第11話 主従関係のルールを決めよう!

 魔王を倒した七英傑、

 その手助けどころか中心人物として大活躍した女性、

 魔神ユピアーナ様、彼女が人間の姿となり、僕のメイドとなるのだが……


「その、あれですよね、メイドと主人のルール、ここまではするけどこれはしない、みたいな」

「そういうルールもあるのか、私なら何でもするぞ」「えっ」

「まずはお互いの関係性の話だ、いわば『夫婦のルール』のような取り決めだな」


 ええっ、そこまで深い仲になっちゃうの?!


「……ユピアーナ様は僕の保護者か何かになるつもりで」

「なんだ、そうして欲しいのか、両親はどうした」

「父も母も辺境伯領の領都です、肉親だと唯一親しい姉も離れた所に」


 このあたりの説明も、いずれしよう。


「では寂しいのだな?」

「面倒はメイドのお婆ちゃん五人が」

「そうか、これから先の一生は私に任せてくれ」


 そうは言われても、今日会ったばかりだし!


「えっと、それでその、ルールとは」

「私とダルマシオは主従関係だ、御主人様の命令に私は何でも従う」

「メイドってそういうものなのでしょうか」「私の中のメイド像はな」


 でもメイドにだって拒否権は……

 確かにまあ、無さそうな家もあるか。


「絶対に従うって言うルールにしたいのですか」

「メイドとしてはだ、しかし私にも判断として譲れない場面も出てくる、

 ダルマシオがあきらかに間違った行動をしたり命令をした時などだ」


 うん、僕が『魔神を使って世界征服だー!』とか言い出したら、止めて貰わないと困る。


「どうするんですか、って普通に断るか」

「だから、私はダルマシオの事を基本的に『御主人様』と呼ぶが、

 それはメイドとしてであって、魔神ユピアーナとしての発言の時は『ダルマシオ』と呼ぶ」


 つまり、メイドごっこじゃなく真剣な時は、

 主従関係が無くなる、むしろ逆転するっていう訳ね。


「良いですよ構いません、というか魔神様の好きにして下さい」

「魔神様という呼び方は気に喰わないな」「あっじゃあユピアーナ様」

「よって私がユピアーナとして『命令』する時などは『ダルマシオ』だ、良いなダルマシオ?!」


 むしろ、区別がはっきりついて、ありがたい。


「わかりました、ユピアーナ様!」

「うむ、その流れで決めるが、メイドとしての私の名前はどうする」

「えっ、ユピアーナ様では駄目なんですか、じゃあ、ユピアーナさん、とか?」


 ユピアーナ『お姉ちゃん』とか言わされる相手はこれ以上、増やしたくは無い。


「私はこれでも八十年前は名の知れた魔神だ、魔王討伐パーティーに居た事は隠していてもな」

「あっはい、僕は存じ上げませんでしたが、調べれば伝承とかに出て来そうですからね」

「もちろん『あの魔神と同じ名前を付けている』でも通るだろうが、私は切り替えをはっきりしたい」


 ようは、メイドとしての呼び名が欲しいってことね。


「ちなみに勇者パーティーでは何と呼ばれて、

 いや、人間の姿で紛れ込んでいたんでしたっけ?」

「そうだ、ある時は女拳闘士ユピ、この姿だな、当時のままだ」


 そうだったんだ、通りで強そう。


「あとは女魔道士アンナ、一応はギリオスの優秀な弟子、という事になっていた」


 あっ、そっちも見たい!


「すみません、そのアンナさんの姿にはなれますか?」

「御主人様の命令とあらば」「命令ですっ!!」


 みるみるうちに身長が縮んで、

 いや胸はむしろ大きくなった!

 そして眼光鋭い、冷たい感じの女性へと変身した。


(あっ、胸のボタンが跳んだ)


 さすがにこれでゴブリン退治は無理がありそうだが。


「魔法全属性使い、アンナだ」

「さすがひい爺ちゃんの弟子!」

「こっちの方が良いか?」「んー、仕事的には前者ですね」


 駄目だタマラさんの巨乳と見比べると集中できない!


(ちなみに見比べた結果はですねえ……うん、それでもタマラさんの方が、おっきい!!)


「中は見なくて良いのか?」「いやいやいやいやいや!!」

「……そんなに見たくないのか、普通に落ち込むぞ」

「そういう事じゃなくって!」「私もショックですぅ」「タマラさんまで!!」


 何この御主人様いじめは!

 いや、どっちかっていうとこれは、

 お金目的のメイドが金持ち領主に群がっている感じか。


(僕には大して収入は回ってこないよ!)


 さっきの旧金貨・旧銀貨・旧銅貨は別にして。


「では戻そう」


 再び身長が伸びる、忙しいな、

 ちなみにさっきの跳んだボタンは無事、

 カタリヌさんが回収してくれた、後で直すだろう。


「じゃあ昔の名前通り、ユピで良いのでは」

「いや、アンナの方はよくある名前だからアンナで良いとしてもだ、ユピは変えたい」

「そうですか、では……ナーアピユ、アピュ……いや……アンヌ、とか」「それだ!!」


 おっ、気に入ってくれたらしい。


「じゃあ女拳闘士メイドのアンヌさんで」

「はい、私はアンヌ(26)です、祖母は魔王討伐パーティーのサポート役ユピです、

 パーティー内ではユピーとも呼ばれていたそうですが正式な名前はユピだそうです」


 そんな細かな設定まで!


「孫なんだ、ひ孫じゃなく」

「曽祖父にした方が良かったでしょうか」

「いや、そのあたりは、どうとでも」


 ぶっちゃけ設定だし。


「わかりました、とりあえずは祖母で」

「じゃあアンナちゃんは」「お待ち下さい」


 再びアンナのサイズに、

 そしてまた弾け跳ぶ胸ボタン、

 今度はそのままサエラスさんがキャッチした。


「……私の名はアンナ、かつて七英傑とパーティーを組んでいた魔道士アンナの子孫……

 若き天才全属性魔道士と呼ばれていた祖父母……なぜ討伐後、姿を消したかというと……」

「あっ、もういいです、それは書面にでもまとめて」「かしこまりました……」


 もう他の人物は出てこないのかな?

 言えば変身しそうだけれど、もういいや。


「アンヌさんに戻って」「はい御主人様」


 これで、ユピアーナ様の呼び方はアンヌさんで良いのかな。


「じゃあ僕も魔神ユピアーナ様に用件がある時はユピアーナ様って呼びます、

 それ以外の時はアンヌさんって呼びます、便宜上、会話の流れでユピアーナ様って呼んだ時は、

 必要な時でない限り、いちいち変身しなくても大丈夫です、ってこれでいいかな」


 深々と頭を下げるユピ、いやアンヌさん。


「よろしくお願いします、御主人様」

「うん、アンヌさんの時の口調も頑張って固めて」

「誠心誠意、努力させていただきます、メイドとして」


 急にしおらしく、とまでは行かなさそうだけど、真面目になっちゃった。


「ええっとそれで、立場はどうなるのかな、メイド内での」

「どうしたしましょうか、下っ端でも構いませんが」

「メイド歴では……あーでも八十年前まではメイドもやってたんだっけ?」


 とはいえ、メイドごっこか。


「私はメイドとしての知識も能力も、まだまだですので」

「うん、いかにも戦闘メイドだもんね、じゃあ戦闘部門でのトップで」

「メイド長や副メイド長では無いという事ですね、ありがとうございます」


 そして部門トップと言っても部下はまだ居ないけど。


「それで御主人様への呼び方は、どういたしましょう」

「それも決めるの?! ルールと言えばそうか、ええっと」

「ダルマシオ御主人様、略して『御主人様』とか」「それでいいや」


 やりたいようにやらせよう。


「では私達は」

「カタリヌさん達こそ好きでいいよ」


 別に不快でなければ。


「……ではダルマシオ、ユピアーナとして最後に、一番大きなルールを言わせてくれ」

「あっはい、角は出さないで下さいね、カチューシャ壊れちゃう」


 身体も元の魔神サイズに戻って、

 いちいちメイド服バリバリバリ-!! とか、もったいないからね。


「私が魔神だという事、ユピアーナだという事は秘密で頼む」

「普通のメイドとして生きて行きたいっていうことですよね……普通?!」

「魔神というもの自体が普通では無いからな、人間はどんな人間であっても普通だ」


 そりゃあまあ魔神基準で見たら、人間はみんな同じか。


「でも、知っている人は知っているようです、この村の人とか」

「私の封印に関わっていたりした者は仕方が無いが、これ以上は出来るだけ他言厳禁で」

「わかりました、ユピアーナ様の希望であれば」「これが私の、魔王討伐の報酬でもあるからな」


 現国王とか知っているんだろうか、

 ユピアーナ様の封印、いや存在自体を。


「王都の学院へ連れて行った時もバレないようにしますが、もしバレたらごめんなさい」

「ダルマシオや他のメイド達がバレないように努力さえしてくれれば、後は私もなんとかしよう」

「よっぽど暴れなければ大丈夫、と思いたいですが……」


 今ここじゃわからないけど、

 普通の土地に行った時、闇の魔力ダダ漏れとかだったらどうしよう。


「では改めて自己紹介をしようではないか、私はアンヌに戻るのでカタリヌから頼む」

「はい、ではダルマシオさま、改めて今日から『ダルマシオ様付きメイド』となるメンバーを」


 ずらりと横一線に並んだ、

 うん、なんだか僕も……緊張しちゃうね!

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