第20話 メイド講習会にこっそり潜入!

「なるほど、ここがここに、こう繋がっているのか……」


 談話室での打ち合わせが終わり、

 夕食まで自由時間と言われたので好き勝手に屋敷を回る、

 メイドの皆さんは『やる事がある』というので一人、勝手気ままだ。


(いや、ほんっとに誰も見ないな)


 かろうじで書斎という名の図書館で子供を見たくらい、

 しかも大人しくしているもんだから、よく躾けられたものだ。


(こういう所って、はしゃいだり騒いだりしてる子がひとりは居るものだけどな)


 まあ魔神ユピアーナ様のお屋敷だからね、

 それにおそらくこの村最大の建物かつ遊び場?

 出入り禁止になったらそれこそ、行く所が無くなるレベルで不味そうだ。


(学校も一応、あるにはあったけどね)


 雨とか降るとあの巨大なティムモンス小屋で走り回っていたのかな、

 そう思うと少し申し訳ないような想像をするが、まあ本来の使用方法だ。


「ええっと、それで結局、メイドのみんなはどこへ……?!」


 などとつぶやいてみても見つからない、

 ひょっとして館の主(あるじ)が目を覚ました以上、

 勝手に働いていた者達は一旦、解雇扱いになっちゃうとか?!


(だったらユピアーナ様と、即刻で面会開始だ)


 そんなこんな考えながらトイレ意外と多いなとか、

 メイド専用区画は入るなって言われているからみんなあっちかなとか、

 四階五階からゴミをストンと一階まで落とせる穴に感心したりしていると……!!


(あっ、会議室から声が聞こえる!!)


 覗くと綺麗に整列して座っているメイド達、

 前の方は背の低い子供メイドだな、後ろへ行くとでかくなる、

 そして最後方は……アンヌさんが窓際で両足を机に乗せている。


(どこの不良学生だよ)


 そして先生役はメイド長のカタリヌさんだ、

 うん、あの眼鏡はいかにも行き遅れ女教師で居そう、

 学園とかだと言う事きかない生徒にヒステリーを起こすタイプだ。


(僕だとカタリヌさん相手だったら、つねられて終わりだけれども!)


「……という訳で、本格的にこの館はメイドを必要と致します、

 今までのようなメイドごっこではありません、本当の、本物のメイドですからね、

 それではもうご存知の方もいらっしゃるでしょうが、メイドの種類について改めて説明いたしましょう」


 あっ、これは興味ある!

 でもメイドだけの会議だし、入って行く訳には……

 いや、一応この僕が館の主人ってなるなら、聞く権利はあるはずだ。


(それに、最後方で態度の悪いメイドが気になるし)


 これって本来はメイド長か副メイド長が注意するべきだよな、

 相手がユピアーナ様だから、っていうのは通常しないはずだ、

 これは今後の関係にも影響するし、なにより打ち合わせで話した内容もあるし……


(こっそり、こーーーっそり後ろから……)


 入ると一斉にみんながこっちを見た!


(カタリヌさんまで話を止めないでーー!!)


 まあいいや、

 僕はスタスタと両足を机に乗せたメイドの方へ。


「アンヌさん」

「どうした御主人様」

「いやいや、その足はダメでしょう」「長いという事か?」


 駄目だわかってない。


「ええっと、メイドの態度では無いです、

 いや、強い戦闘メイドでそういうのが許されるのは居たかもしれませんが、

 ウチにおいてそれはさすがに」「ではどうすれば」「机に乗せないで下さい」


 あっ、素直に下ろした!


「いけなかったのか」「まあ、もちろん」

「誰も教えてくれなかったぞ」「カタリヌさーーん?!」

「い、いえっ、常識な事なので、わざとやっているのかと」


 うん、だとしてもっていうのがあるけど、

 それでも言い難いのはよくわかる、僕も心の中で震えている。


「えっと、アンナさんのときはちゃんとした口調でしたよね」

「ああ、あれはそういうキャラクターだからな」

「……後でカタリヌさんにそのあたり、ちゃんとカスタマイズされて下さい」「わかった」


 意外と素直に従ってくれるっぽい、

 良かった、本当にいざとなったらクビにする覚悟だったよ。


(うん、あれは無い、まあ知らなかっただけか)


 八十年前のメイドごっこでも、

 七英傑はユピアーナ様を扱い辛かったのだろうなと実感した、

 でも本気でメイドごっこをしたいのなら、ごっこじゃ済まされないからね。


「あっ、後ろで立って聞いているので続けて下さい」

「……やりにくいので、お座りくださいませ」

「そう? そう言われるのであれば、失礼して」


 最後列の空いている席へ。


「では続けます、メイドの種類というのはですね、

 これは主にこの国、グランサーヴァの貴族においてのメイドです、

 サヴァンティア大陸内外に他所の国や、異世界の話ではありませんので……」


 なんだよ異世界って、

 話が飛びすぎだけど言いたい事はわかる、

 それは違うんじゃないか? って他所の文献を持ってこられても困るからね。


「まずはメイド長、他国ではメイドを束ねる『ハウスキーパー』と呼ぶ場合もあるそうですが、

 その場合はメイドでは無くなるそうです、我が国ではメイド長であり、新しいメイドを雇う時などは……」


 とまあ説明が長いし、

 ずっとカタリヌさんが喋っているだけなので、

 僕がまとめます! メモ帳とペンでも持って来た方が良かったかな。


(若いメイドはみんな書き記しているし)


 ということでメイドの種類。


・メイド長(ハウスキーパー)→メイド統括、シフトや新規雇用も行う、執事代理をする場合も。

・副メイド→メイド長の補佐、メイド長お休みの時のメイド長、奥様付きメイドが副メイド長だったりもする。

・レディースメイド→奥様やある程度成長した娘の侍女、お化粧やら着衣、装飾品の手入れや装備を手伝う。


 ここまで上級メイド。


・キッチンメイド→料理係、その上に男性(とは限らないが)のコックすなわち料理長が居るのが上位貴族だが、

  貧乏伯爵や子爵以下だとキッチンメイドの最上位を『コックメイド』にしたりしなかったり、ウチだとひとりだけだったけど!

・ハウスメイド→家事全般を把握する、下に掃除洗濯料理ほか色々なメイドが居れば中間管理職だが、

  居ないようならその手の事をひとりやふたりでやらされる、上位貴族なら隊長的な、下位なら雑務的なメイド。

・ナースメイド→子守り、回復係。 元々は乳母メイドの事を呼んでいたらしいが、怪我や病気の治療もする、

  よって回復魔法が得意なメイドが担当するが、仕事が無いときはシーツ交換や掃除など衛生的な雑務をやらされるとか。


 一応、ここまでが中級メイドらし。


・ウェイティングメイド→普通のメイドと一緒くたにされる事が多いのであまり使われない呼び名らしいが、

 レディースメイド予備軍というか下部組織というか、このあたりは大貴族での、メイド組織の一部というか細かい話はいいや。

・チェインバーメイド(ナイトメイド)→正式名はともかく後者の方がこの国いやこの大陸においては一般的な呼び方かな、

 元は寝具の手配やメンテナンス、枕元の夜番専用メイドで低地位なのに高級取り、ようは夜伽専用メイド、いや夜伽って添い寝だよね?! ねっ?!?!

・パーラーメイド→接客メイド、大きい貴族の屋敷とかでは沢山メイドが居るため、来客に対し出てきて良いメイドが区別されていて、

 地位も平(ひら)メイドよりちょこっとだけ高いらしい、容姿だけで選ばれて普段は何もしないメイドや、安く身体で接待するメイドもって余計な情報入れないでー!


 ここまでが下位メイドもしくは中下位メイド。


(子供もいるんだから、あんまりアッチな説明は……まあ仕方ないか)


・スティルルームメイド(ルームメイド)→元はお茶やお菓子の管理だが、倉庫の管理をする。

 物が減っていたりすると真っ先に疑われてあっさり処分されるので地位が低くても必死に働く。倉庫メイドとも。これも大貴族用かな?

・バトルメイド(戦闘メイド)→メイドでありながら兵士、地位は低いとされるが強ければ強い程地位が上がる、

  奴隷の女性もメイド服を着せられてこれをしたりするので、低く見られるのはそのせいもあったり。 貴族間ではお金が代わりに売買される事も。

・メイド(ノーマルメイド)→普通メイド、通常メイド、無印メイド、雑務メイド。


 以上が最下位メイド、底辺メイド、わざわざ下げて言うなっていう。


「……他にもデアリーメイド、ランドリーメイド、必要な時に黙って立っているだけの日雇いステップメイド等、

 専門的なメイドも多々いらっしゃいますが、基本は以上となります、それぞれの適正は意識しましょうね」

「なんだ、私はオールマイティーメイドだぞ」「アンヌさん、今はおとなしく」「……わかった御主人様」


 さてさて、

 これって実は僕も誰がどれか決める必要があるのか?

 僕の中ではメイド長に全てお任せのつもりなんですけれども!!


(どうするどうなる、僕のメイド編成?!)


 ま、出発までには決めてくれるでしょう。


「それではこれからメイドの仕事、それぞれのおさらいですが……」


 うん、夜伽メイドの部分は、ばっちり聞こうっと!!

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