第10話 異世界の牢獄からの配信


「はーい。今日も元気にー『あの祠壊したんか』というわけで、因習村の皆ーおはよー」


 ブンブンと、シュクは手を振る。



コメント


88:もうダメかも


有精髭:もうダメだ。君、多分死ぬ


背後ちゃん:もうダメじゃん


雪姫:もうダメじゃ


撮美庵:もうダメ。きっと来る。


便所神:もうダメかん


あたろう:もうダメだ……って、シュクちゃん!! 昨日はどうしたの!?


 いつもと変わらないシュクの挨拶に、シュクのファン、『因習村』の面々が挨拶を書き込んでいく。


 そのいつも通りの光景に、シュクは満足そうにうなづきながら、『因習村』の面々にコメントを返す。


「まぁ、色々つもる話はあるけど……まずは皆が知りたいことを話しましょうか。今、私、シュクは! なんと!! 牢獄に放り込まれております!!!」


 湿り気を感じる石壁が並び、いかにも牢獄という場所のなかで、シュクはパチパチと手を鳴らす。


コメント


背後ちゃん:いや、何で?


雪姫:とうとう犯罪を……


背後ちゃん:法律だけは守りなさいってあれだけ言ったのに


あたろう:というか、気になるのはそこじゃないんよ。いや、そこも気になるけど


有精髭:シュクちゃん。なんで男なの?



「あー気がついた? 実を言うと、異世界の王子様の体に憑依してしまってね。色々あって捕まったんだ。いや、ビックリだよね」



コメント


トマトとフォーク:男!?


有精髭:ははは、マジで? 相変わらず面白いね、シュクちゃん


筋肉無敵:魂を引きずり出されたと思ったら、異世界とか、男とか


背後ちゃん:ウホッ


お岩屋さん:ゴリラ来た


寒雨円:シュクちゃん、元々中性的な美少女だったから、男になっても可愛いのう


「いや、だから異世界の王子様の体なんだって、この体。まぁ、私にソックリだけど。さっきカメラのテストしていた時に映像を確認したけど、本当にソックリだよね。ビックリした」


コメント


お皿屋さん:本当に王子様の体なのね


バー湯:こんなに似ることある? 異世界の、しかも王子様なんでしょ?


有精髭:似ているから引きずられたのかもねぇ。人と人との結びつきは合縁奇縁ってね。


筋肉無敵:王子様か……憧れたな。父親が王様じゃないから諦めたが


背後ちゃん:筋肉が王子様?


筋肉無敵:男はみんな王子様なんだよ


走り惰性:いや、何で異世界とか王子様とか信じているの? バカじゃねーの???????


みてみた:異世界なら配信とか出来るわけない


「さて、疑問がでてきたので、村の新入りに説明しておきましょう。シュクちゃん、普段の配信は100トンの衝撃にも1000度の熱にも、呪いにも耐える高性能ドローンのカメラを使っているのは知っているよね?」


コメント


あたろう:知っている


有精髭:めちゃくちゃな高性能だよね、欲しいなぁ


筋肉無敵:俺が殴っても壊れなかったしな


背後ちゃん:殴るなバカ


「そんな、高性能なドローンでも、さすがに異世界をつなぐことは出来ない……なので、今回撮影をしているのはドローンじゃなくて、某狐系村民が作ってくれた特別な鏡にてお送りしております!!」


コメント


あたろう:相変わらず高性能なお狐様


有精髭:さすがだよねぇ。シュクちゃんが呪われている呪いの中でも抜群の知名度だし、それくらいは出来るか。


虎巻:異世界から配信とか規格外すぎるwwww


みてみた:異世界からって、何か証拠あるの?


走り惰性:皆、こんな奴の言うこと信じてマジでバカwwww異世界なんてあるわけないだろ、クソニートwwww


トラガラス:シュクちゃんが異世界に行くのとか珍しくないのに何を言っているんだ?


「まぁ、実際、今は牢屋の中で異世界っぽい景色は見せられないからねぇ。私もこの世界のことはよくわかっていないけど」


コメント


88:服装的に中華系?


ドラゴンの球は7つ:牢屋も異世界というか、非現実だけどな


最終幻想:リアル牢屋は見たことない


あたろう:というか、男になっている時点で異世界


「ん……そろそろ、時間だ。じゃあ、とりあえずは現状報告と無事でしたって報告ということで。今度は牢屋から出て、本当の異世界を村民に見せてあげよう」


コメント


筋肉無敵:乙


雪姫:おつおつ


撮美庵:またねー


有精髭:これでフクちゃんの機嫌も良くなるね


筋肉無敵:ずっとカリカリしていたからな


走り惰性:異世界とかねーからwwwwwww


背後ちゃん:そろそろ黙れ


「じゃあ、またねー」


 配信を終えて、シュクは一息つく。


「ふぅ……」


「ご苦労じゃったな」


 人の顔の大きさほどの鏡を九本の尻尾で持っているのは、銀狐のシルコだ。


「ありがとうな、シルコ。これで一応、生存報告が出来た」


「これくらいお安いご用、と言いたいところじゃが、1分の配信で1文字の消費と同程度じゃ。そう簡単に配信は出来んのう。ま、お主のことを心配するような者はおらんか。殺そうとしても死ぬような奴じゃないじゃろ」


「なんか、心外だなぁ」


「あらゆる怪異の呪いを受けて、ピンピンしておるのに何を言っておるのじゃ?」


「それでも、死ぬ時は死ぬって」


「自分が死ぬなんてこれっぽっちも思っておらぬくせに、よく言うわい」


 銀狐のシルコは、冷たい目を向けながら、息を吐いた。


「……今のは、何をしていたんだ?」 


 シュクと銀狐のシルコの会話が途切れるのを待っていたのだろう。


 牢屋の端で小さくお座りをしていた黒いタヌキの見た目をしているクラウが、質問を投げかけた。


「んー……そっか。クラウは知らないよね。今のは配信って言って、遠くにいる不特定多数の人に、自分の映像を見せることなんだ」


異 世界に配信の文化はないだろうと、シュクは言葉を選んで説明する。


「ああ、配信か。今、俗世ではそのようなことが流行っているらしいな。人気のある配信者は、『影チューバー』というとか」


 クラウは、当たり前のことのように言ってのけた。

 そんなクラウの言葉に、シュクと銀狐のシルコは目を合わせる。


「偶然だと思うか?」


「どうかな。しかし、可能性は高い」


「どうしたのだ?」


「……いや、何でもない」


「そうじゃな」


「……気になるのだが」


 クラウの疑問を、何とか逸らそうと、シュクが話題を振ろうとした時だ。


「うるさいぞ!! 何をぶつぶつ言ってやがる、この『人喰い』が!!!」


 扉を開けると同時に、怒声を放ちながら兵士たちがやってきた。


「こい。『人喰い』の『人殺し』」


 シュクはこれから裁判にかけられる。


 罪状は、殺人だ。






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