第14話 魔神の古代魔法と近代魔法のミックス!

「待たせたな」


 巨大な魔神の姿になったユピアーナさん、

 角は付いているが服はメイド服だ、ってあれ?


「すみません、封印されていた時の服は採寸で直したんじゃ」

「これは予備だ、アイテムボックスに入れていた」

「あっはい、それは納得しました、が……」


 僕はメイド待機部屋の方を見る。


「着替えるならあっちで良かったんじゃ」

「……それもそうだな」

「まだ寝ぼけている感じですか」「うるさい」


 あっ、ちょっと怒らせちゃった。


(今は魔神様と単なる人間の関係か)


「それでナンスィーとか言ったか、どうした」

「はいっ、ご報告をっ、封印前にユピアーナ様が残された、

 古代魔法の仕組みとその発展系形の可能性、八十年間に渡り母娘三代で、研究致しました!」


 眼鏡かけてると真面目な魔女に見えるな、

 心なしか目も輝いているように……黒髪は相変わらずボサボサだけれども。


「そうか、それでどうなった」

「まずは転移魔方陣ですが、理論的には可能かと!」


 えええええ転移魔法って!!


「あの、それって瞬間移動ですよね、魔王一派が使っていたという」

「幹部クラスがな、私も短距離なら使えるぞ、ほら」

「うわっ、凄い! 廊下もそうやって出れば良かったんじゃ」「誰かにぶつかったらどうする」


 あっ、そういうことがあるのか、納得。


「式図、陣形は歓声しました、こちらですっ!!」

「……ふむ、ふむふむ、ふむふむふむ」

「一応、こちらのパティーンも、ございますっ!!」


 鼻息荒く魔方陣が描かれた紙を見せるナンスィーさん、

 大きな体で、高い位置から覗きこむユピアーナ様……

 

「ふむふむなるほど、今はこのような魔方陣が作れるのか」

「はい、これが近代魔法です、ユピアーナ様が残してくれた陣形のおかげですっ!」

「……ふむふむふむふむ、ここだが、ならばこの線をこうしてはどうか」「そ、それはっ!!」


 なんだか二人の世界に入りつつあるな、

 僕はユピアーナ様が再び入って来た扉が少し開いているので、

 寒い風が入ったりしてこないように閉めに行く……


(あっ、メイドが少し慌ててる、まあいいか)


 御主人様がする事じゃないからね、

 廊下を見るとちっちゃいメイドが掃除している、

 いやサンドリーヌさんことドリーちゃんじゃなく!


(正真正銘の子供だ、お小遣い稼ぎかな)


 これならここを空けても大丈夫そうだ。


「なるほどなるほどぉ! まさに古代魔法と、近代魔法のミックスですねぇ!」

「まだこれでは闇魔法が発動条件になるが、むしろ闇魔法でやった方がだな……」

「あとは光魔法でもやれないことは無いですが、これの四十倍は複雑になりますからねぇ!!」


 なんだかナンスィーさん、

 眼鏡の下が、目が輝いているように見えるな、

 今までの努力が報われようとしている、そんな感じ。


「……よし、では試してみるか!」

「も、もうですかぁ?!」

「やってみない事にはわからないだろう」


 二人して僕がさっき閉めたばかりの扉から廊下へ出る、

 これはついていかないと……他のメイドも後からついてくる、

 廊下ではさっきにお掃除こどもメイドが脇に立ってぺこりとお辞儀。


(よく躾けられているなぁ)


 そして行った先は……廊下の突き当たりだった。


「きちんとスペースを用意してくれていたのだな」

「はい、この屋敷を設計した時から聞いていたそうで」

「では早速、描かせてもらおう」


 髪を触手のように伸ばして床に魔力で魔方陣を描きはじめた、

 ユピアーナ様はこんな事もできるのか、線が光りながら円を描く……

 複雑な図式を丁寧に、何本もの髪の束で作っていくと、あれよあれよという間に……!!


「よし出来たぞ、これでひとつ完成だ」

「では次はぁ」「上にするか、五階へ」


 僕をすれ違いざまに髪の毛で撫でるユピアーナ様、

 くすぐったいなぁもう、子供メイドも撫でてあげている、

 箒が沢山あればあの複数の髪の毛であっという間に掃除が終わりそう。


(うん、最上階も豪華だ)


 五階はなんというか、くつろぎの部屋?

 将来の子供たちの部屋っていう感じもするな、

 いや子供の方が上の階になるのか、別に良いけど。


(この館、僕が貰えるのならそのままダクスヌールまで移築できないかな)


 あー、でもそんな事ができたら、

 それこそ父上に館ごと取り上げられそうな予感が!

 などという事を考えながら五階の廊下、その端へ到着だ。


「こちらは先ほどの魔方陣、その真上になりますっ!」

「そうだな、ではこちらにも……ふむふむふむ、これだとまだ遠距離は無理か……」

「そのあたりはまた、別の魔方陣を参考にぃ」「あるのか、まあ良い今は……」


 こうしてまたさっきと同じ魔方陣が完成した!


「よし、ではまずは私から行こう、もしものために治癒魔法ができる者が下へ」

「ではメイド長たる私が」「あっ、僕は使えないけど一緒に行きます」


 なんとなく見てみたくなった僕、

 カタリヌさんと一緒にさっきの四階へ。


(失敗すると怪我でもするのかな)


 それこそ真上からドーンと落ちてくるみたいな。


「……ダルマシオ様」

「はいカタリヌさん」

「ふたりきりですね」「えっ」


 階段の踊り場でふいに僕を抱きしめてくる!!


「ど、どどどうしたんですか」

「……ユピアーナ様の次は、私でお願い致しますわ」

「あ、はあ」


 そう言ってすたすたと階段を下りて行く……


(次って、何の次だろう)


 まあいいや眼鏡美人メイドに抱きしめられて嬉しい、

 そんな思いで四階魔方陣の前に立って待つ……合図とかいらないよね?

 でも一応、着きましたよって連絡でもしておくかな。


「あっ、ちょっとそこの掃除の子」

「……はい」

「上の魔神ユピアーナ様に」「ダルマシオ様」


 カタリヌさんの声に振り向くと、

 魔方陣が眩しく点滅し始めた!

 そしてその中央に……うん、ユピアーナ様が降臨だ。


(こうして出ると『メイド魔神を召喚しました』って感じがするな)


 そんなサモナーじゃあるまいし。


「……成功したようだな」

「あっはい、おめでとうございます」

「では戻るぞ、一緒にな」「えっ」


 ユピアーナ様に伸びた髪で引っ張られる僕、

 カタリヌさんは普通に歩いて魔方陣の中へ……

 子供メイドがぽかーんと見つめる中、僕らは魔方陣の中から……!!


(あああ、また点滅して、ひ、光に、吸い込まれるううううう!!!)


 ……そして周りが見え始めると、

 五階に残してきたメイドの皆さんがずらりである。


「すごいです、複数人で!!」

「ああナンスィー、お前のおかげだ、三代に渡って感謝する」

「ま、まだまだです、まだ設計したものは、新たな魔方陣はいくつも……ううううう」


 眼鏡を外して泣きはじめた。


(大変だったんだなぁ)


 それこそ自分を犠牲にしてまで、かも?

 あのだらしない感じは魔方陣の研究が全てだったからかも、

 いや、単にああいう性格っていう線のが濃いけれども!!


「では三階以下も作ってしまおう」


 こうして色々と試しながら、

 地下二階まで転移魔方陣を設置したのでした。


(ちなみに最大人数は、ユピアーナ様を含めて一度に八人まででしたよ!)


 あと、闇魔力を持っている人なら誰でも使えて、

 無い人でも持っている人と一緒なら転移できる、と。

 なんていう事を話しながら移動していると……!!


「ユピアーナ様、ダルマシオ坊ちゃま」


(あっ、メイドお婆ちゃんたちが勢ぞろいだ!)


「なんだ」「どうしたの」

「はい、そろそろ……ギリオス様のお葬式に、向かわせていただきます」


 あっそうだった、

 みんなメイド喪服だもんね。


「そうか、行ってくるが良い」

「はい、ユピアーナ様は、よろしいのですね」

「ああ、別れは封印の時に済ませた、今更、老いた顔を見たいとも思わぬ」


 ……よーく考えたら、

 魔王と戦い終わって直後に封印だから、

 ちゃんとしたお別れとかしてない気がするんだけどなぁ。


「わかりました、では弔って参ります」

「ギリオスの後継ぎに、息子か娘か知らぬがきちんと私の封印解除は伝えておくようにな」

「はい、それはもう」


 それは話していいんだ、

 そして僕の前に立つお婆ちゃんたち。


「ダルマシオ坊ちゃま、しばらくお会いできませんが」

「あっはい、カタリヌさんたちに、世話をされておきます」

「それでは戻ってくるまでの間、お元気で」


 こうしてメイドお婆ちゃん達は、

 この屋敷から出て行ったのでした……。


(あの馬車なら、目いっぱい飛ばせば早く着きそうだな)


 と、かっこいい影の馬を思い浮かべた僕でした。


「さあダルマシオ」

「はいユピアーナ様」

「とりあえず……メイドに戻って良いか?」


 戻るんだ!


(ひょっとして、ひい爺ちゃんの葬式に行かないのって、僕のお付きメイドだから……か?!)


 僕が残るからって。

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