第11話 四貴瑞のグァンジン
「ったく、気味が悪い。なんでこんな奴が、偉大なる高貴な方の血を引いているんだ?」
兵士の1人が持っている槍の穂先をシュクに向ける。
「裁判なんて必要ない。今、この場で、殺した方が良いだろう? なぁ」
槍を向けている兵士が笑うと、他の兵士たちも合わせるように声を出して笑う。
その、不快な合唱をなるべく耳に入れないようにしながら、シュクは兵士に言う。
「ずいぶん元気だな? 昨日は、石ころのように丸まって震えていたくせに」
今、シュクに槍を向けているのは、昨日、袋の化物に襲われている時に門番をしていた兵士たちのリーダー格の男だった。
「何ぃ!?」
シュクの指摘に、リーダー格の男は、顔を赤くする。
「お仲間いっぱいで元気いっぱいか? それとも、今は暗くないから怖くないのかな? 暗いところは怖いもんなぁ、お化けがでるぞーって」
「き、きしゃまは!! ぬぅあにをおおお!!」
馬鹿にしていたはずの者を相手に怯え、震えてしまった事が相当ショックだったのだろう。
門番をしていた兵士は、異様なほどの敵意をシュクに向けている。
「カミカミだぞ? まだビビっているのか?」
「ヌゥううううああああああ!!!!」
激昂した門番をしていた兵士が、槍を振りかぶり、シュクに振り下ろそうとした。
「グゥ!? ぬぐぐぐう!!!」
「いやいや、こんな狭い牢獄でまともに槍を振り回せるわけがないだろ?」
門番をしていた兵士の槍は、狭い檻の天井にぶつかっていた。
「くそがぁああああ」
そのことにようやく気がついた兵士は、槍を捨ててシュクに殴りかかろうとする。
「あー……やめとけ。そこは、角度が悪い」
シュクが止める声など、兵士にはまったく届いていないのだろう。
そのまま、兵士の拳はシュクに向けて振るわれた。
「……ぎゃぁあああああ!?」
一呼吸あけて、悲鳴が響く。
「う、腕がぁああ!?」
シュクに殴りかかった兵士の腕が、消えていた。
「だから言ったのに」
シュクは、自分の肩に乗っている銀狐のシルコに目を向ける。
「シルコも、加減をしてやれよ」
「あの程度の『徳性』でワシに殴りかかってきて、命があるだけ十分じゃろう」
兵士の拳は、ちょうどシルコを殴るような角度だったのだ。
そのため、兵士の拳が触れる寸前に、彼の腕は消滅した。
「御神体に触れるのは禁忌じゃからなぁ。それにしても、『徳性』が低すぎる。別に隠しているわけでもないのに、見えないとはな。これなら、初詣に来ているバカップルの方が『徳性』が高いぞ?」
「まぁ、所詮は命の恩人に殴りかかるような奴だからな」
銀狐のシルコと会話をしながら、シュクは周囲に目を向ける。
他の兵士たちが、腕が消えた兵士を見て動けなくなっていた。
どうすればいいのかわからないのか、ただ腕を失って暴れている兵士を唖然とした顔で見ている。
「……とりあえず、助けてやるか」
「優しいのう」
「今後のことを考えると、そっちの方が良いだろ?」
シュクは、逆の肩に乗っている黒いタヌキのクラウの方を向く。
「俺のことなら気にしなくてもいいぞ?」
「そういうわけにもいかないかな」
シュクは、唖然と立っている兵士の1人に話しかける。
「なぁ、こいつの名前は?」
「へ? あ……」
「名前だよ。この、倒れている奴の名前」
腕を失った兵士は、血を流しすぎたのか、床に倒れて動けなくなっていた。
「えっと、その……」
「シャーオよ」
シュクの質問に答えたのは、髪に艶のある少女を連れた着飾った女性だった。
女性の髪は、少女の髪よりもさらに艶やかで、金粉をまぶしたようにキラキラとしている。
(というか、マジで金粉を髪にまぶしているな)
シュクが、女性の髪に注目していると、兵士たちが一斉に平伏をする。
「グァンジン様!!」
それだけで、おそらくはグァンジンという女性はとても身分が高い人だとわかるが、あえてシュクはそのまま立っていた。
(クラウは、王子様だからな)
どのような身分の者が相手でも、クラウの体に憑依しているシュクが平伏する必要はないはずである。
しかし、グァンジンは不思議そうにシュクを見て首を傾げる。
「……どうしました?」
「どう、とは?」
「彼の名前を教えてあげたでしょう? どうするつもりなの?」
そこで、シュクはグァンジンが言っていたシャーオーという言葉が、腕を失った兵士の名前だと気がついた。
「こいつ、本当に名前があったのか。門番Aとかじゃなかったのか」
「……え?」
グァンジンのそばにいた少女が一瞬だけ反応をみせた。
(……ん?)
気にはなったが、まずは腕を失っている兵士シャーオを助けるのが先だろう。
シュクは隠し持っていた硬貨を手にして、呪文を唱える。
「シャーオは腕が治りますか?」
『はい』を、硬貨は示す。
すると、無くなったはずのシャーオの腕が元通りになった。
「配信時間2分が削られた、と。まぁ、いいか。話のネタにはなるでしょ」
シュクは、グァンジンに向き直る。
グァンジンは、目を瞬かせていた。
「驚いたわね。本当に腕を治すなんて」
「そんなに難しい事でもないでしょ」
シュクの返事に、グァンジンは言葉を探すように数秒ほど思考してから、言う。
「……まるで別人のようね」
「ちょっと、色々あったので」
そういって、シュクは左手の指先を見せる。
その指は、誰かによって仕掛けられた蛇によって黒く変色していた。
「それは、どうしたのかしら?」
「色々、あったので」
シュクはあえて言葉を濁す。
「そう。まぁ、いいわ。これから四貴瑞(よんきすい)による裁判だから。色々聞かせてね? その両肩にいる可愛い式神のことも含めて」
グァンジンは、銀狐のシルコとクラウに微笑んでみせた。
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