第9話 『こっくりさん』銀狐のシルコ

『こっくりさん』


 狐狗狸さんとも書かれるこの占いは、狐の霊を呼び出す降霊術とも認識されている。


 『はい、いいえ、鳥居、男、女、数字、五十音表』を記入した紙を置き、その上に硬貨を置いて、参加者全員の人差し指を添える。


 そして、『こっくりさん、こっくりさん、おいでください』と呼びかけると、硬貨が動くというものだ。


(参照:Wikipedia)


 そんな、有名な降霊術によって、シュクの指の上に現れたのは、銀色の九本の尻尾を持つ小狐だった。


「見つけたぞ、って呼び出したのは私だぞ? シルコ」


「うるさい。どれだけワシらが心配したと思っている。フクの奴は泣いておったぞ?」


「マジで? あーそれはマズイことになったかな。でも、そんなに時間は経過してないだろ? 1時間くらいで、そんな……」


「1日」


「へ?」


「すでに、丸1日ワシらはお前を探していたぞ、この不良娘が」


「マージーで!? 時間の流れが違うパターンか、ちくしょう」


 シュクはうなだれる。


 シュクの感覚では、クラウの体で目覚めてからそんなに時間は経過していない認識だったのだ。


「幽体と肉体で感覚がズレた可能性もあるけど……どっちもかな」


「ま、ワシが世界を繋げておるから、世界間の時間のズレは無くなっておるがのう」


「おお、さすが。知名度だけならピカイチの呪いなだけあるね」


「ワシは呪い(のろい)じゃなくて、呪い(まじない)じゃがな」


「漢字で書けば一緒じゃん」


「違う!」


 銀狐のシルコが吠えて抗議する。


「はいはい。じゃあ、占いね。これで良いでしょ」


「相変わらず舐めた奴じゃのう。ワシじゃなかったら今頃酷い目に遭っているぞ?」


「私だから、酷い目に遭ってないんでしょう?」


「……そうじゃのう。1人で『こっくりさん』なぞ、普通はせん」


 1人でする『こっくりさん』は、有名な呪われる方法だ。


「ったく、神霊に呪われたい奴なぞ、他におらんぞ?」


「なんでだろうね。面白いのに」


「普通は、面白いと思う前に死ぬんじゃよ」


 銀狐のシルコは、呆れたように息を吐く。


「それで、その姿も、呪われた結果か?なんで男になる呪いになんてかかっておるんじゃ?」


 銀狐のシルコの指摘を受けて、シュクはニンマリと笑う。


「いいだろ? この世界の王子様の体だ。王族だってよ、王族。しかも、面白い『術』を使って……」


「なんじゃ、別人の体なのか。顔がそっくりじゃから、てっきり性転換の呪いでもかけられたのかと思ったぞ」


「そっくり?」


 シュクは、ペタペタと顔を触る。


「クラウの顔って、私に似ているのか?」


「骨格とかは違うが、親類と言われても違和感がないくらいには似ておる。もしかしたら、そういった『縁』が、お主がこの世界に飛ばされた原因かもな」


 銀狐のシルコの意見を聞いて、シュクは頷く。


「なるほどな。呪いなんかは『縁』の影響を強く受ける。でも、そもそもこの世界、ちょっとオカシイところがあるんだよなぁ」


「呪いで飛ばされる世界なぞ、変な所ばかりじゃろ。鏡の世界とかな」


「それもあるけど、何というか、ゲームみたいなんだよね、ココ」


「というと?」


「ワルイコ!!!!!!!!!」


 銀狐のシルコごと、シュクを潰そうと袋の化物がのしかかってきた。


 しかし、その袋の化物の体は、銀狐のシルコの尻尾、一本で止められている。


「一先ず、状況の整理は後にするか。それで、この粗末な呪いはどうする?追うか?」


「シルコは、今どれだけ使える?」

 

 シュクの質問に銀狐のシルコは少しだけ眉間に皺を寄せる。


「10文字じゃな。世界を渡ったからのう。この状況を維持することも考えると、そのくらいじゃ」


「じゃあ、追うのは無しだな。消すなら2文字で足りるだろ?」


「すまんのう」


「気にするな。こっちに来てくれただけで助かるよ」


「ワルイコ!! ワルイコ!!!!」


 ダンダンと、地団駄を踏むように、袋を被った化物が銀狐のシルコを踏みつけるが、シルコは何の痛痒も感じていないようで、涼しい顔を浮かべたままだ。


「こっくりさん こっくりさん」


 銀狐のシルコが袋の化物の攻撃を受けている間に、シュクは呪文を唱える。


 それは、こっくりさんが質問に答えてくれる呪文。


 質問を、実現させる呪いの言葉。


「あの袋の化物は消し飛びますか?」


 シュクの目の前には、いつの間にか『はい、いいえ、鳥居、男、女、数字、五十音表』が空中に書かれていた。


 そして、シュクの指先にくっついたままの硬貨が動く。


『はい』


「ワルイッ!!!!!!????」


 硬貨が『はい』に移動した瞬間、袋の化物はシュクの質問のとおり、消し飛んでしまう。


「とりあえずは、お仕舞いお仕舞い。一件落着。快刀乱麻を断ちました、と」


 袋の化物が取り込んでいた人の血肉が飛び散っていく。


 その血飛沫の中、シュクはクルリを振り返り、ニッコリと笑顔を向ける。


「シュクちゃんの【祠壊師は呪われたい】ここまで見て面白いと思いましたら、ブックマークの登録、高評価をお願いいたします。皆様の応援が、日々のシュクちゃんの活動の糧になりますから。いや、本当にね。呪いって人の応援とかに弱いから」


 ブンブンと、シュクは無邪気に両手を振った。


「じゃあ、またねー バイバーイ」


 そんな、いつもシュクが動画の最後にする挨拶を聞きながら、クラウは彼女から目を離せなかった。







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