第8話 魔神がメイドで僕が主人で!

「えっと、改めて……ここが魔神ユピアーナ様の部屋なんですよね」


 四階の奥、僕の問いに答えてくれるのは、

 案内してくれたメイドつまりサンドリーヌさんタマラさんではなく、

 すでに扉の前まで来て待っていてくれていた、カタリヌさんとサエラスさんだ。


「はい、そのために作った部屋です」

「ここで生涯、過ごしていただけるために」


 屋敷中を案内して貰ったとき、

 場所だけ一応確認したが中に入るのは初めてだ、

 きっと豪華な椅子に座ってワインが注がれたグラス片手に、膝には長毛猫系のティムされた魔物でも乗せているに違いない。


(どこの高級マダムだ、いやこれは父上の正妻のイメージです)


 そう、あの化粧の匂いで窒息死しそうな。

 余計な妄想を膨らましていると後ろのふたりも。


「ここは復活なさるまで、毎日重点的に掃除していたわ」

「ようやく使っていただけると思うと、感慨深いですぅ」


 うん、心してノックしよう。


 コンッ、コンッ


「あの、ユピアーナ様、失礼致します」


 ……返事は無い、

 入って着替え中で『きゃあダルマシオさんの色欲おばけー!』とか言われるの嫌だぞ、

 故意でなくても一度でもそういう事をしちゃうと卒業まで言われるのは学校のレオルで見た。


(クラスメイトね、普通の男の子だ)


「そのー、もう入りますよ?」


 メイド達を見ると頷いている、

 入って良いらしいので遠慮なく、

 と思っていると勝手に扉が内側から開いた!


「ようこそおいで下さいました御主人様」

「えっ」

「是非、中へ」


 入ると本当に豪華だ、

 なんていうか、世界中の装飾品を集めた感じ、

 そして広々として快適に過ごせる室内、中央にはくつろげる大きな椅子……


(でも、誰も座っていない!)


 そりゃそうだ、

 扉を開けてくれたユピアーナさんは隣に居る、

 メイド服姿のまま……サイズぴったりだと思っていたが胸が少し窮屈そう。


「さあ、あちらへお座り下さい」

「えっ、あの椅子はユピアーナさんのじゃ」

「御主人様のですよ、さあ、さあ!」


 なんだかよくわからないけれど座らされる、

 そしてこれまた高価そうなグラスに注がれるのは……

 匂いからしてジュースか、うん、お酒はまだ早いからね、年齢的に。


「さあどうぞ」

「ありがとう……美味しい」

「さあ御主人様、私はメイドだ、何なりとご命令するが良い!!」


 あっ、崩れて『魔神ユピアーナ』っぽい喋りになった!

 

「命令ってその」「して欲しい事は何だ、何でも期待に応えよう、掃除か、洗濯か、

 お風呂か、食べたい物はあるか、飲みたい物はあるか、持ってきて欲しい物はあるか、

 希望があればメイドとして、何なりとやってみせよう、さあ、さあ、さあさあさあ!!」


 ……何この押し付けメイド!

 ぐいぐい迫ってきて胸部を押し付けられそうになる、

 人に変身してサイズが収まったとはいえ、十分に背が高くて色々とでかい。


(設定年齢26歳なんだっけ)


 拳闘士メイドとか言っていたな、

 男の武骨な衛兵に近くで護らせるより、

 こうした『強く美しい』メイドに護らせる貴族は多いらしい。


(やさしそうな普通のメイドと思ったら魔法でドーン! とかもあるとか)


 僕の言葉を待ってウズウズしているユピアーナ様、

 ここはとりあえず確認と質問をしてみよう、ジュースを飲み干してっと。


「おかわりは要るか」

「いえいいです、ええっと、おさらいするとですね」

「ああなんだ」「僕のメイドになってくれたんですよね?」


 大きく頷くユピアーナ様。


「一生涯、メイドとしてこの命を捧げる」

「そんな! 魔神様なら僕より寿命が長いでしょう」

「そうとも言い切れないがなあに、御主人様が寿命が尽きるまでは持つだろう」


 ……どういうこと?!

 

「まず、この部屋ってユピアーナ様のものですよね、それを言ったら屋敷も」

「そして私は御主人様のもの、よって私のものは御主人様のものだ」

「いやいや、メイドの持ち物を僕の物にするなんて、そんなそんな」


 メイドの私物をよこせなんていう主人には、なりたくは無い。


「……私がそうしたいのだ、これは私への、魔王を倒した報酬でもある」

「メイドになりたいのがですよね、なんで僕なんですか」

「交渉の結果だ、英傑で一番、いや唯一だ、闇魔法を持っているのがギリオスだったからな」


 その子孫だからって事か。


「その中で、僕が選ばれたのは」

「経緯は知らぬが、私の希望は子孫で一番の闇魔力を持つ者、

 もしくは闇魔力への耐性を持つ者だ、それに該当したのであろう」


 あーー、僕がここスゥクネィダ地方、

 ダクスヌールの街へ送られた理由と同じだ、

 光魔法は使えはしないけど、光属性の魔力は凄いらしい。


(使えないのに魔力がそんなにあっても、って思ったんだよな)


 だからこの地方の、

 闇の臭気は僕はまったく平気だったりする、いや気配は感じ取れるけど。

 例えて言うなら気配が強い所へ行くと、カビ臭さを感じるがすぐに慣れる、みたいな。


「でも耐性で言ったら光の聖女様、

 ロリーヌ=ルブラン様の子孫……って王家の人間になっちゃうか、

 いやいいのか、陛下の子孫に光属性のしかも使える方々が、それはもう大量に」


 フフンと鼻で笑うユピアーナ様。


「イスマエルもロリーヌも留守番ばっかりだったからな、魔王戦ですら街で待機していたいと言っていた、

 さすがに引きずって連れては来たが、安全な後衛でほぼ見ているだけだったな」

「えええええ魔王戦すらそんな感じだったのですか?!」「とどめを刺したのは、この私だ!!」


 ……そりゃあ封印されるはずだ、

 いや、このあたりも流れで聞こう、

 とりあえずは状況確認の続きをしないと。


「この部屋を僕が自由に使って良いって、

 ロビーもですけど飾ってある物とか売っちゃ駄目ですよね?」

「御主人様が望むのであれば、私は一向に構わん、宝箱の金貨も全て御主人様のものだ」


 ……ちょっと思い切った事を聞いてみよう。


「ユピアーナさんも僕の物ってことですか」

「ああ当然だ、好きに使って良い、私の何からナニまでな!」

「ナニって」「心配するな、知識はある、あとは経験だけだ」


 ……メイドの、だよね?!


(まあ確かにメイドにあんなことこんなことさせるのは、貴族のぼっちゃんだと普通に……)


 むしろ、それ専用のメイドまで居るとかなんとか、

 いやそんなの奴隷じゃん、とも思うが確かに奴隷同然なメイドも居たりする、

 それどころか実際に奴隷をメイドにさせたり、メイドを奴隷にしたりとかもあるとか。


(立場的には、僕がユピアーナ様の奴隷になってもおかしくないのに……)


 魔王を倒した褒美が貴族の奴隷、とかね。

 いや待てよ、ひょっとしてこれは、つまり……!!


「あーー、わかりました、これ、僕はペットですね」

「つまり、どういう事だ御主人様」


 あっ、少し険しい表情になった!


「ほら、犬とか猫とか飼った場合、それを丁寧に扱う人も居るじゃないですか、

 それこそ猫を王様みたいにして扱う、それと一緒で、つまりこれはメイドごっこみたいな」

「……メイドごっこか、そう言われては私の立つ瀬が無いな、一人前のメイドとして見られるように努力しよう」


 しれっとクールな表情に戻った。


「この部屋をくれるって言ってもユピアーナ様はどこへ」

「隣に従女専用、メイド部屋がきちんとある、そこでいつ呼ばれても良いように凄す」

「どこですか」「こちらだ、まだ大して整理はしていないが」


 興味が湧いたので覗いてみると……!!


「ちょ、地下の宝箱から出た下着がいっぱい並べてありますが」

「私の分だ、どれが好みか御主人様、教えてくれ」

「いやいや、僕、女性とそういう経験無いですから、まだ十五ですし!」


 ユピアーナ様は、さぞかし経験豊富なんだろうなぁ。


「私も経験は無い、キスくらいだ」

「そんな、またまたぁ」

「そのキスも今日が初めてだ」「えっ」


 ということは、

 あの封印を解いた時の、

 僕の……?!


(じゃあお互いに初めてのキスが……?!?!)


「私はオールマイティーなメイドを目指す、

 残りの命はそれに賭けると言って良い、頼んだぞ御主人様」

「……そこまでメイドになりたい理由を、聞かせて貰えますか」


 元の部屋へ戻る。

 なぜかサンドリーヌさんが下着に名残惜しそうにしてるけど!

 分けて貰ってたんじゃ……あっ、サイズの問題があるのかな?


(でもメイドお婆ちゃん達も、嬉々として選んで貰っていたような)


 深い想像は、やめておこう。


「そうだな、御主人様に、全てを話そうか……」

「はい、お願いします」

「実はだな……あの闘いで、魔王戦で七英傑は全て……死ぬはずだったのだ」

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