第16話 闇の村を見て回ろう!
「懐かしいな、この村もかなり変わったようだ」
「そうなんですか、そもそもユピアーナ様ってどこの」
「この村が一番近い人属の村、とだけ言っておこう」
出身地の、かな?
そもそもこの地域自体が人外魔境だ、
最奥地に魔神の集落が、とか言われてもおかしくない。
(あっ、村人が丁寧に挨拶してくれている、道の脇に立って)
角が出た魔神の姿なのに怯えたり逃げたりしない所を見ると、
ユピアーナ様の存在をみんな知っているんだろうな、
メイド服な事にも誰も突っ込まないというか突っ込めないというか。
「御主人様よ、私の方が目立って済まない」
「あっ、別に良いですよ、僕ってまだ領主でも何でもないですし」
「何でもない事はないだろう、人の姿になった方が良いか?」
と、ここへお婆さん魔女が近づいてきた。
「ユピアーナ様、復活おめでとうございます」
「おお、その魔力は確か、サマンサか」
「はい、八十年間、お待ちしておりました」
知り合いみたいだ、
だとすると九十歳前後かなこのサマンサさん。
「魔王を倒してきたぞ」
「はい、タバサもスザリンもクルシュも喜んでおりました、
私だけでもこうしてお話できて、うれしゅう……ううう」
とまあこんな感じで闇の村を見て回っている、
お供は僕付きメイド四人、いやユピアーナ様も入れたら五人か、
と同時にユピアーナ様に僕が付いているというか、ややこしいな。
(子供達もちゃんと道の脇に立って頭を下げてるし)
僕ですら街でこんな事されないのに!
ユピアーナ様はそれだけこの村の象徴とかなのだろう。
「あっ、あの黒く大きな小屋は」
「ダルマシオ様、あれは村役場ですわ」
「真っ黒だね、そして近づくと意外と大きい」
脇には例のシャドウホースが何頭か停められている。
「坊ちゃま、中は商業ギルドと冒険者ギルドが同居しているようなものなのよ」
「あっ、A級以上の冒険者が入れるんだっけ」
「一応、宿もあったのだけれども」「無くなっちゃったの?」「いえほら、今日からは」
……あっわかった、
ユピアーナ様が封印されていた屋敷を宿にしていたのか、
いいのかそれ、まあ他にそれだけ立派な宿泊施設が無いなら仕方ないか。
「御主人様、ならば今日からどうする」
「……別に良いんじゃないかな、でもユピアーナ様の存在がバレるのは」
「その時は一貫して、人の姿になっていよう」
一応、中を覗く……
うん、冒険者とかは居ないみたいだ、
そしてよく見るとウチの街で見かけるのがちらほら。
「ユピアーナ様、復活おめでとうございます!」
声をかけてきた受付嬢、
着ている服が冒険者ギルドの服だが、
ここのはそれが黒を基調にされている。
「うむ、メイド登録はできるか」
「一応、ここでも出来ますがユピアーナ様としてでしょうか」
「いや違う、できれば二種類なのだが……」
とまあ色々とやりとりしたのち、
奥の来客室か何かに入ってやりとりしていた、
僕は狭いロビーで待っていたけど……なぜだって?!
(変身すると服が脱げるからねっ!)
ちゃんとアンヌさん、アンナさんの姿を
確認して貰って登録したみたい、いいのかこれ。
「ダルマシオ様、ついにいらっしゃいましたか」
「あっ、ブリックさん!」
うちの街の商業ギルドで働いているおじさんだ。
「ユピアーナ様のメイド登録、大丈夫なのですか」
「はい、ダクスヌールに空家地帯がありますでしょう、
この村の者は書類上は、あそこに住んでいる事になっております」
じゃあそこを住所にして登録しているのか、
僕の知らない所でそんなことを……まあいいけど。
「それより冒険者ってよく来るんですか?」
「たまにですね、口の堅い信用の置ける方々のみ、
もちろん村の物で冒険者登録をしている方もいらっしゃるので」
そりゃそうか、
たまに凄い素材が街に流れて来ているのは、ここからだったのか。
「ダルマシオ様も、王都の学院へ行かれても、この村の事はご内密に」
「うん、とても言えないよ、そのあたりは心配しないで欲しい」
とまあ話していると、
メイドの身分証明書を二枚持ったユピアーナ様が戻ってきた。
「実はこれ、冒険者カードにもなるらしいぞ!」
「あっ、そうですね、八十年前は違うんですか」
「確か別々で必要だったはずだ、顔写真というものも貼られたぞ」
確かにアンヌさんアンナさんの身分証明だ、
いいのかなぁ冒険者ギルドぐるみ、いやこの場合は商業ギルドか、
ギルドぐるみでこんなねつ造まがいの事を……出来てるって事はいいのか。
(世界を魔王から救った、真の英雄様だからね!)
「さあ、村の散策を再開しようではないか」
「あっはいユピアーナ様、じゃあブリックさんもまた」
「行ってらっしゃいませ」
こうして出るとここは村の中心街だなって感じがする、
少し歩くとこれまた真っ黒な小屋の食堂があったり……
「お昼はここにしません?」
「御主人様が望むなら、是非だな」
「嬉しいわ、ここ私の実家なのよ」「サンドリーヌさんの?!」
それはさぞかし、
ちびっこ給仕係として人気になっただろう。
「じゃあ後で……あっ、あそこは」
「学校ね、生徒は十七人よ」「結構居ますね」
という感じで見て回って村の奥へ奥へと、
うん、ヤバそうな植物を栽培していたり、
グロテスクな家畜が居たり、このあたり初めて見るな。
「あっ、洞窟が! ダンジョンですか?」
「ここは『闇のキクラゲ』栽培所ですねぇ」
「そんなのがあるんだ」「美味しいですよぉ、栄養満点で!」
うん、とある部分に栄養が行き渡っているタマラさんが言うと説得力があるな。
「本物のダンジョンはさらに奥らしい、見て来たいがダルマシオも来るか?」
「あっ、ええっと……」
ダルマシオ呼びって事は、
メイドとしてではなく魔神としての誘いか、
なら断れないかなぁ、でも怖いしなぁ。
「ま、まだ僕はその、剣の腕とか全然ですし」
「そうか、位置の確認だけでも良いのだが……」
「ではダルマシオ様は私が見ておりますので、ユピアーナ様は」
とまあ非戦闘メイドのカタリヌさんだけ僕と残り、
ユピアーナ様たちはダンジョンの方へと向かったのだった。
「では、戻ったらあの食堂で落ち合おう」
……ユピアーナ様の強さを見てみたい気もするけど、
今の僕じゃポーターすら出来無さそうだからね、
そして僕は僕でカタリヌさんと一緒に、村の中心へと戻る。
(……これ、誰かに襲われたら大丈夫かなぁ)
いや変な事を考えるのはやめよう、
カタリヌさんは来た道じゃないルートを進む。
「うっわ、いかにも『魔女の館』みたいな家が!」
「ナンスィーの実家ですね、闇魔法研究所です、屋敷の地下はあくまで分所で」
「あっ、じゃあ母子三代って言ってた、ナンスィーさんのお母さんやお婆さんも」「そうですね」
興味あるけど今はいいや、
そうして村の中心街へと戻り、
まだ時間がありそうなのでユピアーナ様の屋敷へ、って僕の屋敷でもあるのか。
「ダルマシオ様、お待ちしておりましたよ」
「あっ、僕の街の方の、村長さん!」
「町長ですよ何度言えば……こちらへ向かわれたようですので追いかけてきました」
そう、光の魔法使い、
町長なのにいかにも村長っぽいゲンズブールさんだ。
「ここだと何なので客間へ」
「はい、今まで隠していて申し訳ありませんでした」
「いいと思うよ、変にバラされたら困るでしょうし」
さすがに十五歳になると、
そのあたりの分別はつくからね。
「改めて、ご説明をと」
「うん、大体は聞いたけど、よろしくお願いします」
これもある意味、
将来の引継ぎ作業にもなるかな。
(この村について、聞き漏らしのないようにもっと色々と聞こうっと)
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