第2話 うちのひい爺ちゃんが僕にプレゼントを残してくれたって!

 馬車の窓から見える我が街ダクスヌール、

 栄えている訳でも寂れている訳でも無いのはこの街独特の理由がある、

 この街でしか採れない国にとって重要な植物や入る者を選ぶ魔物区域……


(儲けるには良いが、あまり長く居たくないって場所だ)


 もちろん例外はある、

 いま馬車が横を通る村長さん、

 事実上の現領主なんかは光魔法使いだ。


「さあダルマシオ坊ちゃま、話を始めてよろしいですね?」

「あっはい、どうぞ」

「八十年前、世界を救った七英傑、その全ての名前をご存じですよね?」


 これは六歳から入った学校で習ったし、

 その上の十二歳から入った学園でもおさらいした、

 これをソラで言えないようでは国民とは言えないらしい。


(うちのひい爺ちゃんも混じっているからね!)


「えっと、のちの国王となった勇者王子イスマエル=ロシュフォール、

 それを支えたのちの王妃、光の聖女ロリーヌ=ルブランはルブラン教会に名を残す、

 あと暗黒竜を単騎で倒した伝説の剣士ハヴェル=アルベルトは王都の闘技場に名前が付けられている、と」


 お婆ちゃんメイド達がウンウン頷いてくれている。


「そしてS級冒険者、のちに世界で唯一のSSS級冒険者となった戦士二グレアム、

 名誉貴族の称号を貰って二グレアム=アンドリューペイズになったと、

 それとエルフの血を引くと言われている女弓使いホーリーマリー=ペリグリム」


 馬車は街から出て畑の並ぶ道へ入る、

 朝から様子を確認している領民が僕らにお辞儀したり、

 手を振ってくれたり……一応、僕は未来の領主として認識はして貰っている。


「そしてどこから来たのかわからないが、魔王討伐後は王都で遊び惚けて、

 子孫を作りまくった敏腕アサシンのヘルムート、のちのヘルムート=エルデルン、

 最後に辺境の大魔法使い、この世全ての魔法を使いこなせると言われる大魔導師……」


 そう、僕のひい爺ちゃんだ。


「そうですね、一般的な認識は全てそうなっております」

「これに何か、嘘でも」「はい、嘘が多く隠されておりますよ」

「えええ、ギリオスひい爺ちゃん、そんなことひとっことも!」


 じゃあ、あの魔王討伐したときの自慢話も、嘘が?!


「……ギリオス様のお話自体は本当の事でしょう、

 ただし、坊ちゃまよく考えて下さいませ、

 パーティーメンバーというのは通常、何名ですか?」


 パーティーメンバーというのは冒険者や兵士が一度に組む数の上限がある、

 補助魔法や全体回復魔法が全員に行き渡る数の最高人数だ、それは……


「八人ですね、だから七英傑のパーティーはその場その場の必要に応じて、

 あと一人をとっかえひっかえ、ひい爺ちゃんはよく女拳闘士の助っ人の話を」

「実はその八人目というのが、七英傑よりも強い、最も活躍した英雄だったのです」


 な、なっ、なんだってーーー?!


「じゃあその人は、ずっとメンバーに」

「むしろ勇者と聖女は街で留守番が多かったと」

「あっ、それで抜けた時に補充で他に助っ人を」


 みんなの知っている常識が揺らぐ話だ。


「それで、その英雄が魔王討伐の中心人物だったのですか」

「……その方にこれから会いに行くのですよ」

「えええ、まだ生きているの?!」「……それなのですが」


 馬車はいつのまにか森に入り、

 ゆっくりと減速していく、そして止まった、

 操縦している副メイド長イリスさんの隣りに座るエクドナさんが手をかざしているようだ。


(何しているんだろう、ちょっと見よう)


 ちょっと失敬して扉を少し開け、

 前を見ると二頭の白馬がみるみる真っ黒に……!!


「影の塊りみたいになった!」

「あれがあの馬、シャドウホース本来の姿ですよ」

「あっ、そして真っ暗な霧の中へ入って行く」「坊ちゃま」


 そう呼んで僕を引っ張って扉を閉めるサエラスお姉ちゃん、

 動き始めたからね、ここから先は僕の行った事の無い道だ。


「今、申し上げた事も、これから見ていただく遺産、

 すなわちダルマシオ坊ちゃまへのプレゼントも、

 ギリオス様が亡くなられたら全て話して欲しいと、手紙も預かっております」


 そう言って渡された包みに入っていたのは、

 大量の紙、いやこれまとめて書物というか本にできる数だ、

 百枚以上はありそう、ちらっと見たらいきなり『すまぬひ孫よ』の書き出しで始まっていた。


(揺れた馬車で読むのは大変だから、後にしよう)


 隣りのカタリヌさんに渡してっと、

 相変わらず眼鏡美人だなあ、それはさておき。


「それでその、プレゼントというのは」

「七英傑が全て亡くなった時に解ける封印を施された……メイドです」

「めっ、めめめ、メイド?!」


 一気に話が跳んでない?!?!


「なぜメイドが封印されているの」

「先ほどお話した七英傑にとって真の英傑、

 それがその封印された彼女に、他ならないからです」


 勇者とか賢者とか魔法使いとかならまだしも、

 よりにもよって魔王を倒した最大の功労者が、メイドだなんて!!

 真っ暗な霧の中、光魔石が明るく灯された馬車内でのメイドお婆ちゃんの表情は、真剣だ。


「……嘘じゃなさそうですね」

「正確には『メイドになりかたった』だそうですが、魔王討伐一行として、

 たまにメイドの真似事をして遊んでいた事もあったそうですよ」


 あー、そういえば聞いた覚えがあるな、

 女拳闘士がメイドをしたがって一番大きなサイズを買って着たら、

 屈んだ拍子にあちこちビリビリって破けたって話。


(その弾けたボタンでゴブリンを倒したとか、話を絶対盛ってるなって思った)


「その方が、封印されているんですか」

「はい、そして復活したのち、本当のメイドになられるそうです」

「誰の?」「ダルマシオ坊ちゃまの」「僕の?!」「はいそうですよ」


 ……なんだか、とんでもないプレゼントの予感!


「でも、八十年前に封印って、年齢は当時のままで?!」

「そのあたりについては心配はいりませんよ……そろそろですかね」

「えっ、もう?!」「亜空間に近い村ですゆえ、特にシャドウホースの速さならば」


 なんだかおどろおどろしい雰囲気の村だが、

 建物自体はちゃんとしている、うん、立派な村だ、

 人もそこそこ居るようだけれど、黒や灰色のローブで身体を包んでいる。


「あっ、ひょっとしてカタリヌさんやサエラスさんも」

「はい、ここの出身です」

「いつもはこちらに住んでいますよ~」


 こんな隠された村があったなんて……

 魔女の村っていう奴か、とはいえローブから一瞬覗けたが、

 男性も普通に居るみたいだ、そりゃそうか、子供も見かけるし。


(って小さな子供もローブ羽織って、はしゃいでるな)


 別に性格がみんな陰気とか、そういう事も無さそうだ。


「ここって、一応、僕の領内?!」

「そうですね、こちらはこちらで村長も居ますよ、オチュアの息子ですが」


 ウチのメイドお婆ちゃんの子供がかぁ、知らなかった。


「さあ見えてきましたよ、プレゼントを封印しているお屋敷が」

「うっわ、でっか、ウチよりでかい!!」


 五階建ての大きなお屋敷だ、

 ウチのギリ二階建て(二階部分が小さい)より三倍は立派だ!!

 馬車が止まると屋敷から知らないメイドが出て来た、片方は子供かな?


(そしてもう片方は、む、むむむ胸が、お胸がとんでもなくでかい!!)


 今まで実家や実姉の屋敷で何人もメイドを見て来たが、

 全体がばかでかい女戦士兼業メイドのヴァーロさん(36)を別にすれば、

 過去最高に胸が大きいメイドだ、なんというか、メイド業務が大変そう。


「お待ちしておりました」


 そう言って子供メイドが何度か跳ねて扉を開けようとするが、

 まるで子供はいいから、といった感じで巨乳メイドが扉を開ける、

 前髪で目が隠されているメカクレだ、そして顔にそばかすがいっぱい。


「ダルマシオ様ですね、ようこそ」

「あっはい」

「この日をお待ちしておりました!」


 うん、僕も早くお会いしたかった、

 いや僕だって健全な十五歳だ、仕方ないでしょう!!

 後ろからお婆ちゃんメイド達も降りる、カタリヌさんやサエラスさんらに手伝って貰って。


「さあダルマシオ坊ちゃん、このお屋敷も坊ちゃんのものですよ」

「えっ、そうなのぉ?!」

「正確には封印されているメイドの物ですが、その主人の物になりますゆえ」


 ……いっそこっちを屋敷にしたいぐらいの巨大さだ。


「それでその方は、もう起きて」

「いいえ、封印を解くのは坊ちゃまの仕事です」

「はあ、じゃあまだ寝ているんですか」「はい、地下三階に」


 そんなに地下があるんだ!!

 現地メイドのお子様&巨乳メカクレそばかすメイド、

 って長いな後で名前を聞こう、に屋敷の扉を開けて貰って中に入る。


「うっわ、これどこの公爵家ですか!」

「これも魔王退治の報酬で建てたそうですよ」

「誰が」「物理的にはこの村の男共で、時間をかけて」


 じゃあ建物は封印してから作ったのかな?

 いや魔王討伐中のお金でって事もあるのか、

 ほんっとうにきらびやか、不気味な置物もあるけど。


(なんだよあのドクロの黒水晶は……)


 地下への階段を先導して貰う、

 メイドお婆ちゃん達もついてきてるからゆっくりだ、

 王都や大きな街には『魔導昇降機』なる便利なものがあるらしいけれども……


「それでダルマシオお坊ちゃま」

「はいアルメンさん、どうぞ」

「これからお会いいただく彼女の名前なのですが……」


 うん、それ大事、僕へのプレゼントだし。


「何と言う方ですか?」

「はい、その名は……『魔神ユピアーナ様』です」

「え、ええ、えええええ……ま、まっ、魔神ーーー?!」


 とてつもなく凄まじいプレゼントだな、僕のひい爺ちゃん!!!

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