第14話 火袋のホゥアン



「ホ、ホゥアン様!?危険です。コイツは、人を殺した『人喰い』ですよ!!?」


「それがどうしたの?コイツは、私の可愛い侍女を殺したのよ? 許せるわけないでしょう?」


 裁判官の静止を無視して、ホゥアンは前に進むと手に、火が現れる。


 その火は大きく膨れ、鳥のような形になった。


「火の鳥……?」


(ほー派手じゃのう)


「み、皆さん!!下がってください!! ホゥアン様が『鳳凰』を使われますぅ!!」


 ホゥアンがいた場所から、1人の少女が声を上げる。


 艶々とした桃色の髪を三つ編みにしている、メガネをかけた少女だ。


 少女は、必死に声を張り上げていた。


「『鳳凰』!?ひ、ヒィイイイ」


 少女の声をきいて、裁判官は慌ててその場を離れる。


 そして、シュクの周りを囲んでいた兵士たちも、急いで逃げ始めた。


「……きゃーこわーい」


 そのため、シュクも周りに合わせて逃げてみることにした。


「逃げるな!!」


 そんなシュクを、ホゥアンは一喝して止める。


「……へーい」


 怒られたので、大人しくシュクは証言台に戻った。


「で? どうするの?」


 証言台に戻ったシュクは、ホゥアンに聞く。

 

「どうする、とは?」


「それ。その炎。投げるの? ここで?」


「そうだけど?」


「良いけど、色々大変なことにならないかな?」


 シュクの言葉に、ホゥアンは笑みを浮かべる。


「なに、命乞い? 散々ふざけた態度を取っていたけど、ようやく自分の罪を反省して……」


「その程度の炎じゃ、私は死なない。火傷もしない。とばっちりで怪我をしそうな人たちもいるけど、かき消してやるほど親切でもない。それでも、投げるの? それ」


 シュクの言葉の意味を、ホゥアンは考える。


 そして、自分が侮られていることに気がついた。


「……舐めているの?」


「怒るなよ。事実だろ?」


「こっのっっっっ!!!」


 ホゥアンの怒りを表すように、火の鳥がさらに巨大化してシュクに向けて放たれた。


「ギャァアアアア!?」


 ホゥアンの放った火の鳥は、巨大な火の波となり、広場を覆う。


 広場に、悲鳴が響いた。


「……あーあ。かわいそうに」


 その悲鳴は、シュクのモノではない。


 火傷の痛みと炎の熱に苦しんでいるのは、シュクを囲んでいた兵士たちだ。


「な、なぜ、平然としているの?」

 

 ホゥアンの炎に包まれているはずなのに、火傷どころか衣服さえ燃えていないシュクに、ホゥアンは目を見開いている。


「この程度の呪いで燃えるほど柔な体をしていないからな」


「呪い……?」


「それより。聞くけど、この兵士たちが火傷しているのは私のせいか?」


 シュクは、炎で苦しんでいる兵士たちを指差す。


「そんなこと、どうでもいいでしょう!?」


「良いから、答えなよ」


 シュクの言葉は、静かだった。しかし、同時にとても冷たく、重さがあり、ホゥアンが一時的に口を閉ざすのに充分なほどであった。


「……アナタのせいではないわ」


「じゃあ、だれのせい?」


「私のせいだとでも言いたいの? くだらない。兵士とは、あらゆる困難を退け、守るために存在する。そのために彼らは武器を持っているの。この程度の事態で怪我をするなら、それは彼らの責任よ」


「言い切るねぇ」


 シュクは、ホゥアンの目をみる。


 燃えるように、まっすぐな目を。


(……直情的。つまり、着火するのは簡単、と)


 シュクは、ホゥアンから他の『四貴瑞』に目を向ける。


「やっていない」


「……何?」


「私は、昨日誰も殺していない。むしろ、襲われた被害者だ」


「先ほど、アナタは罪状を全て認めたはずだけど?」


「ごめん、聞いてなかった」


 あっさりと、はっきりとシュクは言い切る。


「……私は、侍女を殺されたわ。長い間私を支えてくれた人だった。厳しいところもあったけど……優しい人だった」


(厳しい、ねぇ)

(厳しい、か)


 ホゥアンの話に、シュクと銀狐のシルコは、同じ予想を思い浮かべる。


「……私を昨日襲ったのは、女が1人と、男が2人。そして、袋を被った化物だ」


「袋を被った、化物?」


 ホゥアンの目に、はっきりとした困惑が現れる。


「化物の話は聞いていないのか?」


「そんなこと、言っていなかったでしょう?」


「だから、聞いていないって」


 シュクの答えに、ホゥアンは明らかに落胆したように肩を落とす。


「……そう」


「ちなみに、その侍女さんが殺されたのって、どうやってわかったの? 袋の化物は、頭をこわしていたけど」


「……彼女が身につけていた髪飾りが見つかったのよ。昨日の被害者の死体から」


 一応、袋の化物に殺された死体が、人の原型を留めていなかったことは知っているのだろう。


 ホゥアンの顔は、明らかに暗くなった。


 しかし、そんなホゥアンにシュクは追い打ちをかけるようなことをいう。



「どれなんだろうな」


「何?」


「昨日、私を襲ったやつ。男2人は除くとして、女性と……」


 そこで、シュクは言葉を濁した。


「……それは、どういう意味?」


「さぁ?」


 シュクの目はまだ高い席からこちらを見下ろしている他の『四貴瑞』を映している。


(さすがに、こんなところでボロは出さないか。思ったより、面白いことになりそうだ)


 シュクは口角を上げて笑うのだった。




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