メイドが本体!

風祭 憲悟

第一章 闇のメイドを引き連れて王都の学院へ行こう!

第1話 僕は辺境の領主見習い! 

「ダルマシオ坊ちゃま、ギリオス様が……お亡くなりになられました」


 寝起きの朝、

 ベッドでウチのメイド長アルメン(89)さんから、

 暗い表情、重い言葉で訃報を知らされた。


「そっか、ひい爺ちゃんも、ついにとうとう……」


 後ろのメイド四人、副メイド長イリス(87)さんも、

 キッチンメイドのウラヌスさん(86)も、ナースメイドのエクドナさん(84)も、

 ハウスメイドのオチュアさん(83)も、涙を潤ませたり流したりしている。


(僕は、そこまでは……かな)


 何せ120歳の大往生だ、

 それに多くとも年にニ、三回会う程度……

 僕の数少ない味方だからそりゃあ悲しいし寂しいが、そこまで泣く感情は湧かない。


「なので私共、お葬式へ行って参ります」

「あっはい、みんな元メイドだもんね、ひい爺ちゃんの……って、全員行っちゃうんだ」

「後の事は、カタリヌとサエラスに」


 そう言って僕の寝室から出て行くメイド五人組、

 それぞれ赤、青、緑、茶色、黄色のカチューシャを付けている、

 あとは後ろにピンクのリボン、形はそれぞれ違うので後ろ姿でも見分けがつく。


(五人いっぺんに居なくなるなんて、珍しいな)


 いつもは日替わりで一人か二人が休む、多くても三人だ、

 そしてメイドが少なかったり珍しく来客の相手をしないといけない時、

 その他諸々の急用などで臨時に補充される若いメイドがカタリヌ(28)さんとサエラス(24)さんだ。


 コン、コン


「失礼致しますわ」

「本日より私共が当分、お世話をさせていただきますね」


 お婆ちゃんメイド達が出て行ってドアを閉じたと思いきや、

 入れ替わりでノックし入って来たふたり、街ではあまり会わないけど、

 いったいどのあたりに住んでいるんだろう? っていつも不思議に思う。


(僕が出不精なだけだろ、とか言わないで!)


 これでも領主見習いとして色々と忙しいんだから。


「ダルマシオさま、あいかわらず『お坊ちゃま』な姿形をしておりますわね」

「寝起きだからなんじゃ、そういうカタリヌさんも行き遅れメイドちょ……いでででで」

「わたくしのお眼鏡に叶う相手がなかなか現れないだけですわ」


 うん、いつも高価そうな眼鏡をかけてるからね、

 つねたほっぺたをやさしく撫でて手を離す、綺麗な手……

 続いて紅茶セットを持ってきてくれている、やさしいお姉さんメイドが。


(お母さんタイプって言うと怒るんだよなぁ)


「きちんと毎日、剣の鍛錬はしていますか? 坊ちゃま」

「はいサエラスさん一応は、といってもまだ木の剣だけれど、対人も上手くなったよ!」

「もう十五歳なのでしょう、そろそろ私から一本くらいは取れるようにならないと駄目よ?」


 やさしく撫でてくれる手つきといい笑顔といい、ウェーブがかった金髪も、

 会うたびに母親っぽさ、『ママみ』を感じてしまう……でも怒るんだよなぁ、

 呼ぶなら『サエラスお姉ちゃん』と言いなさいって、もう実の姉ならすでに居るのに。


(でも近所のお姉ちゃんっていうより、若奥様って感じだよね、独身らしいけど)


 こう見えて剣はそこそこ、魔法はかなり優秀なメイドさんだ。

 とまあこの二人、カチューシャは白でリボンは水色、予備メイドだからかな、

 役職も決まってないはずっていうか何でもやらされる、言い方は悪いが雑用メイドだ。


「はい、どうぞ」


 素早い手つきで紅茶を淹れてくれた、

 うん、熱すぎず温(ぬる)くもなく、さすがメイドだ。


(……ふう、相変わらず目覚めに良い紅茶だ)


「これ、美味しいのになあ」


 呑み干し、ため息交じりで言った僕に対し、

 眼鏡に手をやりつつ説明してくれるカタリヌさん。


「ダルマシオさまの将来治めるこの領地、スゥクネィダ特産の紅茶ですが、

 やはり土地が土地だけに、いかに美味しくとも敬遠されるのではないかと」

「だよねぇ、うちの領地、そのほとんどが『忌み地』だから……」


 などと会話していると、

 メイドお婆ちゃん五人組が戻って来た、

 みんな黒を基調としたメイド喪服とでもいうのかな。


「ダルマシオ坊ちゃま、一緒にお出かけですよ」

「えっアルメンさん、僕もひい爺ちゃんのお葬式に?!」

「いえ、出席はお姉様のブリジットさまが」


 うん、家の、我がダクリュセック辺境伯家の

 面倒くさい行事関連は全て離れて住む実姉任せだ、

 僕には僕の、僕にしか出来ない仕事がこっちにはあるからね。


「じゃあ、これからどこへ」

「……今まであえてご説明して来なかった、我々の故郷ですよ」

「つまり、その、勘付いてはいたけれども……」


 僕も学院生活を控えた十五歳だ、

 教えられてなくても大体はわかっていた、

 見習い領主から本当の領主になるためには、知っておかなきゃならない話だ。


「はいダルマシオ坊ちゃま、私達は……闇の魔女なのです」


 両・予備メイドに着替えさせてもらいながら、

 あらためてメイド長アルメンさんの言う『闇の魔女』についておさらいをする、一応の確認だ。


「この街ダクスヌールが村だった頃から伝説として残っている、闇魔法の使い手だよね」

「そうですよ、闇属性については、わかっておいでですよね」

「うん、使えても絶対隠さないといけない、禁忌とされる魔法の種類だよね」


 この世界には魔法を使える人が半分は居る、

 そしてその使える魔法には『属性』というものがあり、

 基本は『地』『水』『火』『風』の四属性なのだが更にレアな『光』そして『闇』の属性がある。


「はいダルマシオ坊ちゃま、大昔から闇魔法は忌み嫌われており、

 その使い手というだけで、あらぬ噂を立てられ迫害されてきたのですよ」

「知ってる、五年くらい前に学校で習ったし、そのまえに実家の本でも読んだし」


 だから使えても誰にも言っちゃいけないし見せちゃいけない、

 でも六歳でここへ放り込まれてからメイドのお婆ちゃん達が、

 入り込んだ害虫駆除や眠れない僕の寝かしつけにこっそり使っているのを知っていた。


(あと、こっそり夜の街を飛んでいたり!)


「メイドのお婆ちゃん、五人とも全員だよね?」

「それだけではありませんよ、カタリヌとサエラスもです」

「ええっ、そうだったんだ」「闇のお姉ちゃんですよ~」


 微笑むサエラスさん、そういえば心当たりが無い事も無い、

 街で一緒に歩いてて変な冒険者に囲まれた時、

 目を瞑っている間に綺麗さっぱり片付いていたりとか。


「じゃあカタリヌさんもですか」

「私は魔法は一切使えませんが、闇属性の身体ですわ」


 そう、魔法が使えない人であっても、

 その身体に『属性』が宿っている人は多い、

 むしろ無属性の人の方が全体の三割から四割だとか。


(ちなみに僕は、光属性です!)


 魔法はまったく使えないけど。


「これからダルマシオ坊ちゃまが向かう我々の村、

 そこにギリオス様からの贈り物が封印されているのですよ」

「封印って、呪われた魔導具か何か?!」「……その話は道すがら、おいおい致しましょう」


 着替えが終わり外出着となった、

 一応は領主としての恰好だがそこまで偉ばってはいない、

 街を視察しますよといった部類の『ちょっと良い服』程度だ。


(領主見習いだからね、仕方ないね)


「では行きますよ」


 屋敷の前には大きな馬車が用意されている、

 綺麗な白馬が二頭、操るのは……副メイド長イリスお婆ちゃんだ、

 サエラスさんがドアを開けて広い中へと誘導してくれる、向かい合った六人乗り。


(僕が後部真ん中で両隣は予備メイド、前列でこっちを向いているのが正規メイドのお婆ちゃん達だ)


 馬車が走りはじめ、

 僕の真向かいに座るメイド長アルメンさんが話を再開する。


「……ダルマシオ坊ちゃまには、改めて八十年前の、魔王との戦いについてお話しましょう」

「うん、ひい爺ちゃんから何度も聞いてはいたけど」

「実は話してはいない、重要な部分があるのです、それを今からお聞かせ致しましょう」

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