第12話 『人喰い王子』クラウの過去
(あの、四貴瑞(よんきすい)金筒のグァンジン様にも、この態度か。まぁ、一応は俺の体だから、王族としての態度とすると、間違ってもいないが)
大人しく裁判が開かれる広場に向かうシュクの肩の上で、『人喰い王子』クラウは思う。
四貴瑞とは、王様より認められた、この国、霊国を守る4人の女性のことだ。
彼女たちは、王宮の中心、王様がおられる王宮を守るように造られた四霊を元に名付けられた4つの後宮が与えられている
麒麟宮 金筒のグアンジン
霊亀宮 木箱のリンシュ
鳳凰宮 火袋のホゥアン
応龍宮 水瓶のシュウイン
後宮を管理しているということは、実質的な次期妃の最有力候補であり、その権力は王族とほぼ同等である。
(しかし、俺は『人喰い』だ。彼女たちと、決して同等ではない)
クラウは、昨日、シュクに話した内容を思い出す。
袋の化物を容易く消滅させたシュクは、そのあとすぐに王宮全体を警備している騎士に包囲され、牢獄に閉じ込められた。
その中で、シュクにクラウの立場について詳しく話したのだ。
(俺の母は、俺を産むとすぐに亡くなってしまった。それでも、俺が10歳の頃までは、皆、王族として接してくれていたが……あの時から、変わってしまった)
霊国では、王族の男子は誰かと子を成すまで、後宮で生活をする。(そのことをシュクに話すと、『エロい!!』とはしゃいでいた)
しかし、常に後宮にいるわけではなく、狩猟大会などで外に出ることがあるのだ。
そして、クラウも部下を連れて狩猟大会に参加したのだが……問題が発生した。
本来、狩猟大会にいるはずのない強力な魔獣が、クラウを襲ったのだ。
その魔獣によって、クラウを幼少の頃より育ててくれた乳母や、護衛たちが殺された。
そして、クラウはある理由から、生きたまま魔獣の巣に連れて行かれたのだ。
一週間ほど経過して、ようやくクラウは騎士達に見つけられたのだが、そこから、クラウの人生は変わった。
極限の状態で、クラウはある『術』を使用できるようになっていたのだ。
『術』とは、王族や高位の貴族、一部の才能ある民が発現させることがある『何かを生み出す力』であり、大半は五行に類する火 水 木 金 土に関係するモノを、生み出し、操ることができる。
しかし、クラウが生み出したのは、『肉』だった。
血の滴る肉。生々しい肉。
その『肉』を喰らい、襲ってきた魔獣にも食べさせることで、『クラウ』はなんとか生きていたのだが、しかし、見た目が悪かった。
魔獣の死体の横で、自分の身を守るために、そして飢えと渇きをしのぐために生み出した『肉』にまみれているクラウ。
その周りには、魔獣によって噛み殺され、食べ残された、腐乱したクラウの乳母や護衛達の死体が転がっていたのだ。
その様子は、誰かが撮影していた『影像』によって、瞬く間に広まり、以来クラウは『人喰い王子』と呼ばれ、誰からも避けられるようになってしまった。
(後宮に住む娘達に、嫌われていることは知っている。『人喰い』と関係を結ぼうとする者などいないからな。そして、それは後宮以外でも同じだ。王族とは、所詮民や臣下によって生かされるし、活かされる。『人喰い』と呼ばれ、避けられた俺は、普通の貴族よりも……兵士よりも立場が低い。見下されている)
門番をしていた男を、クラウは見る。
通常、後宮の内側を守る門番は、宦官は、女性の騎士や兵士が担当する。
しかし、腕の立つ宦官や、女性の騎士や兵士は、貴重な存在である。
そのため、クラウの住む屋敷だけは、女性は近づかないだろうという理由で、通常の兵士が門番をしていた。
そんな、通常とは異なる対応が必要になる『人喰い王子』の門を守る門番といえど、長をしていたということは、男はどこかしらの貴族の子息なのだろう。
ならば、クラウの事は見下して当然である。
クラウには、無礼な門番を罰する『力』がなかったからだ。
(それが、これまでの『通常』だった)
しかし、今は違う。
クラウは、じっとシュクを見る。
その顔は、クラウ自身の顔であるはずなのに、生命力に溢れ、自信に満ちている。
『人喰い王子』と呼ばれ、避けられ、揶揄され、それに傷ついて俯いていた男の顔ではなかった。
(シュクの話も聞いたが……私と違い、彼女はとても良い人生を歩んできたようだ。人、場所、全てが整った環境で生きてきた。しかし、彼女の強さはそこではない)
クラウは、隣の方に乗っている銀色の狐、シルコを見た。
目を奪われるほどに神秘的で、跪きたくなるほどに、神々しい。
(シュクは、わざとあの神霊に呪われたことがあるそうだ。『祠壊師』呪われるために祠を壊すと言っていたが……彼女は自ら苦行に飛び込み、それを楽しむだけの胆力を持っている)
シュクと共に、クラウは裁判が開かれる広場にたどり着く。
そこには、武器を構えた兵士や騎士たちと共に、煌びやかな女性達が、地面よりも高い場所に座っている。
『四貴瑞』だ。
皆、美しい女性であるが、直視することさえも躊躇うような『品格』を持っている。
(どこの誰かもわからない貴族の子息にもバカにされてきた俺には、とても耐えられない状況だが……シュクなら、問題ないのだろうな)
クラウの予想通り、シュクは緊張のカケラもなく、『四貴瑞』に微笑んで見せるのだった。
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