第12話 これが僕専用のメイド軍団だ! 前編

 最初に喋りはじめたのはやはり、

 とりあえず僕のメイド長、でいいのかな?

 そこそこ知っている関係の、カタリヌさんからだ。


「ダルマシオ様、まずは将来の領主様に仕えられる事に感謝を述べさせて下さい」

「う、うん、じゃあこれからは、あんまり頬をつねらないでね」

「では前任者のように、くすぐりで」「ええっ、ちょっと前任者って!」


 あくまでも臨時メイドのはずでは!!


「その件ですが、ダルマシオ様が学院へ行くにあたって、

 将来の領主様のために、我が村から同行者を出そうという事に」

「そうなんだ、じゃあメイドお婆ちゃん達は」「留守番ですね」


 とはいえ、もう年齢(とし)がトシなのも事実だしなあ。


「まあ、のんびりして貰うのも良いのね」

「そしてダルマシオ様がこちらへ戻られた場合には、正式に私達が」

「そっか、三年後だと、そうなるよね」


 うん、これはまあ、仕方ない。


「という訳でダルマシオ様の専用メイド、そのメイド長となります、

 このわたくしカタリヌ、今後はより親密にお手伝いさせていただきますので、よろしくお願い致します」

「親密にって」「戦闘向きではありませんので、相方とでも思って頂ければ」


 ……まあ、メイドお婆ちゃん達だってある意味で相方というか、

 親代わり、いや実のお婆ちゃん代わりかな、そういう関係だったんだから、

 年齢が近くなった分……って八十九歳から二十八歳だから一気に若返ったな。


(眼鏡を直しながら、キリッとした表情をしている……)


 青みがかった茶色のロングヘア、

 高価そうな眼鏡はウチの街にある店で、

 一番値段の高い奴くださいって言って買ってても不思議じゃない。


(これで独身なんだから、もったいないよなあって思っていたけれども……)


 確かにキツい部分もあるが普通に眼鏡美人だ、

 実は魔女だった、となるとうん、この村に良い男が居なかったのだろう、

 そうなると僕の街で見つけて欲しい所だけれども、すでに普通に出入りはしていたはず。


(それこそ王都で、良い出会いがあれば!)


「カタリヌさん、僕の世話も重要ですが、その、プライベートも大切に」

「……お心遣い、ありがとうございます」

「まあ、そこは僕は触れないようにするよ」


(恋人できた? とか、聞きたくても我慢しよう)


 一礼して隣りを見るカタリヌさん、

 次はサエラスさんのようだ、笑顔が眩しい、

 ウェーブがかった金髪はメイドというより貴族の若奥様でも通じそう。


(しかも、良い匂いなんだよなぁこれが)


 ただ、やっぱりそれも含めて、

 ある意味で僕の『ママ的』なものを感じてしまう。


「ダルマシオ坊ちゃま、今日から正式な坊ちゃま付き副メイド長ですよ、

 だから今後は、遠慮なく『サエラスお姉ちゃん』と呼んでも構いません!

 いいえ、そう呼んで下さい、はい、『サエラスお姉ちゃん』って!!」


 ええっと、二十四歳だから年齢差は九歳、

 確かに僕の上、腹違いの姉にそれくらいの年齢は数名居る、

 とはいえ僕の中でお母さん扱いしているのは、実の母があんなのだから……


(どんなって? またあとで! 慌てるな慌てるな!!)


 ほんと、お母さんがサエラスさんみたいだったらどんなに良かったか。


「剣の練習も毎日しましょうね~」

「あっはい、付き合わせてごめんなさい」

「そのかわり、ちゃんと上達しないと駄目よ?」


 ウチだと稽古相手が領内の衛兵だから結構きつい、

 冒険者ギルドで依頼しても出てくる相手はこれまたきつい、

 かといって下手な領民は未来の領主相手に気を使って手加減する。


(そのあたり、サエラスさんの剣が丁度、良いんだよなあ)


 多分甘い、ただ僕に合った甘さだ。

 実際は強いのはたまに冒険者ギルドで助っ人している事からわかる、

 もっともそっちは、本職というか得意な魔法を買われてたしいけれども。


(闇の魔女だったというのも納得だ)


「今後ともご指導、よろしくお願いします」

「ええ、王都でも、もっともーーっと親密になりましょうねぇ~、

 それでぇ……『サエラスお姉ちゃん』は? さん、はいっ!」


 またもや親密って……もうすでに、

 たまに来た時は着替えを手伝って貰ったりしている間柄だけれども、

 これ以上の親密って何をどう……まあ、変な方向に事を考えるのは、やめよう。

「次は今日初めて会ったメイドさん達ですよね、ええっと」


 僕はちっちゃかわいいメイドに目をやる。


「は~い、サンドリーヌよ、呼び方どうしよっか、ダルマシオさま、

 ダルマシオちゃん、ダルマシオくん、ダルマシオ坊(ぼう)とかっ!

 あっそいうそう、私の事は『お姉さん』って呼んでね、『さん』よ、『さん』、ね?」


 そして元気だ、こんな妹、欲しかったなぁ……

 僕は腹違いの妹に蹴られるタイプだし、いやこの手の妹は嬉しい、

 順応な大人しい、僕の後ろに隠れるようなタイプの妹は生涯、気を使いそうだし。


(それに彼女はメイドだ、兄に世話焼くメイドとか、羨ましかった)


「うん、よろしくお願いするよ、サンドリーヌちゃん」

「んもう『ドリーお姉さん』でしょう? あっ『お姉ちゃん』はやめてね、

 その枠は副メイド長のものだから、奪ったら後でシメられちゃう、お姉さんからのお願い」


 いやいやメイド同士でシメるとか、

 大きな貴族邸じゃよくありそうだけれども、

 ウチがいくら大きなお屋敷になっても、そんなのは嫌だ。


「ええっと、王都に行っても大丈夫ですか」

「もちろんよ、闇の土地を離れても平気みたいだし、

 だからこそ選ばれたのよ、お姉さんにポーンと任せなさいっ!!」


(……なんなんだろう、ポーンって)


 何かが飛び出すのかな?

 そういえば素早さ特化みたいなこと言っていたっけ。


「それで平(ひら)メイドですよね、何ができるんですか?」

「何でもよ、高い所に手が届かない以外は!」「あっ」

「そんな『触れちゃいけない所に触れちゃった』みたいな表情はやめて!!」


 いや、サンドリーヌさんが自分で触れたんじゃ!!


「わかりました、何かをお願いします、何かを」

「甘えたくなったらいつでも言ってね、朝でも昼でも夜でも、

 ソファーでもベッドでも屋根の上でもいつでもどこでもお姉さんが!」


 ……むしろ甘えさせてあげたいんですけれども!

 くるりと一回転して……スカートが少しひらりとした、

 赤茶色いふたつの三つ編みも舞う、レストランでは子供椅子が必要だな。


「再度確認します、本当に二十二歳なんですよね」

「身分証明も偽物じゃないわよ?」

「たとえば夜にベッドで甘えさせるって、何をどうするんですか?!」


 うん、これは聞きたい。


「ん~~……耳掃除?」

「ですよねー」

「からの~~~……」


 ……黙り込んじゃった、顔を紅くして。


「ちなみに経験は」「無いわよ!」

「本当に?」「キスすら無いわよっ!」

「……それでいてあの時、よく『私で練習』なんて」「私も練習よ!」


 まあいいや、

 彼女が面白そうなのはよくわかった。


「じゃあドリーちゃんお願いね」

「んもう!!」


 そして僕は目線を……

 だ、駄目だっ、どうしても爆乳に目が行ってしまう!!


「タマラです! よろしくお願いしますぅ」

「うん、前髪で目が隠れているけど」

「隙間からちゃんと見えていますよ~」


 どんなブラインドなんだか!

 そばかすの笑顔は目が見えてこそなんだけどな、

 ショートボブの髪型で……髪の色は濃い青だ、二十歳って聞いたけど。


「タマラさんは何メイドですか」

「まだ決まっておりませんが、料理は好きです」

「あっ、そうなんだ」「掃除も洗濯も子供と遊ぶのも好きですぅ」


 うん、良い奥さんになりそうだね!

 どっかの貴族にメイドに入ったら、

 夫婦仲を壊しそうなメイドでもあるんだけれども!!


(いやいや、この胸はまずいですよ奥さん!!)


「あっ、この村に恋人とかは」

「いません、みんな胸ばっかり見るしぃ」

「ううっ、ごめんなさいゴメンナサイ御免なさいっ!!」


 これはもう土下座しても良いレベルだ。


「いえ、御主人さまでしたら……メイドの御主人様は、

 メイドに対しては何をしても許されるという知識は持っていますので」

「どこ情報?!」「お父さんが隠し持っている小説ですが」


 それを出典にしないでーーー!!


「ドリーちゃん」「何よ」

「タマラさんにメイドの教育を」

「それはメイド長の私がまとめてやっておきますわ」


 うん、カタリヌさんに任せようっと。


(ちなみにキス程度なら経験は、って聞きたいけど、やめておこう)


「あっ、ミスも未経験です、無理矢理されそうになった事は四度ほど」

「えっ僕の考えてた事、わかるの?!」

「そんな顔をしていましたよ、私を見ながら」


 ……結構怖いなこのメイドさん。


「ええっと、あんまり心を読まないで下さい、男の汚い所は見たくないでしょう」

「メイドとして御主人様には何でも従いますから、綺麗も汚いもないですぅ」

「あーええっと、んー、まあ、その、なんだ、よろしく」


 まあいいや、

 学院に連れて行くまでに色々と整理をつけよう、

 お互いに心の整理とか、あと彼女に正しいメイドの知識とか。


「はい御主人さま、メイドとして御主人様に命令される事が実は楽しみでぇ」

「何もしないから、へんなことは! させないからっ!!」


(まったくもう、大丈夫かな僕のメイド達)


 そしていよいよ最後は……魔神でメイドだ。

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