第13話 判決 死刑


「被告人は証言台の前へ」


 裁判官と思われる男性が、低い声で告げる。


 その指示に従い、シュクは証言台に立った。


「さて、これが中ボス達か」


 裁判官から離れた場所に、裁判官よりもさらに高い位置からシュクを見下ろしている女性達がいる。


(中ボスなのか? 一応は大ボスじゃないのか?)


「コイツっ!? 直接脳内に!?」


 頭の中に聞こえてきた銀狐のシルコの声に、シュクは驚いて見せる。


(いや、これくらい今までもやってきたじゃろ)


(まぁ、それはそうだけど。というか、いいのか? これも力を使うんじゃないのか?)


(この程度なら、丸一日話しても、一文字も消費せんから安心せい。それよりも、ワシはこっちの方が疲れるがのう)


 銀狐のシルコは、空を見上げる。


 そこには、鏡が浮いていた。


(異世界の裁判の映像なんて珍しいじゃん。加工して流せば面白いかなって)


(まぁ、異世界も裁判の映像もあまりないが……面白いかのう)


(それは編集と演出で、面白くしよう)


「……以上! これについて被告は何か反論があるか?」


「え? ああ、えっと特にないです」


 銀狐のシルコとの話に夢中になっていたシュクは、裁判官と思われる男性の話を聞き流していた。


 そんなシュクに、裁判官は判決をくだす。


「では、判決を言いわたす……被告人は死刑」


「早いな、おい!!」


 思わず、シュクはツッコンだ。


 しかし、そんなツッコミを無視するように、裁判官の判決を受けて、兵士たちが動き出す。


 ゾロゾロとシュクの周りを囲み、シュクが逃げ出さないように包囲した。


 そして、1人の兵士が何やら液体の入った杯を渡す。


「罪を認めた以上……お飲みください。貴方が王族であるならば、大人しく裁かれるべきです」


 裁判官は、淡々とシュクの死刑を進行する。


「いや、判決が出て即執行とか、あるのか?」


(国や時代によってはあるのう)


「王子でも?」


(王子だからこそ、ということもありえるが……この場合は、別の思惑もありそうじゃのう)


 銀狐のシルコは、裁判官の後ろからシュクを見下ろしている『四貴瑞』をみる。


「……そんなに、この体が欲しいのかねぇ」


「何をブツブツ言ってやがる!!おら!!さっさと飲め!!」


 兵士の1人が、槍の穂先でシュクを突こうとした。


 その槍をシュクは掴む。


「んむぅ!?」


「やめろ。さっきみたいに腕を消されたら面倒だ。2回も治す余裕はないんだよ」


「ん?ぐぅ!?」


 兵士は、力を込めているが、シュクに掴まれた槍は動かない。


「……ねぇ、この毒を飲んだら、裁判は終わり?」


 混乱する兵士は無視して、シュクは裁判官に質問する。


「……そうです」


 兵士の様子に困惑をしながらも、裁判官はシュクの質問に答えた。


「じゃあ……」


 シュクは、裁判官の答えを聞いて、あっさりと毒を飲み干す。


 その潔さに、シュクを囲んでいた兵士や裁判官は目を見開いているが、シュクはそんなことは気にせずに杯を空にすると、証言台の上に置いた。


「……うぇ、マズイ」


 シュクは、顔を険しくして、口の中をモゴモゴと動かす。


「テトロドキシンかなぁ。フグの毒の。生臭いし、普通にお腹壊しそう。異世界だから変わった毒かと思ったけど……ドクニンジンとか興味あったんだけどなぁ。あれは西洋ファンタジーか。とにかく、口直しをしたい」


 シュクは、顔を険しくさせている。


 しかし、毒で倒れるようなそぶりはいっさいなかった。



「……ど、どういうことだ!?」


 いつまでも死にそうにないシュクをみて、裁判官は慌て始める。


(まぁ、世界を覆い尽くすような呪いでも受け切るような奴じゃ。普通の毒で死ぬわけがないなぁ)


「飲みたいモノでもないけどな」


 シュクは大きく伸びをすると、証言台を降りようとした。


「ま、まて!」


「何? 毒は飲んだし、もう裁判は終わりでしょ? 撮れ高は十分ありそうだし、ちょっとジュースでも飲みたいんだけど」


「何を言っている!? とにかく、待て!!」


 裁判官に言われて、しょうがなくシュクは証言台に戻る。


(死刑と言われたので、毒を飲んでみた!!ってタイトルでいいかなぁ、この裁判の動画)


(さすがにひねりがなさすぎじゃないか? 異世界とか中華風裁判とか、キャッチーなワードも必要じゃろう)

 

 何やら、シュクが飲んだ毒杯を調べたり、毒を調合したと思われる医官を読んだりなど、裁判官は慌ただしくしている中、シュクは今撮っている裁判の様子について、相談をしあう。


 そして、しばらくして裁判官は新しい毒杯を持ってきた。


「こちらを飲んでください」


「また?」


 シュクは、新しい毒杯を飲み干す。


「今度は毒草か? 生臭くはないけど、すごい苦い。もしかして、これがドクニンジンかな? それとも、トリカブトとか? 飲んだ事ないからわからないけど。これ、材料何?」


 顔こそ険しいが、シュクの体は健康そのものだ。


「な、なぜ……」


 毒杯を飲んでも、平然としているシュクに、裁判官は唖然とする。


「もう、いいかな?」


 そんな裁判官に軽く呆れながら、シュクはそのまま広場を去ろうとした。


 そのときだった。



「待ちなさい!!」


 広場でも最も高い席の一つから、声が上がる。


「毒で死なないというのなら……私が直接始末してあげる」


 声を上げたのは、朱色の髪の気の強そうな女性だった。


「あれは、確か……」


(鳳凰宮 火袋のホゥアン。じゃったかな?)


 火袋のホゥアンは、炎と共に広場に降り立った。












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