第9話 八十年前、魔王討伐の真実!

 魔神ユピアーナ様から出た意外な言葉、それは……


『魔王戦で七英傑は全て死ぬはずだった』


 思わず固唾を呑みこむ僕、

 一緒に聞いているカタリヌさんサエラスさんも、

 サンドリーヌさんもタマラさんも真剣な表情をしている。


「それと封印が関係している訳ですね?」

「ああ、七英傑については説明は要らないな?」

「はい、この国グランサーヴァどころか、サヴァンティア大陸での常識と言っても過言では無いので」


 だからこそ、

 本当の真実とやらがあるなら知りたい。


「では話そう、あれはいよいよ魔王との戦いが佳境に入った所だった……」


回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回


「おいお前達、回復アイテムは!」


 魔神の姿で魔王を食い止める私、

 共に戦う人間たちを振り返って見る。


「ユピ、駄目だ、俺はもう何も無い」

「俺だって盾どころか鎧すらもうボロボロ、アイテムどころじゃねえ」


 貴重な前衛ふたり、

 剣士ハヴェルと戦士二グレアムはもうボロボロだ。


「マリー、回復魔法を弓で飛ばせるか!」

「んんんーーー……えーーーい!!」


 矢も魔力も尽きたのか、

 持っていた大きな弓を投げ魔王にぶつけるホーリーマリー、

 少しは効いたようだが疲労からか崩れ落ちた。


「ヘルムートはまだ目を覚まさないのか!」

「ごめんなさい、私達、それどころじゃなくって……」

「だ、だからまだ早いって言ったんだよ、魔王戦だなんてっ!!」


 真っ先に倒れたアサシンのヘルムートを、

 かなり下がって防御魔法バリアで守り続けている聖女ロリーヌ、

 彼女にしがみつくように震えているのがリーダーの勇者イスマエルだ。


(まったく、勇者のパーティー効果が無ければ私以外の攻撃が魔王に効かないとはいえ……)


 無理矢理連れてきた事を少し後悔しつつも、

 魔王軍の進撃具合からいって最終決戦には遅い位の時期だ。


「ぐぬぬ、俺も、もう魔力が……」

「ギリオスまでもか……ぐああっっ!!」


 後ろを気にしている間に私は弾き飛ばされた!!


「ユピ!」「大丈夫か」

「ああ、受け止めて貰って済まない」


 とはいえハヴェルとニグレアムを下敷きにしてしまった、

 そして高笑いの魔王、もう少し、あと少しのはずなのに……!!

 私はバリアの中で剣すら抜かない勇者を睨みつける!


「おいイスマエル、お前、光の剣で魔王に突っ込め!」

「い、いっ、嫌だ死にたくないっ!!」

「お前が刺し違えたら世界は平和になるんだぞ」「僕は国王になるんだいっ!!」


 ……まったく情けない、

 やはりここは強制的にやるしか無いようだな、

 ギリオスを見ると覚悟を決めたかのような表情で頷いている。


「よし、こうなったら最後の手段だ、お前たちの力を分けてもらう」

「どういう事だ?!」「もう何もねえぞ」


 そう言った直後、

 魔王が吐き出す火の玉を身を挺して防ぐ剣士と戦士、

 このふたりはさすがだ、しかし長くは持たないだろう、ゆえに……


「人間には生命力というものがある、魔力の源でもあり……

 説明している暇は無い、お前たちの命をよこせと言っているのだ」

「嫌だ!」「私も嫌よ!」「……相変わらず仲が良いなお前たちは」


 この勇者と聖女は魔王討伐後、

 結婚する事が決まっているらしいが、

 国が亡びれば意味が無い事をわかってはいないようだ。


「他の者はどうだ」

「俺は構わねえ」「俺もだ」


 ハヴェルと二グレアムは同意した、

 イスマエルとロリーヌは早々に反対。


「……仕方ないわ、私の命、使ってちょうだい」


 横になりながらもホーリーマリーは同意を絞り出した、

 ヘルムートは気を失ったまま、そうなると後は……!!


「話を聞いた時から俺も決めていた、使え、俺の命を!」


 ギリオスも賛同した!


「よし、多数決によりお前たちの生命力……この私がいただく!!」


 無詠唱で魔方陣を目の前に出す私、

 角が光り、七人の人間からきらきらとした、

 霧状の生命力を私の身体へと吸収させ続ける!!


「嫌よ! ああっ、私の防御魔法がぁ」

「死にたくない! 死にたくないよおおおおお!!」

「あきらめろ!」「旅立った時に覚悟は出来ていたはずだ!!」


(あぁ、みなぎる……力が、魔力が、体力が、何もかもが!!)


 私は再び魔王の胸元へ飛び込み、

 身体と身体でぶつかり合う、これなら……行ける!


「そうだユピアーナ、お前が死ね! そうすれば……」

「黙れ勇者、それは本当に最後の最後だ、まだそこまでは行ってはいない!」

「もうアンタは黙りなさいっ!」


 声からしてホーリーマリーか、

 そして僅かに回復魔法を感じる、

 これは……魔力を吸われながらもギリオスが……!!


「勝てる、これならば……勝ってみせる!!」



 そして……



『グワアアアアァァァァァーーーーー……!!!!!』


 断末魔を叫びながら身体が黒い塵となって消え去る魔王!!


「やったか?」「勝ったんじゃないか?!」


 そう、なんとか……私は勝利する事が、出来た!!


「助かったんだな? 僕、国王になれるんだよな?」

「あぁ……イスマエル、貴方と私の勝利よ!!」

「待って、まだ、まだ私達……力を、生命力を吸われているわ!!」


 さすがエルフの血を含むホーリーマリー、気付いているようだ。

 私は魔王の、紫の返り血をぬぐいながら皆の前に立つ。


「この魔法は、発動すると全ての生命力を吸い尽くす」

「そんな、止められないのか!」

「嫌よ! せっかく魔王を倒したのに、死ぬならアンタが死になさいよっ!!」


 まったく最後までこの勇者と聖女は……

 張り倒そうとする剣士ハヴェルを止める戦士二グレアム、

 ホーリーマリーは……笑みを浮かべた。


「いいじゃないの、私達、勝ったのよ!」

「良くない! ロリーヌの言う通り、お前が死ねばこれは止まるんじゃないのか?!」


 やれやれ、と言った表情で杖を手にし私の前に来るギリオス。


「では、手筈通りに行こうか」

「ああ、まだ間に合うからな」


 杖をかざすと、

 すでに仕込んであった魔方陣が発動する!!


「そ、それは……?!?!」

「勇者イスマエルよ、生命力が尽きる前に倒せて良かったな、

 私はここで一旦、封印される……皆の寿命が尽きたその時、復活しよう」


 その言葉に笑顔になる勇者と聖女。


「なら、それじゃあ私達、助かるのね?!」

「そうだ、とはいえかなりの力を吸収した、おそらくもはや、

 一般人に近い力しか残っておらぬだろう、しかし子孫は力を受け継ぐ、安心しろ」


 私の頭に猛烈な眠気が襲う。


「ユピアーナ様……すまない」

「ギリオス……後の事は……事前に話した通りに……」

「わかっている、俺たちに、平和な残り時間をくれて、ありがとう」


 泣いている、大魔導師ギリオスだけではない、

 剣士ハヴェルも、戦士二グレアム、弓使いホーリーマリーも……

 後ろではしゃぐ勇者と聖女は……もはや、どうでもいい……


「あぁ、目が覚めたら……私が遊びでやっていた、メイドに本格的になってやろう……

 そうだな、ギリオス、お前の所が良い、お前の……し、そ、ん……の……」

「あぁ、約束する、ユピアーナ様が目覚めた時、仕える主人を、必ず……用意し……ょ……」


 ここで私の意識は途切れた。


回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回回


「……という事があったのだ」


 ユピアーナ様の回想、

 魔王討伐の真実を聞いた僕は、

 呆然としてしまった……そして真っ先に思った。


(勇者と聖女、クズ過ぎいいいいい!!!)


 これがこの国を治める、

 国王の血に流れているだなんて!!


「それで、七英傑は生き残った訳ですね」

「ああ、最終手段で私が封印された後についてはギリオスとすでに取り交わしていた、

 死んだら残りの魂を吸収する魔石の準備も頼んでな」


 それで全員が死んだから封印が解けるようになったのかな?

 今にして思えばひい爺ちゃんがアイテムボックス以外、

 魔法使いらしい所を見せてくれた事が無かったのは、このせいだったのか。


「なるほどわかりました、八十年前、この世界を救ってくれて、ありがとうございます」

「私だけの力で無いのも確かだ、ということでダルマシオ、私に仕えさせろ、これは義務だ」

「その、わ、わかりました」「うむ、では早速どうする、夜伽は確定で良いな?!」


 確定しないでーー!!


「わかりました、メイドは丁度、欲しかったですし」


 そう、学院に行く時にメイドは必要不可欠だ、

 それについての詳しい説明を、この機会だからやってしまおう。

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