第5話 前門の門番 後門の賊達


「『人喰い王子』?」


 シュクの質問に、クラウは返事をしない。


 賊達の前で、獣のフリをすることにしたのか、シュクの質問に答えたくなかったのか。


 おそらくは、両方だろう。



(ふーん……なるほどなるほど。さて、どうするか。何となく事情はわかってきたけど、とりあえずは、どうするか……この場を切り抜けるのが最優先か。となると、出来ればアレが欲しいけど、持っていそうなのは……)


 シュクは、門番に目を向ける。


 門番達は、こちらに気がつくと、武器を持って近づいてきた。


「どうしたんですか?」


 門番達は、シュクではなく、クラウの部屋を取り囲もうとしていた賊達に話しかける。


「予定が変更になった。申し訳ないが、このままコイツを連れて行ってもいいだろうか?」


 シュクを……つまり、王子であるはずのクラウを無視して、門番と賊達は、クラウの身柄について話合う。


「申し訳ないが、こんな夜中に『人喰い王子』の外出は許可できない。死体を運ぶだけなら目を瞑るが……」


「そうだな。しょうがない。おい」


 そして、おそらくは賊のリーダー格と思われる女性は、あっさりと王子を殺すという選択肢を選び、男達に剣を抜くように指示をだす。


「あー、ここで流血沙汰はやめてくれ。色々と面倒だ」


 そう言いながら、門番達はゆっくりと門を閉め、鍵をかけた。


 誰かに見られないように。


 もしくは、逃がさないように。


「そいつが素直に着いてくれば、こちらとしてもやらなくてすむんだがな」


「というわけで、『人喰い王子』大人しく我々に着いてきてくれませんかね? そうすりゃ楽に終われますよ?」


 ケタケタと男の1人が笑う。


「どうする?」


 シュクは肩に乗っているクラウに、小さな声で聞いてみた。


「……正直なところ、私だけなら諦めてついていったかもしれないが」


 クラウは、不服そうに目を細めている。


「……私の事を気遣っている感じ?」


「まだよくわからないことも多いが、おそらく、お前は生きていて、そして人に好かれていたのだろう?」


 きゅっと、クラウはシュクの肩を掴む。


「なら、俺なんか事情で、俺の体で死ぬべきではないだろう」


「……ちゃんと人の事を想える、か。偉いね」


「当然のことを褒められても、嬉しくないが?」


 クラウの返事に、シュクは思わず笑う。


「そうだね。当然だ。けど、その当然はとても良いものだよ?」


「さっきから、何を笑っているんだ? 『人喰い王子』」


 賊達が、武器を持ってシュク達に近づいて来た。


「とにかく、ここを切り抜けようか。しっかり掴まっていてね」


「わかった。しかし、どうするつもりだ? あの武器の持ち方は、素人ではない。素手のままでは……」


「そうだね。だから、まずは戦う術を手に入れないと」


 そういうと、シュクは振り返って、賊達に背を向けて走り出した。


「また、逃げるつもりか!!」


「いや、待て!アイツ、バカだ!!」


 賊達はシュクが走り出した方向を見て、追いかけるのをやめる。


 シュクが向かったのは、門の方向だった。


 つまり、賊達に協力をしている門番達がいる方向である。


「……お止まりください、クラウ王子」


 一応、職務中の意識はあるのか、クラウを王子と呼びながら、門番達は槍をシュクに向けた。


 しかし、シュクはそのまま止まる事なく走り続ける。


「しょうがない。我々は殺すなよ。一応、アレでも王子は王子だ。気絶させ、足を折る」


「はい」


 躊躇する事なく、王子であるクラウの足を折ると決めた門番達は、もしかしたら、職務に忠実な優秀な兵士なのかもしれない。


(でも、多分アレを持っているよねぇ)


 そんな兵士達に臆する事なくシュクは走る。


「ハァアア!!」


 殺すな、とは何だったのかと問いたくなるほどに遠慮なく、門番達は槍を振り下ろした。


「よっと……!」


 その槍をシュクはあっさりと躱す。


「足を折るって言って、本当に足を狙うなんて……おじさん達、意外と真面目?」


「コイツッ!」


 2人の門番は、槍を振り回すが、何度振ってもシュクには当たらない。


「グッ!?」


「ガッ!?」


 そして、槍を振り回した隙に、門番達はシュクに殴られ意識を失った。


「……強い」


「呪いの影響でおかしくなった村人に襲われる……なんて、定番だからね。ある程度の護身術も必要なんだよ『祠怖師』には」


 言いながら、シュクは門番たちの衣服を漁る。


「ん、鍵発見。それと……」


 シュクは、目的のモノを見つけて懐に入れる。


 一方、門番達をあっさり返り討ちにしたシュクを見て、追ってきた賊達は慄いていた。


「お前……本当に『人喰い王子』か?」


 賊のリーダーだろう女性の問いに、シュクは目を細めた。


「……それが誰かは知らないけど、この体はクラウのモノだよ?」


 シュクの答えに、女性は怪訝な顔を浮かべるが、その足は後ろに下がっている。


 それは、彼女の逃走の意思を示していた。


「……おい、帰るぞ。予定外の事が起こりすぎている。『人喰い王子』があんな手練れという情報はなかったし、そもそも、私たちはただ死体を運ぶだけだったんだからな」


「そうだな。ったく、ちゃんと死んどけっての。これ、俺達は叱られないよな? あの王子が死んでないのが悪いんだし」


 男の1人が、大きく息を吐く。


「……ん?」


 その頭の上に、何かが乗った。


「なん……だぁぁぁぁぁっぁっっっっっっっっんっ」


 そして、その頭が踏み潰された。


 両足で、挟むようにして。


「ひっ!?」


 突然、同僚が悲惨な死に方をして、女性が悲鳴をあげる。


「ワルイコ ワルイコ ダメ ダメ」


 男の頭を踏み潰したのは、袋を被った、袋を持った化物だった。




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