルマシオ様」

「そうよ坊ちゃま、動くとお姉ちゃんの手が、滑っちゃうから!」


 どういう脅しだ、どういう!


「ユピアーナ様って、怒ってこの村を、この地域を壊したりとか」

「そのような事をする方であれば、元々味方になっていないと思われますわ」

「自ら語られたあの勇者と聖女の話、あれが本当ならよく辛抱したわって思っちゃうわね」


 うん、あの二人だけそのまま生命力を吸い切っても良かったのにってレベルだ。


「それなのに、しょげているっていう事は」

「力で言う事をきかせるという行為が、本意では無いのでしょう」

「それはすなわち、ダルマシオ坊ちゃまが捨てようとすれば、本気で捨てられるってことね」


 それはもったいないよなあ……


「そういえばユピアーナ様の強さ、実際に見てどうでした?」


 ってカタリヌさんはついて行ってないんだっけ、

 なのでここはサエラスさんが答えてくれる、すんごい近くで。


「強かったですよ、ダークネスドラゴンをティムできる程に」

「でもそれってティム能力、魅了魔法か何かなんでは」

「まず最初に暴れる母ドラゴンを、ハグで大人しくさせていましたから」


(魔神はんぱねえええええ!!!)


 凄いな、まあユピアーナ様本来の姿と力を使ったのだろう。


「そんなユピアーナ様を、メイドとしてしっかり、抑えつけられるかなぁ」

「ダルマシオ様、そこはやはり、今夜じっくり話し合っていただくべきかと」

「夜のベッドでは誰も邪魔しないはずよ、そこでしっかり、じっくり、ねっとり、ね?」


 なんだよ最後のは!!


「ま、まあ、僕だってメイドについて、まだわからない部分も多いし」


 特に『夜伽』について。


「ではこういたしましょう、一緒に勉強し、成長していくというのは」

「ユピアーナ様と?!」

「はい、ダルマシオ様は貴族として、ユピアーナ様はメイドとして」


 ……そんなに対等で良いのだろうか、良くも悪くも。


「はい、お湯をかけます」

「頭から行きますよ~、ほらぁ~」

「うわっぷ! ……ふう、気持ち良い」


 タオルで顔を拭いてもらうと前が見える、

 ってお風呂場に入って来た少女がひとり、

 王都へ行きたがっていたメイドのブランカちゃんだ。


「わ、わっわ、わわわわたしも、あ、あっら、あらららいにににににっっ」

「無理しなくても良いのですわよ」「男の人の裸なんて、親以外見た事ないでしょう?」

「こっ、こここ、こどもたち、年下の子たちならららら……」


 顔が真っ赤っ赤だな、

 カタリヌさんとサエラスさんの話だと本当にウブみたいだ、

 来たのは良いが少し近づくものの顔を両手で覆っている。


「あっ、もう湯船に入るから」


 足をお湯へ……あっちっち、

 魔神基準の熱さなのかなこれ、

 場所を魔王の口から遠い場所へ……うん、このあたりなら平気だ。


 さっばぁ~~~~~っっ……


「ふううううううううぅぅぅぅぅ……気持ち良い」


 方まで浸かる僕に再度、

 話しかけてくるカタリヌさんとサエラスさん。


「重要な事を言いますが、ダルマシオ様のメイドは私達も居る事をお忘れなく」

「ユピアーナ様と仲直りしてくれたら、お姉ちゃん達が両方、ちゃんとバックアップするわ」

「うんわかっている、メイドは大切にするよ、だって僕の……家族みたいなものだから、さ」


 こんなに急に代替わりするとは思ってもみなかったけど、

 おそらくこれから、長い長い付き合いになる……んだよね?


「あのっ、一応確認なんだけどさ」

「はいダルマシオ様」「はい坊ちゃま」

「僕のメイドって、いつまで?」


 顔を見合わせるふたり。


「そうですね」「やはりそれは」

「ダルマシオ様が」「ダルマシオ坊ちゃまが」

「う、うん」「「お決めになられることかと」」


 投げられちゃった!!


「そうんだ、僕で決められるんだ」

「メイド長と副メイド長はそうですね」

「それ以下に関しては私達と坊ちゃまが相談して決めましょう」


(そう言われても、ねえ)


「じゃあ、お二人が決めたのを僕が了承する形で」

「それでよろしけてば」

「坊ちゃまのご意志に従いますわね」


 ……本当に何でも言う事、聞いてくれるのかな。


「あの、もし僕が今、ふたりと一緒にお風呂に浸かりたいと言ったら」

「……では脱いで参りますね、眼鏡は外した方がよろしいでしょうか?」

「お姉ちゃん嬉しいわ、裸のお付き合いができるのね」「いやいやいや、もし、もしもですって!!」


 いま、本気で脱衣所へ行こうとしなかったか?!


「あのっ、わわわわわたしも」「ブランカちゃんもいいから!!」


 うん、主人として言葉には気を付けよう。


「さて、のぼせてきたからそろそろ出ようっと」


 大事な部分はタオルで隠してねっ!!


「ではバスタオルで拭かせていただきます」

「風邪ひかないようにしっかりね、ふふふ」

「いやサエラスさんその笑みなんですか」「サエラスお姉ちゃんよ」


 といった感じでお風呂を出たのは良いのだけれども……


(出たところでアンヌさん姿のユピアーナ様が待っていた)


「……御主人様、申し訳ありませんでした」

「い、いや僕も、言い過ぎたかも」

「今夜、じっくりお話をさせていただいても、構いませんでしょうか」


 なんだか頑張って敬語を言っている感じだ。


「う、うん、まあ、お話程度なら」

「ありがとうございます、では、のちほど」


 そう言ってお風呂場へと入って行った……


(これは、ふたりっきりの方が……良いかな)

 

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