第21話 色んな意味でドキドキの夜!

(結局、確信的な部分は上手に誤魔化されていたなぁ……)


 豪勢な夕食を頂く僕、

 全体的に色が黒いのはひい爺ちゃんの喪に服するため、

 という訳ではなく、この村で取れる物が基本的に黒とか灰色だ。


(肉まで黒いけど、これブラックリザードか)


 美味しいから良いけれども。


「あっサエラスさん、ユピアーナさんが中の人なメイドと、

 メイド長のカタリヌさんは……姿が見えませんが」

「居残りで教育ですよ、さすがにメイド長も不味いと思ったのでしょう」


 うん、だよね、あれは無い。


「……いざとなったら再封印できるんだっけ」

「しーっ、しぃーーーっ!!」

「あっ、ごめんなさい……でも本当に、いざという時の選択肢として、考えておきます」


 いや脅すつもりは無いけれども、

 よくよく考えたら相手は魔神様だ、

 遊びに飽きて『やっぱや~めた人間滅ぼそう』という可能性も、ゼロじゃない。


(本当に、学院に連れて行って大丈夫かなぁ……)


 そのあたりの見極めも学院へ行く前に見定めないと、

 まったくひい爺ちゃん、何ていうものをプレゼントしてくれたんだか、

 これじゃあ遺産どころか押し付けだよ、まだ見ぬ奥さん候補が引いて逃げたらどうしてくれるんだっていう。


(奥さん探し、か)


 ……実は僕の中では半分くらい、

 いや四割くらいかな、僕みたいな辺境貴族、

 もう当初から用意された最低限保証のメイド婚約者で良いと、あきらめ気味だ。


(彼女には失礼だとおもうけどね、うん、それはずっと心が痛い)


 色々あって彼女に拒否権は無い、

 それでも本当に僕に、僕ごときに良くしてくれた、

 姉上と一緒に王都の学院へ立った時は、泣いちゃったくらいには。


(行きに彼女も回収するとなると、大所帯だな)


 カタリヌさんサエラスさんドリーちゃん(サンドリーヌさん)、

 タマラさんにユピアーナ様はアンヌ、アンナどっちで行くのだろうか、

 それに彼女を加えるとメイド六人、うん、お屋敷を借りるしか無いな。


「それで坊ちゃま」

「あっはい、サエラスさん」

「今日は色々あってお疲れでしょうから、食後はお風呂に入って、早めに寝室へ」


 いや、そんなに言われるほどは……疲れているか、

 特に精神的にね、うん、朝からびっくりな事が多すぎた。


「そ、そっ、そそそそそれで、夜、その、夜伽というのは」

「ユピアーナ様が楽しみにしていらっしゃいますね」

「ええっと、先ほどの説明では、全てはわからなかったのですが」「そうなの?」


 いや急に素で聞かれましても。


(メイド講習会で聞いた話はですねえ……)


 小さな子供に対しては寝付かせメイド、

 乳母メイドがひとりで済ませるのが小さい規模の貴族だが、

 大きい所だと子守り子育ては大変なので寄るだけこっちに交代すると。


(ようはナースメイドの夜勤番とでも言うか、子守り方面のね)


 ただ、これが相手が、

 お世話する当主や跡継ぎ、坊ちゃんが大きくなると、

 眠る直前の体調チェックとか、眠れない時の話し相手とか……


(寝汗を拭いてくれたりもするらしいよ!)


 確かに眠れない夜、不安な夜とか、

 メイドお婆ちゃんが手を握ってくれて眠れた事がある、

 学院の友人は『メイドの子守唄が音痴で困る』とか言っていたっけな。


(最後にカタリヌさんが言っていたのが気になる……)


 そう、ラストに、


『御主人様が気持ちよく眠りにつかれるためのメイドです』


 それを聞いてどきどきした、

 うん、妄想は膨らむんだけれども……


「ダルマシオ様、お話は終わりました」

「あっ、カタリヌさん、それとアンヌさん」

「……御主人様、失礼した、特に御主人様の前で申し訳ない」


 あー、綺麗なお辞儀をしちゃって……


「い、いいんですよ、いや良くは無いか、

 とにかくこれから、本当の意味での『メイド』に慣れていただければ」

「誠心誠意、尽くさせていただく、どうか見捨てないで欲しい」


 ……ユピアーナ様が出て来ない所を見ると、本気だなコレは。


「わかりました、それはそうとリボン付けたんですね、ピンク色ですが」

「ああ、これは『夜伽可能なメイド』の印らしい」

「ええっ」「私も付けて参りましたわ」「カタリヌさんまで!」


 そっ、添い寝してくれるメイドは限られているのか、

 そりゃそうだよな、ナイトメイドっていう役割があるくらいだし。


(でも、メイドお婆ちゃん達、全員リボンはピンクだったような)


 ということは……うん、普通の『添い寝』っぽい。


「ではダルマシオ様、夕食がお済みになられたらお風呂の方を」

「はいはい、あの大きなお風呂?」

「そうですね、私とアンヌでお世話させていただきます」


(お風呂でお世話って、この年齢で?!)


 うーん、髪の毛を洗ってくれるのかな?

 あと背中を流してくれたり! ……緊張するな。


(アンヌさんの、力加減が心配!!)


 とデザートを食べながら思う僕であった。


「あ、あのっ」


 あっ、隅っこに居た少女メイド、

 といっても僕よりひとつ年上だけれども、

 名前はええっと、そうそうブランカちゃんだ。


「どうしましたブランカ?」

「はいカタリヌ様、わ、私も、リボンを……ピンクに」

「まだ早いですね、二年は我慢しなさい」「はいぃ……」


 がっ、我慢って!!


「ええっと、僕に選択肢は」

「その、どうしても、どうしても王都に」

「あーはいはい、ピンクにすれば、ついていけると」


 僕ってそんなに夜、ひとりで眠れないタイプに見られるのかな……

 確かに寂しい思いはしてきたけど、もうすっかり慣れっ子だい!!


「ちなみにアンヌさん、ユピアーナさんでもいいや、

 闇属性でこの土地でないと生きられない人を王都に連れて行く方法はありますか」

「……せめて光属性に目覚めさせれば、それで包み込む事は可能だ」「方法は」「知らん」


 じゃあ駄目じゃん!!


「ということでブランカさん、あきらめて下さい」

「そんな」

「と言いたいが、近代魔法と古代魔法の組み合わせで何とかできるかも知れないな」


 転移魔方陣みたいな感じでかぁ。


「で、でっ、ではそれが完成すれば」

「しかし、それと連れて行くのはまた別の話だと思うが」

「私、私っ、夜のお仕事も、必死で、一生懸命に頑張りますからっ!!」


 ……そんなに力んでやるような事なのだろうか?


(本気で眠らせます! とか、後頭部を殴られそうな気がする)


 永久に目覚めない、まであるなそれだと。

 まあ実際はメイドお婆ちゃん達みたいに睡眠闇魔法とかだろうけど……


「ところで今更ですが再確認を、この屋敷はユピアーナ様のものですよね」

「そうだが、その主人はダルマシオであり、よって必然的にダルマシオのものだ」

「それだと魔神ユピアーナ様の主人が人間の僕ということに」「それは違うな」


 なんだそりゃ。


「ええと、つまりは、どういうことで」

「メイドであるユピアーナの主人がダルマシオだ」

「つまり魔神の主人ではないが、メイドであるユピアーナ様の主人であると」


 使い分けが面倒臭い。


「いや、魔神メイドのユピアーナがダルマシオを主人としてだな」

「確認しましたよね、確かユピアーナのときは僕より立場が上で、メイドの時は僕より下で」

「しかし、基本的にはメイド魔神ユピアーナという事になる、その場合……」「でもそれだと……」「では……」


(ああーーーっ、もうっ、いらいらしてきた!!)


「ユピアーナ様!」「なんだ」

「自分勝手なメイドごっこがしたいのなら、他所をあたって下さい!!」


 もういいや、こんな茶番。


「……すまない、本当にすまない」

「謝らないで下さい、世界を救った魔神ユピアーナ様」

「わかった、呼ばれるまでユピアーナは封印だ、今後はアンヌかアンナで、メイド長と御主人様に従おう」


 ……そこまで言うのであれば、まあいいかな。


「わかりました、メイドの皆さんとも仲良く」

「ああ、私も目覚めたばかりで、まだ心の整理が出来ていないのかもしれない」

「なら……仕方ないですね、僕もちょっと気を使えなかったかも、ごめんなさい」


 主人がメイドに謝っちゃった。


「ダルマシオ様、これからの教育は、わたくしめに」

「はいカタリヌさん、よろしくお願いします」

「と同時にダルマシオ様の教育も、致しますからね!」「ひいっ!!」


 そりゃそうか、貴族としての教育を、ね。


「さあ、ではそろそろ」

「あっはい、お風呂に入り……ます」


 どきどきドキドキ!!!!

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