第17話 村の事は大体わかった!

「……という訳です」

「なるほどなるほど」


 僕が住んでいる方の街ダクスヌール、

 その事実上の現領主、村長に見えるけど町長のゲンズブールさんから、

 改めてこの『闇の村』も含めての話を聞いた。


(ここの村長、グザヴィエさんとは違った角度で教えて貰えたなぁ)


 まとめると、こうである。


・スゥクネィダ地方には昔から土地が発する闇の臭気に適した、

 魔法の使い手や闇魔力の持ち主が住んでいたが外では差別を受けていた


・しかし、その土地でしか手に入らない農作物や薬、魔物の素材等は貴重なうえ、

 なんだかんだ言って魔力の強い闇魔法使いや薬の調合師は貴重である


・ゆえに彼ら彼女らを護る必要があるため、

 我が国グランサーヴァでは強い光の魔力を持つ者を中心にここを護ることとした


・そして『闇の村』から村民が直接、交渉や商売をしようとしても

 いかに貴重な品であっても差別により足元を見られたり相手にされなかったりする


・そこでワンクッション置くために登場したのが我がダクスヌールという村、のちに街。

 闇魔法使いの存在、闇の住民を隠しつつ『耐性があるので』と光の魔力を持つ者が生活している。


「ダルマシオ様は、学院を卒業したら、すぐにでもダクスヌールを継いでいただきたい」

「はあ、確かに随分と長い事、村長もとい町長を務めあげていただきましたから」


 そう、僕が産まれる前から。


「……孫が生まれまして」

「そては、おめでとうございます」

「ちと早いかもしれませんが、隠居をしたいのです」


 うん、ダクスヌールまで派遣された身だからね、

 それを言ったら僕もだけれど、僕の場合は他に居場所が無い、

 いや、あえて言えば姉上の所だけれど、あそこはあそこで色々と……


「わかりました、直(す)ぐにというのであれは父上に掛け合って」

「いえ、まだ三年は大丈夫です、ただ戻ってらした時は徐々に引継ぎ作業を」

「そうは言っても、一度王都へ行っちゃうと三年間、帰ってこれないかもしれないし」


 このあたりは行ってみたいと、である。


「かしこまりました、ただユピアーナ様も復活なされたという事でより、大変かと」

「あっ、ゲンズブールさんは知っていたのですか」

「ええ存在は、お目にかかった事はありませんでしたが」


 そうなんだ、

 大切に封印されていたんだろうな。


「もうちょっとしたら戻ってくると思いますが、昼食の約束してますし」

「いえ、もう戻って色々と準備が、ダルマシオ様、三年後に戻って来た時には是非、奥様を」

「あっ、ええっと、うん、最悪、学院で見つけられたかった時の相手が姉上の所に」


 メイドだけれども。


「お子様も光属性で魔力が多分にあるとよろしいのですが」

「もうそんな話?! 駄目だったら姉上の所へ預けるよ、実家は嫌だ」

「ウチは息子も娘も駄目で、孫も……いや、子は宝ですゆえ、もちろん大切にしておりますが」


 それでも期待はしていたんだろうな、

 ウチの場合は一応、光の魔力が一番濃いのが僕らしいけど、

 肝心の魔法が使えないからってココ送りである。


(スゥクネィダ地方のことね)


「わかりました、あともう少しだけ、三年だけ頑張って下さい」

「はい、辺境伯様の方にもその意向を伝えさせていただきます」

「あっ、そういえばひい爺ちゃんのお葬式には」


 行かなくても良いのかな。


「私はリアッド様の弟子ですので、その必要は無いとすでに言われております」

「そうですか、爺ちゃんがそう言うなら」


 ひい爺ちゃんが七英傑のひとり、大魔導師ギリオスで、

 そのひとり息子が僕の爺ちゃんである大魔法使いリアッドである。


「それでは失礼致します、ユピアーナ様にはまた、改めて」

「はいはい、御足労ありがとうございました、あっ、ここへ来るのってやっぱり」

「はい、シャドウホースで……野生がこの闇の村、その奥地に住んでいますよ」


 そして帰って行ったゲンズブールさん、

 うーん、もうちょっと町長らしい立派な服装にしてあげたい。


(どんだけ中抜きしているんだよ、ウチのダクリュセック辺境伯家は!!)


 カタリヌさんが僕や町長さんの飲み終わった紅茶を片付ける。


「……ふぅ~~~っ」

「ダルマシオ様、浮かない顔ですが」

「うん、意外と大変なんだなあって、領主になるの」


 なんだかんだ言って僕ごときが任せられる場所だから、

 闇の臭気に耐性さえあれば、あとはお飾りでイージーモードだと思っていた、

 それがこんなに複雑な事情を、しかも隠し続けないといけないなんて……。


「何もひとりで治める必要は、ありませんわっ」


 眼鏡を直し、僕の頭を撫でてくれるカタリヌさん、

 さすが二十八歳だけあって、大人な女性だなって感じ。


「うん、それぞれの分野はそれぞれがやってくれるとは思うけれども……」

「そういう意味ではありませんわ、奥方の事です」

「あー、そうだね、しっかりした奥さんが居てくれれば……僕より有能なら、投げちゃいたい」


 むしろそっちが領主、みたいな。


「王都で御学友でも新たに知り合った方でも構いません、

 有能な女性をさがして心を射止め、連れ帰る事ができれば……」

「それだけどさ、僕の場合はこの土地に耐えうる奥さんっていう高いハードルがあるから」


 ……本当に有能なら、

 手前の姉上の街で別居してもらって、

 指令だけ出して貰うって方法も無くは無い。


(でもそれだと、どっちみち実務は僕かぁ)


「ダルマシオ様、今更ですが」

「はい、なんでしょう」

「奥方は、ひとりでなくても構いませんことよ」


 うん、一応は知っている、

 というか僕の母上は第四夫人だし!

 

「それこそもっとハードルが、辺境伯にはならないと」

「七英傑の血が流れているのですよ、決して不可能ではありません!」

「いやいや、九男の僕が父上から継げる訳が」「では独自に」


 もっと無理だ、それこそ八十年かかる。


「まあ一応、王都でのお嫁さん探しはするけれども」

「闇属性の土地に耐性があり、政治力も優れ、領地運営の能力に長け、

 丈夫な子供できれば男の子を沢山産める、ダルマシオ様を心の底から愛して下さる女性を是非!」


 いや是非! と言われましても。


「無茶言いますね」

「できれば三人ほど」

「まあ、言うのは無料だからね!」


 結局は最低限保証の婚約者メイドに行きつきそう、

 闇の臭気に耐性があるって時点で最も低いハードルをクリアしてるし。


「あっ、そろそろ行かなきゃ」

「食堂ですね、外のお店の」

「うん、闇の大衆食堂、お店の名前知らないけど」


 とまあ、屋敷を出て向かってみると、

 行く方向に何か大きな影を感じ取った!


「あれ? あれってもしかして……魔物?!」

「そのようです、村は結界で護られているはずですが」

「急ごう、何かあったら……何もできないけれども!!」


 我ながら情けない。


(だって魔法が使えないんだもーん!)


 そうして行き着いた先は……食堂の前だった!!


「あっ、大きなドラゴンと四匹の小さいドラゴン!」

「おうダルマシオ、ダンジョンの先の森で見つけてきたぞ」

「ええっと、これは」「ああ、土産だ、ティムしてきた」


 いきなり凄い手土産きちゃったーーー!!!


「ど、どどどどうするんですかこれ」

「とりあえず食堂で飯を食わせるつもりだ」

「ええっと、お金は、あ、あれがあるか」


 宝箱の旧金貨!


(後ろのメイド達も呆れ顔だぁ)


「では早速入るぞ」

「お店に迷惑かからないかなぁ」

「外なら平気よ、お姉さんが話してくるわ」


 あっ、そうだったここサンドリーヌさんの実家だった。


「それにしてもユピアーナさん、これって」

「ダークネスドラゴンだ、おそらく群れから追い出されたのだろう」

「ティムって今日はともかく、これからどうするんですか」「ドラゴンは雑食だ、心配するな!」


(いやいや、食費、食費ーーー!!)


「話してきたわ、『闇のキクラゲ』なら、いくらでもあるって」

「ではそれを、たらふく喰わせてやろう」

「い、いいのかなぁ……??」


 魔神様ともなると、ドラゴンがペットか。


(飼えないから元の場所へ戻してきなさい! とか言えないよね)


「さあ、みんなは中へ」

「あっはいサンドリーヌさん、お邪魔します」

「なんだ入口が狭いな」「ユピアーナさんはアンヌさんかアンナさんになって下さい!」


 結局、奥でアンヌさんに変身しましたとさ。


(昼食だけで、ひと騒動だよ!!)

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