第3話 ご対面、眠り魔神を目覚めさせる方法といえば!
「こちらの奥です」
地下二階の宝物庫、
ゴチャゴチャした奥に隠し階段があり、
そこを滑らないよう、気を付けながら石の階段を降りる。
(後ろのお婆ちゃんたち、大丈夫かな)
などと気にしていると僕が滑りかける、
なんてことをしながら進んで行くと広い部屋に着いた。
「うわぁ、魔石かなぁ、壁に付いてる七つ、囲むように光っている」
見渡すのもそこそこに、
メイドお婆ちゃんたちが降りるのを手伝って、っと……
これ戻り、すなわち上りは大丈夫かな、いざとなったら背負うか。
「……これはそれぞれ、七英傑が亡くなると光るようになっているのですよ」
「えっアルメンさん、それじゃあ」
「あの紫がギリオス様の魂、その残り香ですよ」
そして改めて部屋の中心に目をやると、
大きな台座に寝かされているメイド服の女悪魔、
いや魔神って言ってたっけ、いやこれ女性としてほんと大きいな。
(どうやってこの部屋に運ばれたんだろ、まあギリギリ通れるか)
ちっこい少女メイドがランプで魔神を照らしてくれる、
一生懸命に背伸びをして……ほんと可愛いなこの子は、
髪を後ろでふたつの三つ編みにしているのが、いかにも子供っぽい。
「さあ、目覚めの儀式で起きるはずです、ダルマシオ坊ちゃま」
「あっ、はい、どんな儀式をすれば」
「……眠り姫には王子様のキスと相場が決まっておりますよ」
えっ、えええええ!!!
「えっと、僕、キスなんで生まれて初めて、今までした事が」
「あくまでも『目覚めの儀式』であって、回数には入りませんよ」
「で、でもぉ……」「この場で誰かと練習しますか?」
いつのまにかずらっと並ぶメイド四人、
カタリヌさんとサエラスさんはともかく、
さっき初対面の少女メイドとメカクレ以下略メイドは……
(あと練習っていうのも失礼な気が)
いくらメイドでも!
「ダルマシオさま、わたくしなどでよろしければ」
「んもう、お姉ちゃんが一肌脱いであげても構わないわよ?」
「い、いえその、逆にそういう事をすると、アレなので」
つまり何を言いたいかと言うと、
キスをするという意識を持ってすれば、それはもうファーストキスだ、
でも、あくまでも儀式という事であれば、アルメンお婆ちゃんの言う通り、ノーカウントだ。
(せっかくの、ひい爺ちゃんからの贈り物だ、鍵を開けるだけと思って……)
近づくと全身が赤紫の魔神、日本の角がごつくて硬い、
ここへキスすればいいのかな? とお婆ちゃんたちに目をやると……
「きちんと身体は拭いておりますから、不衛生ではありませんよ、唇も」
じゃあこのメイド服もいちいち脱がしていたのか、
そしてやはりキスする先は唇らしい、うん、覚悟を決めよう。
(あくまで儀式、あくまで儀式、あくまで儀式……)
息すらしていない仮死状態らしき魔神、
その紫の唇に、僕の唇をそっと、そーっと寄せて……
チュッ
「……よし、終わった」
「ダルマシオ坊ちゃま、ふざけている場合ではありませんよ」
「えっ、でもキスって」「そんなもの、キスではありませんよ」
一瞬ついばむようなのはキスじゃないってことかぁ。
「んもう、このサンドリーヌお姉さんが教えてあげましょうか?」
「えっ、まだ子供なんじゃ」
「失礼ね、これでも22歳よ!」
えっ、ええええええ?!
このお子ちゃまメイドが実は成人?!?!
どう見ても12歳、学校生最高学年な感じなのに!!
「ええっと、キスの経験は」「無いわよ!」
「じゃ、じゃあやっぱり12歳なんじゃ」「22歳よ!」
「……お姉さん?!」「隣のタマラよりは2つ上だわ」
メカクレ超巨乳そばかすショートボブはタマラさんっていうのか、
そして20歳と、いや彼女も練習の選択肢に入れちゃって良いのだろうか?
(……メイドの女性を『練習』にだなんて、使いたく無い!!)
「わかりました、覚悟を決めてこのユピアーナさんと……」
「ダルマシオ坊ちゃま、きちんとした、ちゃんとしたキスをするのですよ」
「わかりました、とにかく僕の知っている知識で、頑張ってみます」
改めて……あっ、鼻がピクリとした!
さっきの軽いのでも少しは効果があったのかな、
よし、ここは濃厚なのを、って出来るかな、僕、ぼく……
(ええい、できるかな、じゃなくって、やるんだ!!)
「……えいっ!!」
ぶちゅうううううううううううううううぅぅぅぅぅっ……
(……これ、目を開けてていいの? 鼻で息してもいいの??)
なんだかよくわからないけど、
周囲の魔石が光り始めたみたいだ、
そしてその光が僕らの方へ放出されて……!!
「……んぐ? んぐぐぐぐ!!」
物凄い力で抱き寄せられた?!?!
(というか、持ち上げられて、下から抱きつかれているううう!!)
唇が、顔が、身体が、離してもらえないいいいいぃぃぃぃぃ……
「……ぶはあっ!! 良い目覚めだね」
「はぁっ、はぁっ、はあっ」
ようやく離してもらって床に足をつける僕、
そして起き上がった巨体メイド、高い、やはりめっちゃ身長がある、
ヨダレをぬぐいつつ立ち上がると、その前にメイドお婆ちゃん達が跪(ひざまず)く。
「ユピアーナ様、復活おめでとうございます」
「ふむ、あれから何年経った」
「八十年です、九歳だった私も八十九です」
そりゃそうだ。
「確かあの頃の、メイドの孫娘だったな」
「はい、アニエスの孫、アナベルの娘、アルメンでございます」
「して約束の者が、この男か」「はい、魔王討伐その報酬、ギリオス様のひ孫、ダルマシオ坊ちゃまでございます」
(えっ、ええっ、ええええええ?!?!)
この僕が、報酬?!?!?!
「アルメンさん!!」
「……嘘はついておりませんよ坊ちゃま、今はユピアーナ様の前ですゆえ」
「ええっと、えっとえっと、僕は……どうなっちゃうんでしょう」
プレゼントを貰うはずが、
僕が魔神のプレゼントだったなんて、
騙されたとしか言いようが無いんですけど!!
(見ると他の若いメイドもみんな跪いているし……)
「ダルマシオとか言ったな」
「は、はいっ、僕も片膝着いた方が」
「それには及ばない、何せお前は、今から私の『ご主人様』になるのだからな」
あっ、ということはやっぱり、メイド……?!
「で、でも立場的には」
「私の希望だ、私は起きたらメイドになる、その主人を手配して貰っただけだ」
「じゃあ僕はどうしたら」「私をメイドとして好きに使え、死ぬまでお前に一生涯、尽くしてやろう」
……どう考えても、
いや、どう見ても『主人』はこのメイド、
魔神ユピアーナ様なんですけどおおおおお?!
「さて、ではまず褒美の分配をしよう」
「分配?!」
「ああ、だがその前に……ダルマシオ、私をメイドとして雇うと誓え」
誓うって!!
「言えば、宣言すれば良いのですか」
「そうだ、それで契約完了だ、断るなら……」
「ど、どうなっちゃうんですか」「坊ちゃま、誓って下され」
メイド長アルメンお婆ちゃんがめったに見せない厳しい表情、
本気の顔で僕に訴えかけている、うん、こうなったら逆らっては、いけない。
(まあ、プレゼントって話だったし……)
「では誓います、この僕、ダルマシオは、魔神ユピアーナを、メイドとして……雇います!」
「そこは『受け入れます』で頼む」
「あっはい……受け入れます!!」
その瞬間、
メイド服越しにユピアーナさんの下腹部に、
紫色の紋様が光って……服の中へ解けた!!
「……よし、これで契約完了だ、もう一生、逃げられないからな」
「は、はあ」
僕は少しだけ、背筋がぞくりとした。
「さあ、では誰がどれを受け取る、整理をしよう」
(分配って、何だろう???)
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