第6話 袋の化物
化物は、頭を潰した男の体を袋に入れる。
「シタイ カイシュウ イイコ イイコ」
その様子を見て、賊達は慌ててシュクに武器を向けた。
「ん?」
「おい、早く殺すぞ」
「ああ、死ねや!!」
「いや、そこの化物じゃなくて私かよ」
短剣と、鎖鎌のようなモノで賊達は攻撃してくるが、シュクはそれを門番が落とした槍で弾き、賊達を吹き飛ばす。
「ぐっ……くそ!!」
「何でこんなに強いんだよ、あの『人喰い王子』が……はっ!?」
シュクに吹き飛ばされた賊の首を、袋を被った化物が掴んでいる。
「ま……やめっ……!」
「ワルイコ ワルイコ ユルサナイ ユルサナイ」
「ふんぎゅうぅぅぅぅぅ」
パンと、弾ける音と共に、赤い血が周囲に飛び散った。
賊の死体を、化物は袋に入れる。
「ぐ……おい!!」
2人、仲間が殺されたのを見て、女性はシュクに話しかける。
「何?」
助けでも求めているのだろうかと、シュクは聞き返した。
「お前、早く死ね」
「……はぁ?」
「王族は国民を守るためにいるんだろうが!! 生きていても役に立たない『人喰い』だろ、お前は! だったら、私のために、私の命を助けるために、さっさと死ねよ!! ほら、剣ならやるから、それで自殺しろ!!」
男は、シュクに向かって短剣を投げる。
「早くしろ! いいだろ、人助けもできないのか、この『人喰い』が!!」
「いや、ちょっと何を言っているか……」
「早く死ねよ! か弱い女性を守ることも出来ないのか!!このヘタレ!だからお前はモテナイんだよ!!早くしろよ!じゃないと、私も……」
そっと、袋を被った化物が、両手で女性の頭を包む。
「ワルイコ ワルイコ イケナイ イケナイ」
「早く!! 死ね! 急いで! しぬふぅんんんんんんぎっ!!」
女性の頭は潰れて、もう何も言えなくなった。
「普通に助けを求められたら、助けたのに……さすがに、自殺しろって言われるとなぁ」
シュクは、別に自分自身が正義の味方であるとは考えていない。
しかし、『祠壊師』という職業をしている以上、人を助けるという場面は多少はあるのだ。
その中では、呪いを解消するためにシュクを犠牲にしようとする者は少なからず存在する。
そういった者達も状況によっては助けることもある以上、賊達が助けを求めれば、動くつもりはあったのだ。
だが、さすがに自殺を望まれると、シュクも動けない。
頭が無くなった女性の死体は、他の2人と同様に袋に詰められていく。
「……なぁ、アレは何だ」
どこか、感情が抜けたような声でシュクの肩に乗っているクラウがつぶやいた。
「さぁ?情報が少ないから何とも……クラウは見覚えはないの?」
「あのような化物、見たことがあるわけないだろう? 私は、後宮から出たことがないのだぞ?」
「ふーん。タヌキの姿になっても驚いていないから、こういったオカルトに慣れているかと思ったけど」
「今俺がいる体は、おそらく俺の『術』で生み出したモノだからな。だが、人を襲う化物は見たことがない」
「……クラウも何か使えるんだ?」
「ああ……王族だからな」
「王族の秘伝的なやつ?」
「いや、そういうわけではない。平民でも使うものは使う。私のモノは平民でも扱わないだろうが」
「ワルイコ ワルイコ ツメタ ツメタ」
2人が会話をしている間に、袋を被った化物は、3人の死体を袋につめこんだようだ。
化物が持っている袋は膨れ上がり、ボタボタと血が溢れている。
「一応聞くけど、そのクラウが使える『術』ってのは、この状況を打開出来そう?」
「そんな便利な術なら、俺は『人喰い』などと呼ばれていない」
言いながら、クラウの手が紅く光っていた。
「だが、この状況なら……もしかしたら、どうにかなるかもしれないな」
「ほうほう。で、どうすればいい?」
「俺の策を使うのか? お前も何か考えがあるように思えたが」
「ま、せっかくだし。そっちの策を試そうよ」
「……わかった。なら、あの建物の中まで逃げてくれ」
「OK」
シュクは、クラウが指示した場所に向かって走り出した。
すると、今までシュクの事を見ていなかった袋を被った化物が反応する。
「アー ニゲル ニゲル ワルイコ ワルイコ」
そして、シュクを追いかけようとするが、ヨタヨタとフラついた。
「オモタイ オモタイ オットット オットット」
「……大人3人の死体が入った袋を担いで走れないのか。意外とショボいな」
袋を被った化物がふらついているのを振り向きながらシュクは確認する。
「重さ200キロの袋って考えると、そりゃあ重いだろうけどさぁ……普通の化物とか怪異だったら、あれくらい……」
「コレ コレ ジャマー ダカラ タベチャウ タベチャウ」
「んっ?」
すると、袋を被った化物は、男達の死体が入った袋を一口で飲み込んだ。
「フー オナカ イッパイ マンゾク マンゾク」
袋を被った化物の体が、大きく膨れる。
「これは、ヤバいかも」
シュクは、走る速度を上げた。
クラウが指定した建物まで、あと少しだ。
だが、間に合わない。
「ニゲルナ ワルイコ」
一つ、トンと地面を蹴っただけで、袋を被った化物は、シュクに追いついた。
「……っ! このっ!!」
シュクは、持っていた槍を袋を被った化物に突き刺す。
だが、その袋の中には、何もなかった。
袋を被った化物は、正確には袋そのものが化物だったのだ
「ワルイコ」
袋の化物は、そのままシュクの頭を掴むと、握りつぶした。
熟れたトマトのように、血が飛び散る。
「ワルイコ コロシタ シタイ カイシュウ」
袋の化物は、シュクの体を掴むと、自分の体から新たに袋をちぎり取って、詰め込むのだった。
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